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六花  作者: 五嶋 雛子
1/1

心の居場所

1.もしも僕がこの手を離したら、君は僕を追いかけてくれるだろうか

今年も重く湿った雲が、空いっぱいに広がっている。都心から少し離れた我が家から、いつも通う道とは違う、けれど慣れた道へと車を走らせる。

きっかけはいつもと同じ、六花からのメールだった。

「もし良かったら、今年も遊びに来ませんか?***六花***」

そんな言葉にふらふらと引き寄せられるように、今日もまた彼女の家までの道を車で急ぐ。アクセルを踏み込んで、まっすぐ伸びた道を、スピードを出して急ぐ。

六花にしてみれば、きっと退屈になったか、何かに行き詰まっただけなんだろう。それが分かっているのに行く僕は、馬鹿にしか見えないだろう。

しばらく走ると住宅も数少なくなり、窓の外を駆け抜けていく風景に緑が多くなる。

トンネルを抜けると、泥と混じり合って黒くなった雪が、道端にちらほら見えた。この辺りは山ひとつ超えるたびに、冬が強くなる。車で2時間、ほんの少しの距離に思えるのに、こんなにも違う。

(近いようで、遠い。無理をしなくても行けるけれど、ちゃんと時間を作らないといけない場所だな)

この距離に僕らの関係を当てはめて考えてしまうのは、どこか感情的な気持ちに浸っているからだろうか。

山道で大きくハンドルを切って、さらに山へと入っていく。この山を越えれば、彼女の家まで、また少し近づく。家から遠ざかるたびに、どこか現実からも遠ざかっていくようで、俺は少しの罪悪感を振り払うように、またスピーカーの音量を上げた。

(なんで好きになっちゃったんだろうな)

ラジオから流れる音楽は、片想いの切なさを歌っていたけれど、心の奥に響いてくる

ほどの愛は感じなかった。

簡単に好きになれる人は、簡単に忘れることができるんだろうか。それはそれで、どこ

か羨ましさを感じる。


数年前、親友の貴弘が死んだ。その場所に、彼女は今も住んでいる。親友と寄り添いあうようにして生きていた彼女は、1人では生きられないタイプに思えた。しかし、実際のところ、心情的によりかかっていたのは貴弘の方であったように思う。

「六花はさ、強いんだよ。僕にとっては、恋人と言うよりかは姉であり、母に近いかもしれない」

そう言っていた貴弘は、見かけとはまったく違って脆いところのある男だった。

貴弘と六花の二人が出会ったのは偶然のこと。カフェで相席を頼まれたところを快く受けた貴弘が、六花の持っていた本に興味を示して、二人でその本について盛り上がったのがきっかけだったと聞いている。

その本はとても淡い純愛を取り扱った恋愛小説で、恋愛小説など普段は読まない貴弘が興味を持ったことが意外だった。

「帯にあった言葉が印象的だったんだ」

ぽつりと呟く貴弘に、どんな言葉だったのか尋ねたけれども、決して答えてはくれなかった。

貴弘は一見すると恐そうなのに、いつも六花からは可愛い人と言われていた。

筋肉質で大きな身体に、つぶらな瞳。素顔が少し幼げに見えることを気にして、顎ひげを生やしていた。なかなか身体のサイズに合う服がないからと、海外ブランドの服で揃えていたことも、誤解を生む一因だった。

末っ子らしい甘えたなところがあるくせに、年下の人間には豪快で面倒見も良く、仲良くなればなるほど見た目とのギャップが激しいなと感じさせるような性格だった。

反面、彼女は抱きしめたら折れてしまいそうな細い体格で、いつもゆったりとしたボーダーのシャツを着ていた。シンプルだけれども趣味の良い服装は、動きやすくて軽快で、彼女の細さをさりげなく隠していた。細身の体格のせいもあって、丈夫でこそなかったが、付き合いが長くなればなるほど芯の強さを感じさせ、時には頑固とさえ思える気の強さを秘めていた。

