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俺は先生の横を通り過ぎて、奥の扉を開けた。
ユニットバス、トイレ付。
中には誰も居ない。
俺は先生の側へ戻った。
先生が俺を見上げる。
机の上には…「エタウイ」の生原稿だ!!
俺は生原稿に釘付けになった。
「あ、あの…」
先生が言った。
そ、そうだ!!
生原稿は気になるが、俺には今すぐにしなければならない使命がある!!
俺は生原稿の上を避けて、背中のリュックを机に置いた。
中から「エタウイ」60冊を出して、15冊ずつ4つの山に並べる。
先生はそれをただただ見てる。
「俺、『エタウイ』の大、大、大ファンなんです」
俺は出来る限り冷静な口調で言った。
先生の顔がポカンとなる。
そして「ええ!?」と眼を見張った。
「き、君は編集部の人では…ないの?」
俺は頷いた。
「俺は真の『エタウイ』ファンです」
「ほ、本当に?」
「ええ、俺にとっては『エタウイ』が全てなんです」
「いやいや、そんなことはどうでも良くて」
「どうでも良くないっ!!」
先生の言葉に俺は一瞬で怒りの沸点に達した。
先生の胸ぐらを掴んで、お互いの顔がくっつくぐらい引き寄せる。
先生の青白い顔が、ますます青くなった。
「ちょ、ちょっと!!」
「いいか、黙ってよく聞けよ!!」
俺は先生をにらみつけた。
「いやいや、君が編集部の人でないなら、そっちこそ聞いてくれ!!」
俺は右手で先生の顔を掴んで、口を塞いだ。
「黙れ!!」
俺の恫喝に先生は動きを止めた。
ようやく俺の話を聞く気になったようだ。
「いいか? これから俺が話すのは、この世で最も大切なことだ。他のどんな出来事も、これよりは優先順位が低い。だから俺を怒らせるな。先生、あなたにとっても絶対に聞くべきことだ。これ以上、話の邪魔をしたら、俺は自分でも何をするか分からない。理解したか?」
俺の真剣な眼を見た先生は、黙って頷いた。
熱意が伝わったな。
俺は先生から、手を離した。
机の上に積み上げた「エタウイ」60冊に手を伸ばす。
「1巻から51巻までは完璧なんだ。レオンは最高の男でエリシアは最高のパートナー!!」
俺は52巻の第5話「デビルワンドを探せ!」の4ページ目を開いた。
先生に突きつける。