FPS異世界魔法対機関銃戦記
読まないと呪う
ゲームのはなし
「キルレ上がんね〜」
コントローラーを持ちながら俺はそう独り言ちた。
最近やっと1.0を突破して1.2に届きそうなところまで来ているのだが、しばらくゲームに触っていなかった為伸び悩んでいるのだ。
「敵側が全員noobなマッチ起きねぇかな、こんだけやってたらワンチャンあってもいいんだけど」
まあそんなものはない。専用のサーバーにでも行かない限りこのゲームは公平にマッチングされるようになっている。まあどの観点から見て公平なのかはちょっとよくわからないが。
先程のマッチが終わり、次のステージに画面が変わる。何千回も見てきた光景だったが、この時はそうはいかなかった。
「ん?なんやこのマップ、どうなってんだ?」
画面に映し出されているのは何百回とプレイしたマップではなく、見たこともない場所だということがマップの俯瞰図で見て取れた。
「アプデの予定なんて聞いてないしぁ..てかしてないし。DLCも買ってないし、そもそもなんかダウンロードしてるとゲームめっちゃかくつくからわかるんだけど」
見たところ遮蔽物が多そうなマップで、敵陣まで一直線に行けないようになっているらしい。狙撃が得意な俺としてはちょっと嫌だった。
「やめよっかな....まあでも初めてみるし、やるだけやったるか」
画面のカウントがゼロになり、マップ上に舞い降りる。そこはさっきまでプレイしていたゲームとは全く異なる世界だった。
「なんなんだよこれ...理解が追いつかん、疑問しか出てこないんだけど」
グラフィックが全く違う。リアルなんてレベルじゃない、まるでカメラで撮影してるみたいだ。自分のキャラが着ている軍服も、銃もまるで本物のようだった。
「すごっ、めちゃリアルやん」
レンガを積んだ壁に漆喰が塗りつけられている家が道沿いにずらっと並んでいた。東京ドイツ村とかで見たことある光景だった。
どうやら街の中のようで、普段やっているゲームと違って、戦場になり荒廃している様子もない。
そしてもう一つ。
「なんでNPCがいるんだ!こんなアプデあったっけ?」
自分がリスポンした場所はその街?の大通りらしく、往来しているNPCからの視線がすごい。一緒にリスポンしてきた味方も辺りを見回している。
「いや〜すげ、取り敢えずどうすっか」
多少混乱していたが、分隊員が敵陣目指して走り出したので俺もついていく。しかしなかなか前に進めないのだ、理由は単純。
「は?クソ、超邪魔なんですけど」
マップのギミックの一部だと思っていたNPCも当たり判定があり、とてもダッシュがしづらい。
イライラした自分はメイン武器の機関銃を進行方向に向けてぶっ放した。
正面にいた十数人が被弾し、悲鳴をあげながら転がる。
内何人かは腹部に命中していてドス黒い血を石畳の上に撒き散らしている。
「おっほ、こういうところまで作り込んであるんか。リアル志向はいいとおもうわ」
若干リアル過ぎて気持ち悪いが、ゲーム内のことだと割り切ればどうということもない。
所詮これらは作り物だ。
周囲にいた通行人も殆ど通り上から逃げており、遠くまで見渡せて都合がいい。
なるほど、こういうシステムなのか。
「ん?なんだあいつ」
横の路地からNPCが一体突っ走ってくる。
その手には剣らしきものが握られており、俺を指差しながら何か早口で喋った後、俺に斬りかかってきた。反射的に格闘戦ボタンを押して、棍棒でそいつの頭をかち割る。
とても気持ちがいい。
「やっぱ格闘成功すると気持ちええな、最高やで。でもこれ敵対的なNPCだよな、こんなんオンゲーじゃ邪魔なだなんだけども、運営何考えてんだろ」
戦闘時に後ろからざっくりされたらイラつくどころの話ではない。コントローラー投げるレベルだ。
「まあいいや、いくで〜」