そんな六花も貴弘の前では強さがなりを潜め、優しさと弱さが前面に出ていたように思う。2人はちょうどいいバランスだったんだろう。

彼女はいつも温かく微笑んでいて、貴弘の事を見守っていた。たまに彼が自暴自棄になっていても柔らかな視線を注ぐ彼女は、ひとつ膜を隔てた向こう側に居るかのような落ち着きがあり、それを見ている僕は貴弘を羨ましくさえ思った。

(そんなふうに愛されていれば、僕たち夫婦の関係も変わったのかもしれない)

おそらく今日も家にはいないであろう妻のことを思い、そしてそうさせてしまった自分の事を考えた。

それでも六花のこととなると衝動的になってしまう自分を抑えられそうにもなかった。

(貴弘のことがなければ、俺たちの関係は何か変わっていただろうか)

人は自分が生きられなかった人生に、ふと思いを寄せることがある。それはきっと、後悔でもなく羨望でもない。どこか未来への郷愁にも似た気持ち。

ラジオでは相変わらず、愛を求める歌が流れている。愛が何なのか、俺にはまだ分からないけれど、今自分が感じている感情がそれではないことだけは分かった。


貴弘が死んだ朝。六花は1人で泣くこともせずに淡々と警察を呼び、現場に立ち会い、全てが終わった後で、やっと俺を呼んだ。

「貴弘が死にました。連絡が遅くなってごめんなさい。どうやら自殺のようです、私宛の遺書が一通、弘輝さん宛の遺書が一通残されていました。***六花***」

そんなメールを受け取ってすぐに段取りを付けて、彼らの家へと向かった。

駆けつけた僕が家の呼び鈴を鳴らしても、誰も玄関には出て来ず、家の玄関扉に手をかけると開いていた。

いつも二人が気に入って座っていたリビングのソファにも、ダイニングの出窓にも、主寝室にも、客間にも人影はなかった。

どこか不安を感じた僕は、さらに浴室、ロフトと家中を探し回ったが、彼女は見つからなかった。

ちりん。音がした方を見ると、ベランダで猫が一匹、こちらをじっと見ていた。小さな茶色の子猫だった。

「猫を飼おうと思うんだ」

そんな話をついこの間、貴弘から聞いていた。猫嫌いじゃなかったか?と問いかけると、好きな人が猫好きなんだよ。と、笑っていた。

お前と一緒だ。そうやって笑っていたけど、俺は猫より犬の方が好きなんだ。とは言えずに、そのままだった。

きっとあの時に話していた猫だ。そう思って、そうっと近寄って話しかける。

「お前のご主人のところに案内してくれないか?」

にゃーん、と言葉が分かったのように一声、返事をすると走り出す。思いのほか速い足取りに、 嫌な予感が的中したんじゃないか。そう思って、猫を追ってベランダから視線を走らせると、だいぶ先に子猫が座り込んでいた。その横、ちょうど雪の中に埋もれた赤い点が見えた。

あの猫に導かれなければ、そのまま気がつかなかったかもしれない。

「六花!!」

あの赤い点が血でなければいい。焦ってベランダから地面へと、猫と同様に飛び降りていた。あの小さな生き物は、こんな寒い中で俺を待っていたのか。

雪の中を埋もれながら駆け寄ると、身体が震えた。彼女まで死んでしまっていたら。そんな考えを振り払うように、彼女の上に振り積もった雪を払いのける。

雪に埋まる六花が目を開けたのを見た時、何かあったら僕を呼んで。だから、もうこんなことはしないで。と、頼みこむように言葉を絞り出した。

本当は雪と一体化した君はとても綺麗で、真っ白な肌はさらに白く。指先だけが赤くなっていた。その様子があまりにも綺麗で、見惚れそうになった。

そのまま降り積もる雪が、彼女を覆い尽くしていたら。きっと柔らかに彼女を包み、そうっと命を連れ去っていたんだろう。そちらの方が正しかったんじゃないだろうか。そんな考えが頭をかすめた。

