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番外1 家族

PCが壊れてご無沙汰でありました。

クオリティが低すぎて申し訳ありませんが、番外編です。よろしかったらどうぞ。

とりあえずのあらすじ↓

~これまでのあらすじ~

 死んだと思ったら転生しました。前世の記憶付きで。

 しかも転生先は騎士や魔法使いが存在するヨーロッパ系ファンタジーな異世界!どこのRPGなんだよ!?現在まったり幼児期謳歌中。

 Θアルベルトの苦悩

  †妹、笑う  

 妹にはじめて会った時のことを今でも鮮明に思い出せる。いや、たった1カ月前のことなのだから覚えていて当然なのだが、あの時香っていた母上のお好きなチェチェの紅茶の芳しい香りだとか、妹の血色のいい思わずつつきなくなるようなすべすべの頬だとか。あの場面をテストされたとしたら百点を取る自信があるくらい、あれは僕にとっての特別だったんだ。


 あれから一か月が経った。僕は、妹の笑顔をこれまで一度も見たことがない。別に、僕が見逃しているわけではないと思う。僕は四六時中妹の傍にいるし、やむをえないときは妹の傍に必ず誰かしらいる。僕が戻ってきても皆、笑顔の中に不安を過らせている。病気なんじゃないか、大丈夫なのか、と父上も母上も乳母も心配している。

 

 どうして笑ってくれないんだろう。

 ずっと考えて考えて、いやな考えが浮かんだ。妹が初めて目を開けた時、妹の目の前には僕がいたのだ。僕はもう十四歳にもなるのに剣も満足に振れやしない。男性用の大剣なんか持ち上げることすらできず、鍛練に使用しているのは女性用の細身の剣。

 妹はそんな僕を見てどう思っただろう。妹のことを守ってくれそうもない弱々しい僕に―――初めて見た世界に、失望したのかもしれない。

 僕は妹に初めて会った時に、この子を守らなきゃって思った。ちっちゃな紅葉のような手、大きな瞳を飾る長い睫毛、僕の手のひら程もない小さな顔。この世の甘いものと幸せな光ですべてが構成されているように感じた。


 

 肩まで伸びていた髪を高く結って、自身の剣を取り上げた。父に教えられた型を何回も繰り返す。次第に息が上がってきた。

 は、と息を整えて、手を下ろす。手が痺れていた。

 

母は、アルは少しだけ早く私達に会いに来てくれたから、他の子と比べて少しだけ小さいのよ、と言っていた。そんな母の愛に満ちた慰めを思い出す。

 

 父に十八歳の時の絵姿を見せてもらったことがある。軍服をびしっと着て、もう戦場で先王陛下のお傍にいた父は立派な体格を持っていた。上腕二頭筋なんか惚れ惚れするほど素晴らしい。騎士団副長に着任したのを頷けた。

 

 僕なんか、戦場に立ったことすらないや。

 今現在、戦争がないこともあるが、もしあったとしても父は僕を一緒に連れて行ってはくれないだろう。こんな、役立たずなんか。妹だって見捨てるはずだ。

 僕は今、十四歳。あと四年で、父のようになれるだろうか。妹を守れる騎士になれるだろうか。



 僕は、まだまだなんだ。まだまだやらなきゃいけない。強くならなくちゃ、妹を守れない。


 妹が笑えるように。世界は捨てたものじゃない。

 

 僕が守ってあげる、そう自信を持って言ってあげたい。



 布で汗を拭きながら、普段着に着替えに行った。体も、水で濡らした布で拭う。髪を下ろそうとして、手を止める。下ろさない方が、流すより女々しくないだろう。少しだけずれていた髪紐をきゅっと整えると、なんだか気分が引き締まった。

 本棚にある絵本の中から一冊抜き取って部屋を出る。妹はもう起きているだろうか。


 

 妹の部屋は父プロデュースだ。ピンクと、白。これ以外の色は揺り篭の中といつか使われるようになるであろうベッドに山盛りになっているぬいぐるみにしか殆ど見いだせない。

 

「ルツ、起きてるかい?今日は『騎士と姫君』っていう絵本を読んであげようね」

「まあまあ、アルベルト様。妹君がほんにお好きでいらっしゃるのですね。私の家の長男は弟妹の世話もしないで暇があればすぐに外に遊びにいってしまいますのに。素晴らしいことですわ」