モタモタしているうちに味方に置いていかれてしまったので急いで合流する。画面端のミニマップを拡大して皆がどのへんか確認する。
「もうそこまで進んでるんか、やばいな」
基本どのゲームもそうだが、敵は多数で囲んで倒すものだ。孤立している今の自分は敵にとっていい的なので早急に味方に合流する必要があった。
迂回するのが面倒なので、建物の中を通ってショートカットできるか試してみる。
ドアが開くか確かめるが、カギがかかっていた。
「めんど、グレで開けるか。」
グレネードをドアめがけて投げつける。
数秒ののち炸裂し、木製のドアを吹き飛ばした。
そのまま中にはいり、反対の出口向けて走り出す。
後ろから追いかけてくるNPC がいたが、無視して裏手の小道に出た。ダッシュ時のスピードはこっちが上だ。
幾つか建物を挟んだ向こう側にフラッグがあり、そこで味方と敵が交戦中らしい。
キルログが敵味方のもの問わず流れて来る。
早く合流するために又建物の中を通っていくことにした。
回り道していたら間に合うかわからだ。
「こっちもロックされてんやん」
普通全てのドアは開いた状態になっているのだが、味方が通った時に鍵をかけたのだろうか。
仕方がないので銃で蝶番を吹っ飛ばした後蹴破って侵入する。
ヒュッ
「おわっ!あぶね!」
頭上を矢が掠め、反射的に伏せる。
中には大量のNPCがおり、こちらに武器を向けているのだ。
長机をひっくり返してその裏に陣取っている形だ。
「なんやこれ一体..なんなんもうゲーム違うやん..」
少し時間があればこいつらと戯れてもいいのだが、今は未占領のフラッグをどれだけ占領できるかが掛かっている序盤戦なので遊んでいるわけにもいかないのだ。
建物から少し離れて、伏せた状態から弾をばらまいていく。
NPCは一発かすっただけでも怯んで頭を出さなくなり、しょうがないので隠れている机ごと吹っ飛ばしていく。
自分の愛銃のM1919ブローニングの使用弾は強装弾の7.62mm弾の為、木製の盾など容易く貫通できる。さらに石造りの建築物などにも効果があり、時間は掛かるが確実に粉砕できる。
とまあそんな感じでかなりな数を始末した。
残りは自分と反対側の入り口から逃げ出したみたいだ。
「それにしても奇怪な動きするNPCやな、でもめっちゃリアルでええやん!銃乱射事件の犯人の気持ちがわかるわ」
目の前の脅威から逃げるプログラムを組むのはどれだけ手間がかかるのだろうか、そう考えながらジョイスティックを操作していたら
無事味方と合流できた。
あ
「一件落着ですわ」
フラッグの場所は円形の広場で、そこから放射状に道が伸びている。
その何方向からか敵が進行してきており、味方はその防戦に当たっていた。
自分の愛銃のM1919は低伸性が優れているので大通りの物陰から狙撃している兵士を狙う。
「うーん、やっぱり機関銃で遠距離射撃は気持ちええな!うざったい狙撃兵なんか目じゃないね」
伏射姿勢になり、三脚を展開して銃のブレを減らすと恐ろしいほど射撃精度が上がる。
「あぁ^~きもちええんじゃ〜」
狙われないだろうと油断していたのか三人ほどの狙撃兵が隠れませずに射撃していた。
そこに7.62mmをありったけぶちまける。
100発ほどで奥にいた狙撃兵は全て沈黙し、手前側の機関銃兵、小銃兵に目標を変える。
だがここであることに気がついた。敵に弾が当たらない。
そして敵が盾にしているNPCの死体がいつまでたっても消えないのだ。
マップ付属のオブジェクトは破壊したりなどの変化を加えると消えてしまうのだが、なぜか今回はマップ上に残り続けているのだ。
そしてなぜ気がついたかというと、敵の小銃兵がNPCの死体の陰に隠れて銃撃してきているからだ。
大きな建物の入り口付近で山を作っており、その陰から盛んに発砲している。
そこにさっきから全力で射撃しているが全く弾が通らない。