「死にたがりなの、彼も、私も」

たちの悪い冗談のように微笑んで言った六花の言葉を思い出す。あいつは本当に自然に死んでしまったから、彼女も死に惹かれるようになった。


それから毎年、冬になると六花からメールが来るようになった。時には1週間と間を開けずに来るメールに、翻弄されながらも駆けつけている。

俺が仕事で忙しい時には、どこか遠慮をしたようにメールは届かなかった。仕事が忙しいかどうかなんて、彼女には分かるはずもないのに。どこか見計らったように来るそれは、少しずつ僕を過去へと引きずっていく。

あの日、彼女を見つけた俺は、半ば強引に家の中へと抱きかかえて連れ戻した。抗う気力も体力も六花にはあるはずもなく、それが分かっていたから必要以上に強く抱きかかえていた。

貴弘は強そうに見えて、弱かった。六花は弱そうに見えて、強かった。けれども、その強さは脆いものだったのに。なんで気がつかなかったのか。

そっとリビングのソファに下ろそうとすると、いつものところがいい。カフェオレが飲みたい。と、珍しく頼みごとをしてきた。

あの日が、彼女がわがままを言い始めた初めての日だ。

「好きになんて、ならなければ良かった」

自分の口から出た言葉かと思って、驚いた。カフェオレボウルを包み込むようにして持ち、まだ湯気の立つ中味を見つめながら、彼女が呟いていた。

自分の気持ちをなぞられたようで、少し怖かった。

窓辺のちょっと出窓になったところ、子供が喜んで登りそうなそこに膝を抱えて座るのが彼女の指定席だった。ひざをまとめるようにして抱えた腕は、何かを必死で守ろうとしている。

「なんで好きになったんだろう」

貴弘のこと?とは聞けなかった。聞かなくても分かっていたからだ。もう一度繰り返して、俺の顔を見ながら彼女が言う。

「なんで、好きになったんだろう?」

俺の顔を通して貴弘を見ながら、そんなことを聞かないで欲しい。辛くなって目を逸らした視線の先には、貴弘と俺と六花が三人で笑う写真が今も飾られている。

この家は、いつまで経っても変わらない。むしろ過去にしがみついているみたいだ。今でも貴弘の服はそのままクローゼットに置いてある。あの頃置いていた物より増えるわけでもなく、減るでもなく。

ただ、そこに留まるためだけに、この家は存在しているみたいだった。



雪で赤くなった指先。そっと包み込むと、あったかい。と寂しそうに微笑む。

でも、きっと君の胸の中に居るのは、まだ貴弘だ。何年経っても、忘れられることのない、それなのにさっさと自分だけ往ってしまった。

(狡いよな、心だけ置きっ放しみたいでさ)

とっくに死んでしまった人間に、やきもちをやいている。しかも彼の彼女に、勝手に片想いをしているのは俺の方なのに。

後から来たくせに、おもちゃを先に持っていた子供が、それを持ち去ったことに拗ねているだけの幼さのようで。

いびつな恋のかたち。俺には好きな人が居て、妻が居る。その妻には好きな人が居て、彼女も好きな人からは想われていないようだ。

俺も妻も自分の相手は見ていないくせに、壊れてしまいそうな心を保つために、社会に向けてパートナーという形を保っている。それも夫婦の形と言ってしまえばそれまでだが、それでも心は別々の方向に向いている。

それなのに、僕と六花は寄り添っている。こんな寒いとこに1人で居るから、余計に辛くなるんじゃないかな。そう言った僕に、悲しげな瞳でそのためにここに居るの、と言った。

