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第13話 女好きの国王

うっすらと百合的な表現があります…百合って何?って方は読まない方が懸命です。おうちの人とかにも聞いちゃだめですよ☆

 アストュルノ王国の都モーゼ。その中心にある王宮は神聖色である白で統一され、朝日を受けきらきらと輝いていた。もう朝早くから稼動している外宮では官吏が慌しく行きかい、今日も王、ひいては国のために働いている。対して王族が暮らす宮や後宮がある奥院は使用人達もゆったりとした動きで仕事をしており、この奥院の主に気を使ってかいつもは華やかな声で賑わっている後宮もひっそりとしていた。


 その奥院の最奥に繋がる廊下を、濃緑の軍服に身を包む一人の男が颯爽と歩いている。奥院にいる人物に、伝えることがあった。それがこの国に仕えるこの身の義務というものでもあったし、何よりあの人の時間が短くなっているからでもあった。

 国王カルメルンの自室。扉の傍に立っていた近衛兵がこちらに気づいて礼をとった。入室の許可を求めると、はっきりとした声が返ってくる。男、もとい王子ギルベルトはそれに安堵した。まだ、ここまでの体力が残っているらしい。


「失礼します、陛下。内密のお話があるのですが、よろしいでしょうか」

「ああ。シェル、起こしてくれない?」


 王の補助を終わらせた侍女から部屋にいる全員を追い出した。これで、話を誰に聞かれるということもないだろう。近衛にも部屋の周りの人払いを頼んだ。


 クッションをたくさん重ねたゆったりとしたソファに腰掛ているかの人は、機嫌よく柔らかな毛糸で編まれたふかふかのひざ掛けを膝にかけなおしていた。

 金色の髪はゆったりとしたカーブを描き腰に届くかというところで落ち着いている。淡雪のような白い肌、真っ青な海を思わせる瞳、そして誰もが目を奪われるだろう相貌はまだ健在だ。しかし前見たときよりも確実に細くなっているその体に、危機を覚えた。


「久しぶりだな、セリシア姫や息子達は息災か?」

「は、これも陛下のお蔭をもちまして」


 自分達のほかに人がいないのにまだ臣下として在ろうとする息子に、カルメルンは微笑む。


「この時だけでも、親子の関係に戻ろうではないか。もうこういう機会もないだろうて」

「…では」


 親子の関係に戻る。そうさな、呼び名を変えるだけでもいいだろうとギルベルトは思った。そして、用件を口に出す。



「母上、申し上げます。末の息子に異彩が見つかりました。瞳が青から、金に」



 カルメルンは驚いたようだった。それはそうだ、貴族から異彩人出るなど約二五〇年ぶりである。普通、国の大部分は平民でできている。貴族など一分にも満たない。


「なんと…異彩が…」

「つきましては、貴族権により王宮に召し上げるは免除ということに…」


 ふむ、とカルメルンは頷いたが、顔は渋面をつくる。


「しかし…、我が国の異彩人は少ない。他の者が黙ってはいないぞ」

「はい、しかしながらあの子は先日四歳を迎えたばかり。王宮に上がるにはまだ早いかと」

「して?」

「成人してから、十六歳で王宮に上げたいと思います」


 異彩を持つものとしての教育も受けさせる、というギルベルトに、カルメルンは合点したように深く頷いた。


「ああ、お前のところには聖国の魔法使いがいたか。ならば安心か」

「さようで」


 うんうんと頷くカルメルン。ところで…と口を開けた。


「お前、呼び名しか変わっておらんではないか。ふざけているのか?」

「はあ…申し訳ありません」

 この人は切り替えが早いな、と思う。国が関わる重大事に驚いて気にも留めてなかったと思ったのだが。


 アストゥルノ国王カルメルン。元の名をナサリィ。前王が身罷ったとき王子達が幼かったため、王妃ナサリィから前王の名を継いで新国王カルメルンとなった。もともと後宮にいた女性達に慕われていた彼女は、国王が身罷ったことで解散させられるはずだった後宮を出て行きたい者は出て行かせ、そのままに留めた。本性を現したのか、現在は女達を横に侍らせてうはうはらしい。父が亡くなるまでは百合が似合うたおやかな自慢の義母だったのに。何処を間違ったか女好きだったらしい。

ギルベルト自身は側室の子供だったが、この人にはとても可愛がってもらった。ギルベルトの母が亡くなると父より先に抱きしめてくれたし、何より自分を母と思っていいと言ってくれた。

