涙で人生は救えない
数ページの短編です!
お気軽にどうぞ( ´∀`)/~~
皇太子との婚約から五年、貴族の婚姻にしては遅いとも言えるほど時間をかけて愛情を築いたつもりだった。
「ミリア・フォン・リオンヌ!謀叛を共謀した罪により死刑と処する!」
その結果が、この仕打ち。
一年前に巷で話題の聖女様が現れた頃から、覚悟はしていた事だった。
茶会や逢瀬の頻度が減り、ついには途絶えた。
誘いを断られ続けるようになってから、何度泣いた事だろう。
人見知りで、家族以外には婚約者である皇太子と皇族としかあまり関わらなかった事が仇となった。
それでも良くて婚約解消、悪くて出家で済むと読んでいた己の甘さが嫌になる。
どうして愛があると信じてしまったのだろう。
どうして話し合いの一つもせずに我慢してしまったのだろう。
処刑台に上りながらも思いは溢れて止まない。
せめて最後だけは、泣かずに凛と胸を張ろう。
浮かびそうになる涙を堪え、ちらりと皇族が控える席を覗くと、苛立たしげな元婚約者の側には聖女様がいた。
「そう…そういうことなのね。」
皇族席に並んで立っている。
つまりは、皇族の意向ということだ。
瞬間、馬鹿らしくなった。
見上げた空は憎らしいほど青く、清々しい快晴だった。
来世では思うがままに生きよう、と妙に晴ればれとした心持ちで断頭台へ首をかける。
「馬鹿な人ね。…さようなら。」
迫る刃の音を最後に、意識が落ちる。
どうか来世こそは、幸せになりたいと思った。
ーーー思った。確かに思ったわ、けれど!
次に目を覚ました時、ミリアは五歳に戻っていた。
暖かい日射しが、天蓋によって柔らかな光となり降り注ぐ朝のこと。
侍女に起こされるより早く朝支度を終え、ベッドサイドに置かれた水を飲みながら考える。
「私、生きてるの…?」
軽く手の甲をつねるも赤みがさすだけ。
何度か瞬きしても、目に入るのは何一つ変わらない調度品。
「何が起きてるの……。」
体をぐっと伸ばしながら、様々な案が頭に過る。
しかしながらあり得ない現実と眩しい朝日に、くらりと倒れそうになった途端、ノックし入ってきた侍女が悲鳴をあげる。
「お嬢様!!?」
あ、と思った時にはもう遅く、慌てて寝台に戻され、額を触られる。
熱がないことを確かめ、何かあっては大変とメイド長の元へ走ろうとする侍女の腕を掴み引き留めた。
「大丈夫よ。」
「でもお嬢様!」
「朝日が眩しかっただけなの。」
「では天蓋を変えましょう!」
「大丈夫、本当に大丈夫だから。ほら、お父様やお母様が待っていらっしゃるわ。」
「…お嬢様がそう仰るなら、かしこまりました。」
次はありませんよ!とまるで悪さをして怒られたかの様な言葉の後、侍女に連れられ食堂へ向かう。
朝の早い両親は既に席についており、こちらに気づくと慣れた笑顔を浮かべた。
「おはよう、ミリア。」
「ごきげんよう、お父さま、お母さま。」
「今日は早いのね。嫌な夢でも見たの?」
あれは、嫌な夢だったのだろうか。
それにしては厭に現実味を帯びていた。
「わたくしも大人になったのですわ。」
「まあ、ませちゃって。」
「ミリアは未だ大人になどならなくても良い!」
「あら、女の子はいつだってレディよ。ねえ、ミリア?」
少しだけ寂しそうな父を、優しく見守る母。
そこには、斬首刑が執行される前に閑職に追いやられ窶れた父や、心を病んだ母の姿はない。
この穏やかな時間が奪われるなんて思いもしなかった。
未来の予知か、体験した事実かなど些細な問題だ。
可能性があるならば潰すのみ。
「お父さまとお母さまはわたしがまもる!」
「あらあら。」
「ミリア…?」
「お父さまお母さま!だいすきよ!」
「ミリアァァァ!!」
一気に書きます!
一応終わりまでは考えているので、応援してくださると励みになります!
お願いします( ´`)
皆様が、少しでも笑って下されば幸いです。