第12話 新しい友達
「…とさ、おしまい」
「ふーん」
ふかふかのソファに座って、兄様に絵本を読んでもらっていた。
言い回しとか魔術とかの勉強をするためにいつも堅苦しい本を読んでいる私を心配して、今日は童話だ。一目で恋に落ちた王子様とお姫様は、さまざまな困難を乗り越えて幸せになりました、っていうお話。どこにでも転がってるような話だ。なんとはなしに裏表紙を見ると、結構新しい本だった。10年前くらいに書かれたものらしい。
「これ新しいね」
「ん?ああほんとだ。結構スタンダードな話だと思うんだけどね」
兄様は私から視線をはずすと、ぱらぱらとページを捲った。私もそれを目で追う。
ぱら、と王子様の挿絵のところで止まった。
「僕もこんな人になりたいなあ…」
兄様から譲り受けたその本はそのページだけ垢がついていて、何度もそれを見ていた人がいることを示している。
王子様は優秀な武人で、お姫様を襲う刺客とか自分以外のお姫様を狙う男をどんな奴でも倒したそうな。
挿絵は剣を持って複数の敵と戦う屈強な男の姿が描かれている。なんとも男らしい。
それから、兄様の手の力が抜けて本がぱたん、と勝手に閉じるまで、私達はぼーっとそれを眺めていたのだった。
にゃあ、と黒猫がかまってもらいたそうに鳴いた。
「そういえばルツ、新しい友達はほしくないかい?」
「友だち?」
これといって仲のいい友達を作ってこなかった私にいったいなんだろう。ああ、部屋から出られないから気を使ってるのか。いらないって言うのはちょっとなあ…。
「…わかんない」
「そうか?あのな、ユルって知ってるだろう。僕と仲がいい女の子。その子の弟がね、ルツと同い年なんだ。ユルは僕達の身の上を知ってるし、いいんじゃないかと思ってね」
ユル…兄様の彼女か。その弟。ほー。とりあえず一緒にいて疲れない子であってほしい。
私は外に出られないから、あっちから来てくれるんだろう。
「どうだい?」
「うん、楽しみにしてるね」
***
「こんにちは!ぼくシャジっていうんだ!よろしく!」
「…よろしく」
ちーん。
泥だらけでそこらへん駆けずり回る典型的な腕白小僧でした。一番苦手なタイプだ…。もともと子供ってあんまり好きじゃないのに…。
「お庭って出ていいんだよね!?」
「うん、お部屋の前だけね」
じゃあ鬼ごっこしよう!ときらきらした目を向けられた。なんだかなあ。
うーん、なんて濁した返事をする私を引っ張って、シャジは僕が鬼ね!ともう遊びモードだ。
えっほえっほとシャジから小走りで離れる。
いーち、にーい、さーん、しー、ごー…
「いっくよー!!!」
「…へーい」
***
煌びやか、そして厳格な佇まいの王宮の一室。
その王宮の中でもなかなかの豪華な部屋に、2人の男がいた。
「そろそろ、計画を進めてみよう」
「計画、でございますか?」
一目見ただけで自分には一生かけても買えないだろうと思われる椅子に座った男が口にした言葉に、疑問を抱く。
まだ、自分はこの男の傍に上がってから、10日ほどしか経っていないのだ。
「ああ、お前はまだ知らないか。いずれ知ることになるだろうから、シュッフと共に行って来い」
「はあ。どこへでしょうか」
「もちろん、シフォンキーアへだよ?ふっ…。一人、そうだな…そこらへんを走り回るような元気な子供を一人攫ってこい」
初めての任務に心を躍らせる。
詳細はシュッフに聞けという言葉に、はっ、と返事を返した。
まあクロは放置ということで!
英語…とかツッこまないでください。ごめんなさい。
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