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「な、面白いだろ?」
友達が訊いた。
俺の瞳の輝きが、その答えだった。
「うおおおおおーーーーっ!!」
俺は興奮が冷めやらず絶叫した。
友達のお母さんが何事かと慌てて飛んできた。
俺は友達の家からの帰り道、レオンの決め台詞「遊びの時間は終わりだぜ!!」を連呼してポーズを決めまくった。
俺の世界は激変した。
人生の1番は「エタウイ」になった。
俺以外にも「エタウイ」のファンは大勢居た。
そう、日本中に。
そしてその数は爆発的に増えていった。
単行本売り上げは毎回、1位。
アニメ化、ゲーム化、映画化。
あっという間に国民的アニメの地位まで駆け昇った。
作品の面白さ以外にも、ファンたちが口にする話題があった。
それは「エタウイ」の作者、「重松要」先生のプロフィールが一切、公表されてないことだ。
写真はおろか、年齢、性別さえも明らかでない。
皆、いろいろな憶測を並べ、議論を尽くした。
最後は古代人や宇宙人、別の時間軸から来た説まで出る始末だ。
俺は正直、先生がどんな人だろうとどうでも良かった。
こんな素晴らしい作品を産み出してくれた感謝の気持ちしかない。
それはもう、宗教の神に対するような想いに近いのかもしれなかった。
最新刊が発売されると当日に買って読む。
それは最高の幸せだった。
俺の全ては「エタウイ」になった。
月日が流れて成人しても、それは変わらなかった。
運送業に就職した俺は、必要最低限の生活費以外は全て「エタウイ」関連のグッズやゲームに使った。
「エタウイ」が俺の原動力だ。
他は何も要らない。
俺が死ぬまで、この生活がずっと続くと思ってた。
そう、本当にそう思ってたんだ。
信じてたのに。
最初はほんの些細なことだった。
「エタウイ」の画が変わってきた。
これはまあ、他のマンガでもよくあることだ。
マンガ家の先生のタッチが変化する過渡期は必ずある。
何度も変わる先生も居る。
だから…まあ…何とか納得した。
相変わらずレオンはカッコいいし、エリシアはキュートだった。
今思えば、このときの違和感、嫌な予感は当たってたんだ。
俺のような真のファンは「エタウイ」愛がどんどんレベルアップして、感覚が研ぎ澄まされていく。
そう「エタウイ」感覚とでもいうのだろうか?
とにかく「エタウイ」に関するいろんな事象を素人よりも100倍くらいの早さで気づくのだ。