まるで本物の死体の山のように弾を防いでいる。
このゲームの当たり判定は弾道上にいる全ての敵に対して有り、死体が判定を吸うなんてことはありえない筈だ。
「フザケンナよ!当たんねーだろカス!」
一般的なFPSプレイヤーの典型的な罵倒を吐き出した後この謎の現象がなんなのか足りない頭を使って考える。
だが先程からあり得ないことが連続して続いており、この時少し感覚が麻痺していたのだ。
「クソ運営これ絶対サーバーエラーとかだろ、こっちは金払ってんだぞしっかり管理しろや」
自分がアクセスしているサーバに何か異常が生じていると結論付け、目の前の敵をどう始末するか考える。
その後やったりやられたりな膠着状態が続いたが、突然敵陣の側から眩い光がしたかと思うと、地を揺るがすような大爆発が発生した。
「おわっ!ステージの演出かな?」
各ステージにはそれぞれ固定式の大型兵器が設置されていることが多く、今回も味方の誰かがそれを使ったのではないかと推察した。
てかそれ以外に思いつかなかった。
「一発で向こうの敵半分ぐらい吹っ飛んだで。流石にぶっ壊れでしょ」
これがもし自分に降りかかってきたらとても回避できる自信がない。
全く予備動作なしで発生したので避けるのは不可能だ。
「運営ももうちょっと考えろよな、膠着状態が続くのが良くないからってこんなぶっ壊れだしたらつまんないだろうが!」
愚痴を垂れながら敵陣に向かって前進する。
こちらに向かって撃ってくるやつがいるが、数の差というものは偉大で、光線が何方向から飛んできて忽ち沈黙する。
「うわ怖え」
小学生並みの感想を呟きながら自分も攻撃する。
立射ではなかなか当たらないが。
その後、狙撃避けに呑気に伏射しながら匍匐で前進していると正面に変な動きをしているNPCを発見した。
黒いマントのようなものを羽織り、背丈と同じぐらいの長さの杖を持っていた。
そいつが杖を振ると人の頭ほどの火球がそいつの頭上から現れ、勢いよく敵チーム側に降り注いだ。
何人かが直撃し、一撃でキルされていた。
敵もこりゃたまらんと後退し始める。
「すげー、運営の頭がいかれちまったみたいやね。こんなわけわからんやつどうすりゃええんや」
リアルな第二次大戦を売りにしていたゲームだが、魔術師が出てくるとは頭がイかれたとしか思えなかった。
イースターにしてもやりすぎだし、今はイースターではない。
敵も殿が盛んに反撃しているが、正面に何か見えない壁でもあるように弾が弾き返されていた。
そして敵側が壊滅すると今度はこちらに攻撃を仕掛けてきた。
光る太い針のようなものが無数に飛んでくる。
「おわっ!あっぶねーなこの野郎、吹っ飛ばしてやるわ」
さっき全滅した敵側は元々俺たちと撃ち合っていたので爆発物などは全て消耗していた状態で戦っていたが、こちらは少し時間的余裕があったのでそれらを補給することができていた。
「おっしゃ!くらえ必殺のパンツァーファウスト!」
素早く武器を持ち替え構える。第二次大戦末期のドイツが開発した携帯対戦車火器で、しかも後期型の大型弾頭なので200mm相当の鋼板を近距離から貫徹できる性能を持っている。
一瞬で狙いをつけて発射し、素早く身を隠す。以外と難しいが、これができないと一人前とは言えない、そんな技だ。
放たれた弾頭はわずかに弧を描き命中する。
バリアのようなもので防がれると思ったが、第二次大戦末期のソ連の重戦車をも撃破することを目的とされた弾頭は自身を炸裂させるとともに内部の漏斗のような形状をした金属を一瞬で昇華させ、メタルジェットを発生させる。
それは生半可な威力ではなく、易々とバリアを貫徹すると、内側にいたNPCに襲いかかった。
どうやらバリアはそのキャラクターを中心として球状になっていたらしく、爆風がバリア内部にだけ広がった。
どうやらキルできたようだ。