乳母はアルベルトのために席を譲るため立ち上がる。そして、壁際に下がった。


「そうかな……ルツはどうだった?」

「……いつも通りでございますよ」

「そう……」

 

乳母も毎日様々な幼児用の玩具を持ってきて奮闘しているが、今日もダメだったらしい。


「ルツ、おはよう。今日は……」


声が、止まってしまった。






ルツが、満面の笑みで僕に笑いかけていた。






「……っ!ルツが……!」

「アルベルト様?どうかなさりましたか?」


声をなくした僕を不審に思ってか、乳母が駆け寄ってくる。


「まあまあまあ!なんとお可愛らしい……。アルベルト様、どうやって……?」

「分からないんだ。僕が見たら笑ってて……」

「それはそれは……。ルツ様にアルベルト様のお気持ちが伝わったのかもしれませんわね。奥様にお伝えしなければ」


 乳母はそう言っていそいそと部屋を出ていってしまった。

 

 妹は、僕を認めてくれたんだろうか。本当に?


「ルツ……」


 妹は、すこぶるご機嫌だ。今まで常だったむっとした表情の影も形もない。にっこにこだ。


「ルツ……愛してるよ。僕が……、僕が守ってあげるからね?」



 妹はぱあっと、花みたいな笑顔で笑った。


 そうして、アルベルトの苦悩は自信と向上心に変わったのである。








 余談であるが、ルツは赤ん坊必須の強制羞恥プレイに気がめいっていた。癒しを求めていた。

 アルベルトは、このときルツが『ポニテキター!』と思っていたことなど知る由もない。




  †妹、歩く

「お嬢様、あと少しですよ」

「うー…」

 

ミリの手で腰(このキューピーちゃん体型に腰と呼ばれる部位が見つかるのかはともかく)を支えてもらい、う、と足に力を入れてバランスを取りながら立つ。立つことはできるのだ。立つことは。歩くのがめちゃくちゃ難しい。重い頭ですぐ前か後ろに倒れてしまうし、体がまだ柔らかいから油断すればすぐ足が曲がってぐちゃ、ってなる。ぐちゃって。


 そう、只今、歩行訓練中なのである。


 中身は高校生、しかし体は一歳児。そんな私は一般の一歳児よりは理性があると自負している。

 転んでも泣かない。泣かないよ?うん。

 七転八倒どんとこいやぁ!


 目の前には手を広げて「ルツ、おいで」と微笑む兄さま。ああ、今日も輝かんばかりの笑顔ですこと……!待ってて兄さま!その胸に飛び込んでみせるわ!

 

アルベルトが手を開いてルツを待つ。

 

 ルツはゆっくり一歩一歩足を進める。そして―――べちゃっと転んだ。


 上げた可愛らしい顔が見る見るしょげていく。涙が溜まっていた。


 立ち上がるのを手伝ってくれようとした乳母にイヤイヤと首を振って、絨毯に手をついて立ち上がる。

 ふらふらとしながらもなんとか立ち上がるルツをアルベルトと乳母は拳を握って見守った。


 一歩進む、ふらふら。なんとかバランスをとってこのまま一気に行ってしまおうと兄さまに手を伸ばした。


 と、と、ずる、ぐぅ、となんとか踏ん張る。兄さまはもう目の前。いける!


 

 べちゃ。



 油断したからか、前のめりになった体は重い頭を支えることができずそのまま前に倒れ込んだ。


「……う」


 泣かない!本能が泣くことを訴えていたとしても、私は決して泣くものかぁ!

 

 私は諦めない。いや、私は諦めることを知らないのだ!ナポレオン風に言えば、私に辞書に諦めという文字はない。ひゅぅ!かっちょいー!

 あまりのイライラにルツのテンションはハイになっていた。おおおぉぉぉ!!!



保護者らは戦々恐々。泣くのか!?泣いちゃうのか!?


