第12話 異端の獣人
出口に着くと、すぐにさっきの大きな音の正体――大きな異形生物が出口を塞ぐようにめり込み瓦礫に埋まっていた。
辺りはまだ砂埃が立ち込め、出口の上下に開閉する岩壁の扉を異形生物が突進して壊したのだとわかる。
異形生物になった時のラビくんのお父さんより大きい……。これなら大きな身体がつっかえてトンネル内には入れないはず……もし入ろうと更に壊されたら、それこそ土砂崩れのように出口が埋まっちゃいそう。
ガラガラと瓦礫が崩れ、瓦礫に埋まった異形生物が動き出したのを見て、ロウさんは気づかれないようにトンネルの曲がり角まで戻って、隠れながら様子をうかがう。
すると、異形生物は埋まった身体をトンネルの外に引き抜こうと力を込めて、まるで勢いよく栓がスポンと抜けるようにトンネルの外に抜け出した。
ずっと地下にいて空が見えないから、出口から差し込む太陽の光が眩しく感じる。ロウさんが私を下に降ろして、一緒に出口まで近づく。
私は異形生物が壊した瓦礫に身を隠すと、外の様子をこっそりうかがったロウさんが、トンネル脇に倒れたラビくんを発見した。
私がラビくんを呼ぼうとすると――
「クックック……さすがウサギは逃げ足が早いね」
初めて聞く特徴的な笑い方の男性の声が聞こえた。
その声を聞いた瞬間ロウさんがピクリと反応し、拳を強く握りしめた。
「チビ……ラビをここに向かわせるから、奴に見つからないように隠れてろ……絶対顔を出すな」
ロウさんの怒りを抑えたような少し低くなった真剣な声に、私には反論の余地も残く、黙って頷く事しか出来なかった。
ロウさんは素早く駆け出してラビくんの元に向かい、私は見つからないように瓦礫の陰に隠れるように座り込んだ。
ロウさん、さっきの声の男の人を知ってるのかな。ロウさんが隠れてろって言う事は、私にとって会ったらダメな人って事?
「――逃げるなんて嫌です! アイツが父さんを!」
「……逃げる? 今、逃げると言ったのかい? クックック……せっかく半獣のサンプルを持ち帰れるのに逃がすと思うかい?」
「黙れ……」
聞こえてきた男の人のサンプル発言に、ラビくんのお父さんの事といい、実験道具のようにしか思ってない事に苛立ちを覚えるも――そのあとのロウさんの低い声にゾワッとした。
――ロウさんすごい怒ってる――
「そういえばウサギの獣人はどうなった? 騒ぎが起こってない様子を見ると――殺したのかい? クックック」
「黙れつってんだろが!!」
「クックック……図星だったかい? 獣人もたいした事ないね……やっぱり異形生物にするのはコイツのような獣の方が使えるね」
「っ! お前だけは許さねぇ!」
その直後、ドカッと鈍い音のあと壁にドンとぶつかる音がした。グルルルと異形生物の唸り声も迫ってきている。
「ロウさん!」
ラビくんの叫び声に、ロウさんが異形生物に攻撃されたんだとわかり、思わず立ち上がってのぞこうとするのを踏み止まる。
ロウさんに絶対顔を出すなと言われた――神が見つかったら、それこそ実験道具にされるからだったんだ――
「クックック……お前だけは許さない? 貴様は私を知ってるのかい? まったく覚えてないけれど? クックック」
この人を馬鹿にしたような喋り方に、飛び出して行きたい気持ちを必死に我慢して、苛立ちからフルフルと震える。
「ロウさん! 大丈夫!? ロウっうわあぁ!」
「早く逃げろ!」
「チッ」
トンネルの出口の1/3程瓦礫で塞がれた上を、ラビくんが飛びこんできて、ゴロゴロ地面を転がるようにして止まる。たぶんロウさんに投げこまれたんだろう。
ラビくんは起き上がってまた外へ向かおうとした所で私と目が合い、冷静になったのかゆっくりと歩み寄る。
私が小声で「だいじょーぶ?」と尋ねると、ラビくんは黙って頷いて私の隣りに腰掛けた。
視覚的情報がないからあの男の人の事を尋ねたかったけど、またふたりの会話が始まり、黙って聞き耳を立てる。
「狼の獣人……ああ、思い出した――あの時の小さい獣人の子供かい? 確か狼の群れから仲間外れにされていた……クックック……獣は馬鹿だよね――姿が違うだけで家族と認めないなんて」
「家族を馬鹿にすんな!」
「失礼、言葉が悪かったね。丁重に調べさせてもらったよ――異端の獣人である、貴様を生んだ獣を――」
その言葉に私もラビくんも目を見開く。
――ロウさんが異端の獣人?――だから異端の半獣の説明をする時言いにくそうにしてたんだ。
ラビくんに強くなってしっかりしろって言ったのも、過去の自分と重ねていたから――
「――でも、何も収穫はなかった。異端の獣人と異端の半獣は、変化したそのものなんだから、調べたら何かわかると思わないかい? クックック」
「ふざけんな!」
「……ほんと腹立たしい程威勢がいいね。いっそ貴様を異形生物にしたら最高傑作が出来そうだな……クックック」
「腹立たしいのは同感だ!――いかれた人間め!」
「クックック……死なない程度に痛めつけろ」
グルルルと異形生物がまるで男の人の言う事を聞くように返事をした。
「(え!? ことばわかりゅの?)」
「(たぶんだけど、操ってるみたいだった。僕もそれで白衣の男に近付けもしなかったし――)」
小声でラビくんとやり取りして、白衣を着ている以外にも緑の髪でメガネをかけている情報もゲットした。
異形生物にするだけでなく、操るなんて!
それで本人は安全な場所で高みの見物でしょ? 許せない!
「ぐはっ……」
ロウさんの苦痛な声がしてドサッと倒れる音が聞こえ、助けたい一心で立ち上がると――突然腕を掴まれた。
ラビくんかと思ったけど、そのラビくんも私の掴まれた腕を凝視して驚いていた。
――ラビくんよりそもそも手が大きいし……誰?――振り返るとさっきまでは何も無い壁だったのに、黒い靄から腕が出て私の腕を掴んでいる。
え!? まさかこの世界、お化けみたいなのもいるの!? ラビくん助けてと視線を移すと、気を失ってる……。
お父さんが異形生物になった時も気を失ってたし、確かに子供ならこんなの怖いに決まってるね……中身大人の私ですら怖いんだから!
黒い靄を跨ぐように片足が出てきて、更に白銀の髪も見え、思わず叫びそうになった口をもう片方の腕が出てきて塞がれた。
黒い靄から、白銀の髪で赤い瞳の16歳ぐらいのイケメン少年が出てくると、靄は消えた。
少年は普段戦ってもいない私がわかるほどに、強いと感じる威圧するオーラを纏っている。
――怖い……どうしよう!?