それなら、僕を呼ばなければいい。と、言いかけて、辞めた。きっと口に出せば、僕は君に二度と会えなくなる気がしたから。とても弱いくせに、1人では辛すぎるところに住み、彼の思い出の中で崩れそうになった時、僕を呼ぶのだ。

柔らかく、冷たい手のひらを包み込みながら、この温かさと一緒に気持ちが染み込めば良いと思った。


「僕のところに来る気はない?」

言葉を発してから、後悔した。何度となく、言おうとして辞めていたのに、こぼれ落ちるように発してしまった言葉。

真っ白な雪の中で、君がどんな顔をしていたのか。僕には分からなかったけど。

きっと嬉しそうな顔じゃなかったことだけは、想像がつく。

「それもいいかも」

そう言って、振りかえった君の顔は、やっぱり俺には見えなくて。

声が少し震えていることだけが分かった。

「嘘」

「うん」

「ごめんね」

「謝らなくていいよ、俺が悪かった」


一緒に居るのが辛いの。

ごめん

違う。

何が違うの

言えない

言えない言葉を聞きたくなるような、そんな言葉は発さない。そういうのが大人だと思っ

ていた。だけど、人は時としてそういう言葉をこぼしてしまうのだ。

大人でも子供でもそれは変わらない。

「もう、来ない方が良いかな」

「違う」

「じゃあ、僕はどうすればいい?」

三人で映る写真を、そっと隠して。

僕は彼女を抱きしめる。

最初はだらんと垂らしていた腕を、そっと僕の背中にまわして。


どこにも行かないで。そう言葉にしたら、彼はどこかに行ってしまいそうな気がした。

手に入らないから、追いかける。

心配だから、来る。

きっと、恋心にも似た淡い気持ち。それはこちらが執着した途端にはじけ飛ぶような、薄い膜に包まれている。

(きっと私たちは両想いになることはないんだろうな)

貴弘と出会ったときに、同じ人を好きになる匂いを感じた。

どことなく同じ感性は、一緒に生きていくのにはよくても夫婦になるには近すぎた。

きっと貴弘が好きになったように、私は光輝を好きになる。

そんな話をしたことがあった。

柔らかく笑う貴弘が、少し切なそうに「君は堂々と思いを告げられる分だけ僕よりも光輝との未来が見えるんだね」と言った。その代わり、僕はこれ以上近づくことは出来ないけれども、恋ではない存在としては一番近くにまで近づくことが出来る。きっと、それは恋よりも薄いけれども、恋よりも丈夫なもの。

僕らはそうしてお互いにないものを羨ましいと思いながら、きっと二人で寄りかかり合って生きていく。

そう言っていた。

既に光輝には妻が居る。大切に、大切にしている、奥さん。それを知った時には、どこか胸が痛い気がしていたけれども、光輝に対する感情は恋ではないから、誰かに大切にされている女性に対する羨望だと感じていた。

貴弘を追い求めていた気持ちに嘘はなかったけれども、今思えばそれは弟を思うような、大切だけれども重なりあいたいという気持ちとは別の感情だったように思う。

僕たちは、寄りかかり合う。

そう、支え合うのではなくて。

お互いに弱いところを寄りかかって、埋めながらしか生きていけない弱い存在。





「今日は藤原先生の退官記念パーティーだって言っておかなかった?」

彼女からのメールは、ただ事実のみを書いてあるだけに怖かった。きっと珍しく怒っているに違いない。

むしろ途方に暮れている、と言った方が正しいのかもしれない。

僕らはお互いの生活に過干渉にならないように生活してきた。それは、きっと守るべき、

見えない一線があって、社会に対してのちょっとした防御壁のようなようなもの。

そこさえ守っておけば、誰かに表だって何かを言われることがない。そんなくだらないけれども、必要な壁に小さなひび割れを入れてしまったようなものだ。

ただ、今は彼女のそばを離れることは出来なかった。

今、離れてしまえば彼女は永遠に僕のものにはならない。

( 僕のものに、したいのか?)