 


 そんなこんなで三〇分後(その間保護者らが休憩を提案したがルツが首を縦に振ることはなかった。閑話休題)。なんとか歩けるようにはなりました。ちゃんちゃん。










 Θ騎士と姫君

 大陸のちょうど中央に位置する聖国オリンピュア。何ものにも侵されることのない、聖なる少女の国。少女の残した功績は今も彼女の子孫によって受け継がれ、アレンナ大陸は過去のような戦の次にまた戦というような事態は防がれ、平面上は平和を保っている。その国は今、一〇年に一度の活気に包まれていた。


 聖女祭。


 大陸の信仰の対象となり、この大陸を今でも見守っているという聖女。その素晴らしい功績を讃え、我々が過去の過ちを犯さないための祭り。


 大陸の国―――カリア、パルシウス、チェルン、バドエ、ベルン、そして、アストゥルノの六カ国―――の王族や重臣たちが聖国に集う。その中ではたとえ交戦中であったとしても諍いの類は禁じられている。聖国の大陸での立場は、調停役。戦勝国には敗戦国へのある程度の干渉は認められるものの、聖国からの所謂『約束事』がありそれを守らねばならない。主に、不当な略奪行為、奴隷などの禁止。これは、初代聖王、つまり聖女の時代から受け継がれてきたものの一つであった。

聖国は侵略行為はしない。それを大陸中の国が認めている。侵すこともなければ、侵されることもない。ずっとその立場を聖国は保ってきた。



そこに、ギルベルトはいた。



「アストゥルノ王国第二王子ギルベルト。円卓の間への入室の許可を願います!」


声を張り上げた。

国王の代理として来たからには、声が小さいなどで恥をかくわけにはいかなかった。


その声に答えたのは、女の声。


「許可します」


細い、しかしよく響く声だった。

聖国のトップに立つ聖女の子孫の一族は、女が代々聖王の位につく。聖女を祭っている司祭者的役目と、聖女の一族では女性の魔力が総じて高かったのがその理由だった。


ギルベルトは扉番の者によって開かれた扉から進んで、中を見る。聖宮にしては少し狭い室内には、大きな円卓とそれを囲うようにたくさんの椅子が並べてあるのみ。その椅子も大半は既に埋まっており、ギルベルトは自分が他より遅れて来たことを知った。


「遅れて申し訳ありません、聖王陛下」


 聖王は黄金の巻き髪を艶やかに結って髪飾りをさしており、澄んだ藍の瞳はまるで宝石のように輝いていた。

 瞳の色と同じ色のふんわりとしたドレスを着ていた。


「あぁ、気にしないで。皆、待ちきれなくて早く着いてしまっただけさ。よく来た、アストゥルノの王子。聖女祭、楽しむといい」


 円卓の間。

 聖女が度々側近たちと共に過ごした部屋として、老朽化しては何度も何度も改築されこの姿を保っている。

 しかし円卓だけは一度も壊れることもなく傷がつくこともなく、ずっとこの部屋にある。よって、円卓の間と呼ばれていた。


 ギルベルトは元々、この聖女祭に来る予定はなかった。

 半年前に父が亡くなり、本来ここに来る予定であった第一王子であるレフェントが母の補佐で忙しくなった。そこで戦もなくただ暇というすべての時間を兵士の鍛練にあてていたギルベルトに白羽の矢が立ったわけである。

 

 策略の類はめっぽう弱いと彼自身が認めていることで正直不安だったが、和やかな雰囲気にギルベルトは胸をなでおろした。

 

 談笑がひと段落したところで、聖王が口を開いた。


「そうそう。聖騎士の役がまだ決まっていなかった。誰か、やりたいと思う者はいるだろうか」


 聖騎士とは、聖女と共に道を歩んだ者の一人。

 聖女祭では毎回伝説の一場面にある、“聖女と聖騎士の対決”のシーンを再現するような儀式がある。聖女役は聖国の一族から、聖騎士は集まった国から出すのが慣わしだった。


 ギルベルトも騎士の中の一人だ。やってみたい。しかし自分如きが聖騎士という大役など務まるのだろうかと躊躇した。


 ――――。


 円卓の間を沈黙が支配する。誰も名乗りを上げなかった。


 何故誰一人名乗りを上げないのだろう。これはたいへん名誉なことであるのに。ギルベルトは困惑したが、誰もいないのならばと、挙手した。


「陛下、私では役不足でしょうか」


 内心不安でしょうがなかったが、何故かざわついていた他国の者たちと聖王が、喜びの声をあげた。


「おお、ギルベルト殿。やってくれるか!」

「ギルベルト殿は剣の腕も相当いいと聞きます。適任ですな!」


 そうして、トントン拍子にことが進んだのである。その後、ギルベルトは聖王御自ら円卓にある聖女の指跡などを見せていただいたりしながら、和やかな雰囲気で報告会を兼ねた顔見せを終えた。


