第4話 露天商
どうやら、私は赤ちゃんになってしまったみたいです
あれから3年。
赤ちゃんには必要不可欠の強制羞恥イベントを終え、ハイハイ、つかまり立ちも既に卒業。
今じゃ、兄様と町を歩き回っております。まあ、私の体力がすぐなくなって抱っこに変更になるんだけどね。
歩く事が可能になったことで、いろんなことが分かってきた。
まず、ここが私が高校生まで生きていた世界じゃないこと。見た感じ、中世のヨーロッパみたい。タイムスリップっていう線もあったんだけどね…元の世界と絶対的に違う定義がこの世界にはあったんだよ。
魔法
そう、この世界はファンタジーな世界らしい。こんなRPGよくあったよなあ。
魔法は一般常識として認識されていて、魔法学校もあるとか。けど、魔法は限られた人しか使えないらしい。ほとんどは血で受け継がれる。だから貴族に魔法使いは偏ってるみたい。
母さまも使えるから、兄様も?って思ったんだけど、兄様は父様にいろいろ勉強を見てもらってる。都にも仕官学校っていうあらゆる学問が学べる学校があるらしいんだけど、父様が行かせたくないんだってさ。
ここはシフォンキーア領。帝国の端のほうに位置している、父様が治めている領地だ。果物がよく育ち、果物を使った様々な商品が開発されている…のどかなところなのです。
私は領主の娘なので、お嬢様ってやつらしい。お嬢様…一度はなってみたいなあなんて前は思ってたけど、お嬢様ってのは案外きつかった。
算術、読み書きやらはこっちに来てから日本語みたいに理解できている。地理なんかは授業の延長線だとしても、礼儀作法、歌舞音曲、歴史、魔法なんかは最悪だ。これ全部、母様に教えてもらっている。母様、すごい人だ。
まあ、父様も領主の仕事があって、それを手伝う母様も忙しくて勉強を教わる事ができない事もある。そういうときは、家庭教師が私たちにはついてくる。いらない。
というか、この家庭教師は嫌いだ。父様の知り合いらしいんだが、なんとなく胡散くさい。
まあ、それはおいおい考えるとして、今は兄様と露店巡りだ。
「何か欲しい物はあるか?」
「んーん」
まだ屋敷を出たばかりなので、兄様とは手をつないで歩いている。今日はお勉強はなし。あの家庭教師はなにやら都合があるとかで、今日の授業はなかったのだ。ずっと帰ってくるな。
ああ、それにしても兄様はいつも輝いている。これで白馬に乗ったら王子様だね。
うっとり、と見つめていたいところだが、生憎、私と兄様の背の差が激しすぎる。首が痛い。それに加えて足元に気をつけてないと、転んでしまうのだ。この体、ほんとに嫌になるなあ。
「坊ちゃま!これ持ってくかい?」
露天商のおじさんが声をかけてきた。右手には黄色の林檎って感じの果物が乗っている。ハジという果物だ。これ、甘みは向こうの林檎より乏しいけど、なかなか美味しいんだよ。
「食べるか?」
「うん!」
「もらっていいだろうか」
「おうともさ!」
2個もらった。兄様と、食べながら歩く。こんなとこあの家庭教師に見られたら、ねちねちとお説教だろう。
と、古着屋の前を通ったとき。
「アルベルト様!」
お、なんだなんだ、このお姉さん。
「ああ、ユルじゃないか」
兄様、喜色満面ですよ。二人はそこで立ち話を始めてしまった。心なしか、二人の間のオーラが桃色な気がする。くっそー、彼氏いない歴元の世界を含めて19年の私に対する当て付けか!いや、この状態で彼氏がいたら早熟すぎるような気もするが。
うう、なんだか邪魔なような気がする。どっか行ったほうがいいだろうか。
会話に集中してる兄様の手からそっと自分の手を離し、近くの噴水場に腰を下ろした。
古着屋とは結構近いし、会話が終わったら気づくだろう。
まだ食べ切れていないハジを、もしゃもしゃと食べる。うまし。
と、私をすっぽり覆う影が出来た。
兄様、終わったのかな?
「ルツ様じゃないですか。こんなところに何用で?」
出た。