 この国は王妃にも王位継承権がある。よって貴族の良家から女性を何人も集め、女学校を作る。そこで一番成績が優秀であるのが王妃になるという形をとっている。しかしこのカルメルンもといナサリィは、筆記試験では大学レベルの知識を持ち、礼節舞踏その他もろもろもトップレベルであった。それでは僻む者も出てくるだろうがしかし、女学校の卒業時、ナサリィはほとんどの娘の支持を受けていたという。ルツがその場にいたら言うだろう。どこの女子高の生徒会長だ、と。それだけ桁はずれた人だったのである。


 しかしその女性も病には勝てなかったらしい。医師にもさじをなげられた。もう、一年にも満たないらしい。


「母上は…元気ですね。ほんとうに」

「そうだろうそうだろう、そうでないと姫たちに申し訳がないわ」


 ふふふふふ、と笑うその顔は少しやせすぎているところ以外は心配するところがないように思う。王宮を歩き回るほど体力がなくなっているにせよ、余命一年は大げさすぎるのではなどと思ってしまう。


「一年か…長いというか、短いというか。まあ、準備期間を与えてくれたジェス神に感謝しようではないか。突然だったなら、姫たちにお別れも言えないではないか」


 ああいやだいやだ、と首を振る母を見て、そっと目頭を押さえる。もっとあるだろう。国のこととか息子のこととか色々。


「まあ心残りといえば、レフェントのことか。プライドが高いのは父親譲りか?」


 王太子レフェントもといギルベルトの異母兄は、いつも自分より武術的な面で上をいくギルベルトが気に食わなかった。武人は自分よりも強い者しか自分の上には認めない傾向がり、それを疎む文官らを取り巻きにしてギルベルトを追い落とす機会をうかがっている。レフェントも馬鹿ではない。

王太子であるにも関わらず大学レベルの課程はすべて修了しているし、そんなレフェントを慕っている官吏もいる。現在は宰相と一緒に王の補佐という形だが、実質王の代理をしていると言っても過言ではない。軍部を掌握しているギルベルトにいちゃもんをつけて追い落とすことで、兵士達からの支持はおろか蜂起だってあるかもしれない。それでなおギルベルトを敵視するのは、それだけギルベルトに対する憎しみが深い証拠なのかもしれなかった。


 カルメルンはふう、と深いため息をつき眉を寄せると、肘掛に右肘を置いてその手のひらに顎を乗せた。


「私は、レフェントとお前が力を合わせれば、このアストゥルノはどの国よりも安全で豊かな国になると思っている。もうそろそろ、レフェントに王位を譲って私はレイチェルだけ連れて隠居しようかと思っているのだ。ずっとお前達が心配だった…遅すぎたのかもしれない。しかし、私が生きているうちにレフェントの治世を安泰したいのだ。それをお前に手伝ってほしい…」


 レイチェルとは現在七十八歳の異彩人最年長の女性である。カルメルンとは本当の親子のように仲がいい。

 傍にいたギルベルトの武骨な手をとって、ぎゅっと握りこむ。


「どうか、約束してくれまいか。レフェントをよく支えて、このアストゥルノを守ってくれ」


 おそらく、カルメルンが一番心配しているのはレフェントとギルベルトの内乱だろう。内乱が起これば彼女の息子のどちらかが廃され、また政治が荒れ国が荒れる。そこを他国にも狙われるだろう。

 ギルベルトとしても、もちろん本意ではない。


「私には、何の力もありません。非才の身なれば、ご期待に添えぬかもしれません」

「それでいいのだ。兄弟仲良く…といけばいいのだがな…」


 はあ、と疲れたのかカルメルンはボフッとクッションに背を預けた。


「お疲れでしょう。私はもう領地に帰ります。母上、それではまた」

「ああ、お前の末の息子、なんと言ったか…」

「ルツ、ですよ。母上」


 ルツ…とカルメルンは呟く。そして、ふわっと百合の君と呼ばれた所以の笑顔を見せた。


「たくさん愛してやれ。十六歳になるまで、たくさん」


 もちろんです、と返す。


「もちろん、セリシアも、アルも、同じくらい愛してみせますよ」

「お前はセリシア姫とは熱愛だものな」


 ふふ、と機嫌よく笑って、侍女を呼び寄せる鈴を鳴らした。


「また、会えることをジェス神に祈ろう」

「母上…。それでは」


 侍女が来たのを確認してから王の私室を出た。


  ***


 王とギルベルトの会話を、聞いていた影がいた。

 その影はすっ…と静かにその場から離れると、すばやい足で王宮の方向へと消えていくのだった…。



お久しぶりです…覚えてる方いらっしゃるのだろうか

すいません3ヶ月くらい放置とかただの馬鹿です…

※末の”息子”となってますが、わざとです。わかりにくくて申し訳ないです…

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