第3話 目覚め
あたたかい。
ここから出たくない。
ずっとここにいたい。
今が一番幸せな気がする。
ずっと、ここにいたいな。
―――――チチチ。
―――ピヨッ。
もう少しあのままでいたかった。
体がだるい。
なんで私寝てたんだろう。
―――あ、そうか。私、電車に跳ねられたんだっけ。
死んだと思ったんだけどなー。生きてたよ。私の生命力ってすごい!
にゃんこ大丈夫かな。加減しないで放っちゃったけど、怪我してないといいな。
あ、おばさんも・・・。ショッキングだよね、目の前で人が跳ねられるなんて。後で謝らないと。
とりあえず、私は病院にいるんだろうから、起きましたよーって看護婦さんに伝えないと。やっぱりナースコール?うわー、私あれ一度押してみたかったんだよねー。
あれ、起きられない。というか、動かないぞ、体が。
あ、仮にも電車に跳ねられたんだもんね。体が無事なわけないじゃない。痛みがないから気づかなかったよ。痛みがないってことは、麻酔か何かが効いてるのかな?とりあえず、目を開けてみよう。失明とかあったりして…。見えなかったらショックだ。見えてますように!
パカッ
「・・・あ」
はじめに目がいったのは、男の子だった。金髪の。
瑠璃色の瞳をめいっぱい開いて、私を凝視している。14歳くらいだろうか。外国人は日本人より大人っぽいから、もう少し下かな。それにしても綺麗な顔立ちしてるなあ。
って。
あれ、私にこんな外国人の知り合いいないと思うんだけど。友達自体少なかったし。え、じゃあこの人だれ?
で、最大の違和感なんだけど。
でかくないすか、少年。私の視界のほぼ4分の3占めてるんですけど。
「母上!ルツが目を開けた!」
ぐぼはぁ!少年、叫ぶのは止めてくれ。私の鼓膜に大ダメージだ!
「あら本当に?ふふふ、びっくりしちゃっているじゃない。お兄ちゃんなんだから、ちゃんと守ってあげなきゃいけないわ。分かった?」
「はい!」
次に私の視界に現れたのは、私と同じ女とは思えないほどの美人さん。波打つ金色の髪に、深い海のようなブルーの瞳。ふっくらとし唇はきれいなピンク色で、緩やかなカーブを描いていた。
はきはきして気持ちいい息子さんですな。見た目子供がいるとはとても思えないけど、いい息子さんをお持ちで。
周りの様子からして、ここが病院でないことは分かった。それじゃ何処だろう。私は何処に連れてこられたのか。
「貴女のお母さんよ。分かるかしら?貴女の名前はルツ・シフォンキーア。シフォンキーア家の長女よ。」
分からないでしょうけどね、と、苦笑した。
女性はそろそろと手を伸ばしてきて、私の手に触れて、持ち上げる。
意味が分からない。私の名前は他にある。ルツなんて名前じゃない。
女性は、私の、赤子のような、ちいさい、手を、慈しむ様に、握った。
え?