 到着したばかりの今日は与えられた客室で休めということでギルベルトはそちらに向かおうとすると、声をかけてきた男がいた。十九のギルベルトより少し年下のように見える。


「カリアのセシウス・カトラインと申します。お見知り置きを」

「カトライン公爵家の方ですか。お初にお目にかかります、アストゥルノの第二王子ギルベルトです」


 優雅な仕草で挨拶をしてきたセシウス公とにこやかに握手を交わす。


「儀式頑張ってくださいねー。楽しみにしてますよ?」

「は、はあ……。セシウス公は何故立候補なさらなかったので?」

「そんな恐ろし……いや恐れ多いこと、俺にはできませんよ」


 やっぱり自分が聖騎士役など恐れ多いことだな……と落ち込むと、それがギルベルトの表情でわかったのかセシウス公は目に見えて慌てた。


「儀式にはわかりますよ!」


 そうしてそれぞれの部屋に分かれた。




そして今、”聖女と聖騎士の対決“を行う闘技場にギルベルトはいた。手には聖騎士が使用していたとされる聖剣を持ち、聖女役が出てくる反対側の門を眺める。

 

 聖女役は、聖王の一人娘である王女セリシア。

 ギルベルトは一度も見たことがなかったが、きっと聖王似の可憐な女性なのだろうなと思った。


 聖王が儀式の開始を宣言する。


 ”聖女と聖騎士の対決“―――突如現れ人々を煽動し始めた聖女に疑念を抱いた聖騎士が、聖女に闘いを挑む。

『神の力で私を倒すことができるならば、私は貴女を認めよう』

 聖女は大の男をこてんぱんに負かす。聖騎士はそんな彼女に惚れこんで供になる。と、こういった場面だ。伝説の中では聖女は人ができるはずもない最高魔法と呼ばれるものを次々と操り勝利を勝ち取るのだが、そんな芸当は無理なので、聖女祭では剣技のみである。もともとこの儀式は人々を楽しませるパフォーマンス的な意味合いをもつので、そこはそれほど重要ではなかった。


 

 ギルベルトは闘技場の真ん中に向けて歩む。反対側からもまだよく見えないが王女セリシアと思われる人物が向かってきていた。


 ようやくはっきりと見える距離にまで近づいて、セシリアの顔を見たギルベルトはぞくりと肌を粟立てた。


 セリシアはやはり聖王似の繊細な顔立ちをしていた。しかし、その瞳。聖王と同じ藍の瞳は、苛烈な激情に激しく揺れまっすぐこちらを見つめていた。形のいい艶やかな唇はニヤリと孤を描いている。

 セシウス公や他の国の者が立候補しなかったのは、聖女役がセリシアだったからだ。唐突に理解した。


 こいつはやばい。


 戦場で培った勘が警鐘を鳴らしていた。殺されるかもしれない。


 位置についた二人を見て無情にも聖王が合図を出す。



「はじめ!」



 ギルベルトは剣をすぐさま構えるが、遅かった。

 開始の合図と共にダンッとスタートダッシュを決めたセシリアは躊躇せずにギルベルトへ剣を振り下ろす。

 ギルベルトは剣で止めることを早々諦め、右へ避けた。



 なんて速さだろう。



 すぐさま横に薙いできた剣は受け止めたが、とても重い。少し目を見開いたセリシアを睨みつけてぎりぎりと押し合った。それも一秒にも満たない間に、二人同時にわきへ飛び退く。

 

 息をつく暇もなく、また向かってくる。


 ほんとに王女なのだろうか。暗殺者とかそういう類の人間ではなく?いつも訓練している、誰よりも、そして自分よりも強い。


「余裕だなあ」


 それはすぐ目の前で聞こえた。考え事をすぐに放棄し反射的に剣を突き出す。しかしその一撃も軽く避けたセシリアは、そのままギルベルトの首を斬りつけ―――



―――なかった。ギルベルトの首はつながっていた。




 カランカラン、とギルベルトの剣が落ちる音がする。首にあてられた剣を見て、ああそうだ。儀式なんだから殺しが許されるはずがないと自分が馬鹿馬鹿しく感じる。しかしあの殺気は本物だった。