アナログパッドを操作して視線をそちらに移すと、黒焦げでバラバラになった死体が散乱していた。
「R-18指定だからってキモすぎるだろこれ
こんなアプデあったか?」
自身が行ったことだがドン引きしていた。
ゲームとは思えないようなリアルな描写にたじろぐが思い起こせばもっとグロテスクなゲームを普段からやっていたのですぐ何も思わなくなった。
これはゲームでリアルではないのだと。
フラッグの占領が終わったので次のフラッグに向かう。
さっきまで戦っていた場所が丸々フラッグの範囲内だったのだ。
マップを開いて一番近いフラッグを確認する。
どうやらここから北へ150mほどの場所らしい。
分隊員が何人か入れ替わって今は自分が分隊長なのでそのフラッグを目指すよう指示を出す。
幸い野良プレイヤーも何人かついてきてくれるようだ。
環状になっている広場まで一旦戻り、そこから北へ伸びる大通りに沿って走る。
拠点を占領すると輸送車両や軽装甲車などが沸くのだが、このマップではそれは無いようだ。
「めんどいんですけど、アプデ来たら改善されっかな?」
これまで改良という名の改悪しかしてこなかった運営なので多分無理だろうな〜、など考えていると、脇道から十数人程の集団が目の前に飛び出して来た。
反射的に引き金を引いて集団を舐めるような感じで射撃する。
ビックリしてAIMを操作するパッドを思い切り動かしてしまったからだ。
この銃は最低でも胴体に四発入れないと敵が倒れないので、本来はこんな射撃方法をしていたら1人も倒せずにキルされてお終いだ。
しかし、幸運にも飛び出して来た集団は敵チーム側ではなく、例の奇っ怪な動きをするNPC達だった。
一発でも食らうとその場に倒れ込み、呻き声や悲鳴を上げ始めた。
奴らの中にはかなり重そうな鎧を着込んでいたものも居たが、銃弾はそれごと貫通したようだった。
「うわっ!うるさっ、そしてキモい」
大声で聞くに耐えない声で騒ぎ始め、とても五月蝿い。目障りなのでサブアームでトドメを刺す。
パパパパッとそれぞれの頭に45ACP弾を撃ち込み黙らせる。
9mmや8mmとは違う大きく重い銃声を奏でるのは、大正義M1911コルトガバメントだ。
装弾数が8発で、ちょっと少ないのが玉に瑕だが、全ての性能が平均値にまとまっているので使用するプレイヤーは多い。
他のオートマチック拳銃は胴撃ち5発なのだが、この銃は4発で済む。ヘッドショットなら2発だ。
11.45mmという大口径はこのよくわからないマップでもちゃんと本来の仕事を果たしてくれた。
とりあえず一弾倉分を撃ち切りリロードしていると、倒れ伏しているキャラの中にこちらを睨んでくる奴がいた。
女性キャラで、ビキニのような格好をしている。
そのせいか全く銃弾が防げておらず、腹に何発も食らって口から血を流している。
面白そうだったので近づきながら屈伸していると、早口で捲し立てるように喋り、目にも留まらぬ速さで俺キャラの足にナイフを刺して来た。
「こいつうっざ、殺すわ」
正直カスみたいなダメージだが、とてもムカついたので、先にコイツ以外の残りを始末して、近接戦闘用の棍棒で殴ってみた。
頭を殴ると確定キル判定が出てしまいそうなので、足の先から頭までじっくりと殴る。
虫の息なのだが面白いように声を出すので、つい連打してしまう。
「Foo!たまらんねぇ」
ずっと続けていたかったのだが、何十回目ぐらいには動かなくなってしまった。
「いや〜こういうことが出来るならクソマップでも許せるなぁ」
クソみたいな仕様変更に、これまたクソみたいな新マップだが、イライラした時にこういうものに当たれるようにしてくれた事はありがたい。
「よっしゃ!行くか!」
またフラッグへ向かって走り始めた、こちらのチームは半分以上のフラッグを占領しており、勝てそうな予感がしていた。
えっ!?読んだの⁈