第10話 異彩人
昔々、この大地は欲望に渦巻き、数多の血を吸っていた。
様々な生い立ちの支配者達が、様々な理想を描き、様々な人種をもって、世界の覇権を手にせんがために争っていた。
そんな世に、血で血を洗うような戦争を見かねた一柱の神が降りる。
これが世を創造した、ジェス神である。
ジェス神は世を正すために、使徒を遣わした。
一人の少女に、世の命運を託したのである。
ジェス神は少女に世を正すための力を与えた。
少女の声は力となり念じれば鳴り響きて、大地を揺るがした。
蒼銀の髪、金瞳の異彩の少女現れれば、その圧倒的な力で支配者達の動きを止める。
そしていずれか少女は国を建設し、そこにたくさんの人々が集った。
若干19歳で初代女王となった少女を、人々は祝福した。
至高のアルティリエ、と。
これが、聖国オリンピュアの始まりである。
―――――『ティーエ聖歴書』より
聖国オリンピュアの女王アルティリエの死後、世界では不思議な力を持つ人々が出現し始めた。
そのすべてが人では到底持ちえない色彩を瞳や髪に持っていることから、アルティリエ以降の不可思議な力を持った者はこう呼ばれる。
人とは異なる彩をもつもの、異彩人、と。
部屋で呆然としていた私は、はっと我に返る。
異彩人は国に3,4・・・5人くらいいればいいほうで、最大というと、今から200年ほど前に大陸の1/3をも領土を抱え当時最盛期を迎えていたオルレリアン帝国の14人だ。ここらへんは暇つぶしで読んだ書物から得た知識である。やっぱりこの世界に来たからには魔法のことを知りたいと思うじゃないか。魔法だよ!魔法!未知の領域!やっぱりファンタジーだよねえ。
この世界には魔法という要素はあるにはあるけれど、誰にでも使えるわけじゃない。魔法使いってのも少ないんだ。シフォンキーア領も使えるのは母様とあの家庭教師くらい。だから、それだけ魔法は重要視される。国同士の戦では異彩人と魔法使いの数で勝敗が決まるとも言われてるくらいだ。
異彩人は1つの治世に3,4人・・・魔法使いより圧倒的に少ない。魔法使いはちょっと探せばごろごろとはいかないまでも結構いるしね。異彩人は魔法使いように前準備も要らないし威力も魔法使いは比べ物にならない。だから、異彩人は発見されたら即座に国に召し上げられ、専門機関で教育を受ける。まあこれは先天性異彩人の話。後天性の異彩人もいて、これは突然自分の目とか髪の色が変わってしまうっていうやつなんだけどさ・・・。
私は目の色が変わってしまった・・・。これって、後天性の異彩人に私がなってしまったってことじゃないだろうか。
なんだか事の重要性が窺えてきた。これってものすごくやばい事態じゃないだろうか。主に私の身が。
国に連れてかれる!?ええええ、やだ、そんなのやだよ!
ガチャ、という音がして部屋の扉が開かれた。
「しゅべるつ!」
自身の家庭教師に向かって駆けた。
「ああ、本当に変わってしまわれたんですね」
それほど驚いている様子はない。どうしてそんなに冷静なんだよ!ひどい、酷すぎるよシュベルツ・・・!ほんとうにお前は鬼畜だな!
「おうさまのとこにいかなきゃいけないの!?いやだ!わたしいきたくないよ!」
シュベルツの胸倉はまだ届かないから、ズボンをがっちり掴んで揺らす。ええい、この小さい背が恨めしい!
シュベルツはおや、という顔をして膝を折って私の顔を覗き込んできた。
「どうして異彩人のことを・・・。まだ授業ではやってなかったように思いますが。また本からですか?」
「う、まあそうだけど・・・。それはともかくしゅべるつ!わたしいきたくないよ!」
はあ。
シュベルツは大きなため息をつくとよしよしとでもいうように私の頭を撫でて、落ち着いて下さい、と言った。
「特権階級の異彩人は国の持ち物と決まったわけではありません。きちんとある一定の地位の特権身分の異彩人の引渡しの免除という法がありますよ。力が弱い領主なら話は別ですが、シフォンキーア領はそれなりに大きいですから。ギルベルト様もいまだに王宮に影響力をお持ちですし、国に引き渡されることはないと思いますよ」
ギルベルトとは私の父様、つまりシフォンキーア家当主である。
よかった・・・とへたりこんでしまった私をシュベルツは手を掴んで立たせ、椅子に座らせた。
「まあとりあえず、この部屋からは出ないでくださいね。私も全てがどうなると分かるわけではありません。おや、黒猫ですね。拾ってきたんですか?」
クロのことを聞かれた。あっと、今まで忘れてたよ。クロは私の足元をうろうろしていたらしい。やたらくすぐったいと思ったら。
「う、うん、そうなの。飼ってもいいかなあ」
「奥様に相談してください。何も言わず飼っちゃいけませんよ」
「うん、分かってるよ」
それでは失礼いたします、と言ってシュベルツは出て行く。
それにしてもシュベルツが気持ち悪いくらい優しかったなあ。手を差し伸べるなんて・・・ううう。
「クロー、なんだかすごい事になってると思わない?」
「にゃー」
ルツが黒猫と戯れているとき。
扉に背を向けていたシュベルツは厳しい顔をしていた。
「シュベルツ様、旦那様と奥様は執務室でお待ちでございます」
扉の前に立っていた、確かこの部屋の少女の専属メイドだと記憶していた女が言う。
「ああ、分かりました」
シュベルツははあ、とまたさっきとは意味の違うため息をして、ゆっくり廊下を歩みだした。
久しぶりの更新です。読んで下さる方がいるのか…いないかもな…。
これからはそんなに忙しくはない?かもしれない?ので、頑張っていきます。
応援よろしくお願いいたします。
*「目と髪の色が変わってしまった」→「目の色が変わってしまった」に修正しました!ほんと馬鹿です!ごめんなさい!ご報告感謝感謝です!