 ボーっとしていると、セリシアがつんつんと剣の平でギルベルトの首をつついてくる。


「儀式、続けなくていいの?」


 その言葉にはっとしたギルベルトは申し訳ありませんと謝ってセリシアの手を取った。剣はもう下ろされていた。


 セリシアの手に口づける。

 するとセリシアは剣を高々と上げた。わああぁぁ!と歓声があがる。

 その完成を浴びながら、セリシアはギルベルトに告げた。


「なかなかよかったぞ。剣技は到底私には及ばないが、私の剣を受け止められるやつなどそういない。ん、ちょうどいいな」

「ちょうど……」

「んー……とりあえず来い」


 ギルベルトの問にお茶を濁すセリシアはギルベルトの腕をとると、そのまま出口へ歩き出す。


 聖女と聖騎士が恋人同士だったこともあり、闘技場はそれはそれは盛り上がった。

 セリシアに強引につれていかれたギルベルトはそんなこと知ったこっちゃなかった。なにをされるんだろう。


 

 連れていかれた場所は貴賓席。そのまた最上階にある聖王の席まで行くと、聖王は笑顔で二人を迎えた。


「二人とも、御苦労だった。素晴らしい剣技だった」


 周りの者もセシウス公もうんうん頷いている。儀式はとりあえず成功したらしい。


「母上、こいつにします」

「え?」なんのことか分からなかったらしい聖王。

「例の件です。結婚相手はこいつにします」




 そんなわけで、ギルベルトは結婚することになった。幸いまだ婚約者もいない身だったのでよかったが、もしいたらセリシアはどうする気だったんだろうか。まあ過ぎたことだしいいかと思っている。



 ギルベルトは今、魔王の城にいる。

 別に来たくて来たわけじゃない。この魔王は所謂“自称”魔王だし魔獣の統率が不十分でこの魔王都市は勝手に崩れていくだろうと予測されるから、わざわざ討伐隊を組むこともなかった。

 では何故ここにいるのか。


 要約すると、セリシアは強い者探しの旅に出たかったらしい。

 さすがに一人王女を放りだすわけにはいかないと聖王は『帰るとこ見つけたらいいよ』=『結婚したらいいよ』と言ったらしい。聖王は一族の中で魔力が一番強い者がなるので、第一王女でも一族の中ではそこそこの魔力しか持たなかったセリシアは、嫁に行くことができた。


 というわけでセリシアはどんどん強敵(セリシアの前ではボロ屑同然であったが)を次々と倒し、只今魔王(自称)と戦闘中。ギルベルトは王の間の壁に背を預けて戦闘を眺めるだけ。数が多い敵と戦うときは一応参加するが、一対一であるこんなときは、ただただ目を閉じて終わるのを待つのみ。相手の魔法にセリシアは気が高ぶってきたらしく「ひゃあぁはははああぁぁ!!!」などと聞こえてくるが空耳だろう。魔王のすすり泣きの声も聞こえてきたが、空耳だ空耳!







 Θシュベルツの授業

 ハロハロ☆三歳になりましたルツでーす!!!

 いったいどうしたって?現実逃避さもちろん!



 私はいつも通り兄がシュベルツや母に剣で扱かれている間、本を読んで過ごしていた。勉強はすでにシュベルツから教えてもらっておりそのえげつなさ(先の見えない課題の山。永遠と続く足し引き掛け割るの連鎖。違うのぉおぉお!計算ミスしちゃっただけなのぉ!)は骨身にしみていたが、最低限の護身術などは全く習っていなかった。三歳児のおこちゃまなのでそれが当然だと普通は思うが、シュベルツはどうも普通じゃないらしい。


「もうそろそろルツ様も始めましょう」


 兄さまを母さまに任せて、こちらをつきっきりでやってくれるらしい。嬉しくない。

 しかたなく本をテーブルの上に置く。ああ、さようなら至福のとき。そしてこんにちは地獄のとき。


「まあ、今のルツ様にできることなんてこれくらいしかないんですけどね」


 そういってシュベルツが指笛を吹くと、どこから出てきたのやらさっとシュベルツの脇におすわりするドーベルマン(推定)。


「ドラゴニスちゃんです」


 ちゃん付け。シュベルツに激しく似合わない。つかドラゴニス……ドラゴニスって……どんなネーミングセンスしとんじゃこらあ。

 で、このドラゴニスちゃんで私にいったい何をしろというのか。まさかただ戯れろということでもあるまい。


「逃げてください」

「は?」

「ドラゴニスちゃんから逃げてください。全力で」


 そうして地獄の追いかけっこが始まった。

 初めの十秒でルツがドラゴニスちゃんにもみくちゃにされたのは余談である。

 


 とりあえずシュベルツは一度愛犬の涎に溺れてみればいいと思う。



                          


                                    番外編おわり



おそまつさまでしたー

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