妻が居て、仕事があり、居場所がある。そんな安定をなげうってまで、ここにくることができるのかどうか、今はまだ自信がなかった。

ただ、天秤に掛けたら、今はここに居たいという気持ちがあるだけだった。

彼女のそばで、ただ見守っていたい。守ってあげたい。

(貴弘、お前もそんな気持ちだったのか)

ほんの少しの羨望を胸に、貴弘と彼女が暮らしていた生活を思い出そうとする。

二人はいつも適度な距離を保ちつつも、どこか守りあい、支え合っていたように思えた。

それはきっと社会的にみれば強い者同士の傷のなめ合いにも似た、なにかだ。

二人とも脆いくせに、身内にしか弱いところを見せられず。本当に大切な人には、一番甘えることが出来なかった。

その結果、貴弘は僕の知らない誰かを思いながら、六花を置いて死んでしまったんだろう。

「六花のこと、頼みます。いろいろとごめんな、ありがとう。大好きだったよ 貴弘」

丁寧だけれども、どこか素朴な味わいのある貴弘の字を見て。本当の彼がここに表れていると思った。

俺は結局、貴弘のことをどこまで知っていたんだろう。

そんなことをふと考えた。死を選ぶほどに好きだった人のことを何も知らず、ただ六花と二人、幸せに暮らしているように思っていた、のんきなあの頃の自分にはもう、戻れない。

遺書にあった言葉を、またなぞってみる。

「六花のこと、頼みます、か」

最終的に貴弘にとって、死を選ぶほどに好きだった人間は彼の事を思ってはくれなかったものの、六花のことも死の最後まで思いやるほどに大切だったことには変わりない。

それだけでは六花は多分、納得できないだろうけれども。

彼女にはその事実を告げる気はなかったし、告げても何かが変わるとも思えなかった。

現実は時として真実を含んでいなかったりもするけれど、幸せのために必要なものは目に見えることだけの時もある。

寝がえりをうつ、彼女にそっと毛布をかける。

「このまま目が覚めなければ、君は僕だけのものになってくれるだろうか」

そんなことを考えながらも、また微笑む君の顔が見たいから。僕だけの眠る君よりも、微笑みながらも別の誰かを思う君の方が好きだ。と、思えた。

「はやく、貴弘のところから戻っておいで」

そう言って、六花の身体を毛布の上からぽんぽんと叩くと、そっと扉を閉めて寝室を後にした。


「貴弘のところから戻っておいで、って」

帰る場所は光輝の所だとでも言わんばかりだったけれど。きっとそれは現実に戻っておいで、という意味なんだろう。

それでも呼べば来てくれる光輝が私の事を思ってくれているのか、親友としての貴弘の彼女だったからなのか、判断がつかなかった。

それでも求める手に差し伸べられる優しさを手放したくなくて、あえて風邪をひくようなことをした私を見捨てず、傍に居てくれる。

真っ白な天井に、腕を伸ばしてみる。熱で朦朧としながらも、自分の腕がまっすぐ天井へと向けられているのに、届かないことを確認する。

このまま空気の中に溶けてしまえれば、それは個人としての境界を越えて、思いだけの純粋な存在になれる気がした。

キッチンから、やかんに水を入れる音がする。水の音は規則的なのに、流れ落ちる水滴はランダムでありながらも、同じような結果へと結びつく。


そしてまた、光輝を試すようなことをしている自分を思った。試しては、その結果に満足しつつも、もっと不安になる。それを繰り返して行くうちに、私たちの元の形はどうだったか、忘れてしまった。

感覚なんてあやふやなものだから、私たちは日々、上書きして行って、いつのまにか過去の自分を忘れていくんだろう。

そうやって行きつく先に幸せがあるとは思えなかったけれども、だからと言って引き返せるとも思えなかった。

ただ、前に進むだけの不幸せな恋の終着点は、せめて相手の幸せに繋がっていると良いと思った。


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