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「プアンダック伯爵夫人の『あなた、怖じ気づいたんじゃなくって?』にレオンが『かもな』と返す」
「………」
「な・ん・だ、こ・れ・はっ!?」
俺は左手で先生のぼさぼさの髪の毛を掴んだ。
先生がビクッと震える。
「レオンは男の中の男だ! 絶対にこんな泣き言は言わない!!」
「………」
俺は52巻を閉じ、53巻の1話「恐怖! ヘモグロビン共和国の罠!」の8ページ目を開いた。
「村娘モンテスキューが眼鏡を外すシーン。意外な美貌にレオンが驚くのを見たエリシアが『大した美人じゃないわよ』と呟く」
「………」
「あのなー」
俺はギリギリで抑え込んできた不満と怒りが、どんどん膨らんでいくのを感じた。
そうだ。
俺はこんなにも。
こんなにも我慢してきたんだ。
「エリシアはめちゃくちゃ性格が良いんだよ!! こんなこと言うわけないだろ!!」
それから俺はありとあらゆる「エタウイ」の「あってはならない間違い」を指摘した。
先生は黙って聞いている。
「そして最大にして最悪なのが最新刊の7話『アカシックオーバーゲイン発動!!』の10ページ目!!」
俺は机をバンッと叩いた。
60巻の問題のページを開く。
「レオンはガットウィンブル枢機卿との和解に応じる…」
「………」
俺は先生の顔に、再び自分の顔をくっ付けた。
あまりの怒りに頭の血管がドクドクと脈打つ。
「ガットウィンブルはレオンの弟分トキオを殺した犯人だ…」
「………」
「それを知ってるレオンが…常に義のために戦うレオンが…目先の利に走ってガットウィンブルを許すなんて、あり得ないだろうがっ!!」
俺は怒髪天を突いていた。
この部分は、どんなことがあっても許せない!!
絶対にそんな男じゃないんだ!!
「そ、そうだよね」
先生が口を開いた。
何度も頷いてる。
「もちろん、君の言う通りだよ。私だって、そう思う!!」
「だったら」
俺は先生の前にある生原稿を横に動かした。
「?」
先生が戸惑う。
「だったら何でこんなことになったんだよっ!!」
俺は先生の頭を掴んで机に叩きつけた。
大きな音と先生の「がっ!!」という声が、部屋中に響いた。