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悠久社の駐車場から1台の車が出てきた。
運転席の男の顔が見える。
国民的人気マンガ「エターナルウィッシュ」担当編集者の西田だ。
間違いない。
俺は「エターナルウィッシュ」の主人公レオンとヒロインのエリシアが抱き合ったイラスト入りの腕時計を見た。
昼を過ぎたところだ。
バイクのエンジンをかける。
西田の車を追う。
気づかれないように、つかず離れず慎重に尾行する。
もし気づかれたら、奴は重松先生の仕事場に行くのを中止するだろう。
そうなったら俺が重松先生に逢うチャンスは二度と無くなるかもしれない。
それだけは耐えられない。
俺はたとえ命を懸けても、先生に直接言わなければならないことがあるのだ。
西田の車は都心を離れて、どんどん山間部に向かってる。
これは、いよいよ怪しい。
やはり編集の奴らは重松先生を隠してる。
俺のような真の「エタウイ」ファンを遠ざけるためか?
もしそうなら、奴らは舐めてる。
真のファンとは。
魂のファンとは、どんな障害をも乗り越えるものだ。
俺は「エタウイ」のためなら命だって投げ出せるのだから、こんな苦労は何ともない。
背中に負ったリュックの中に入ってる「エタウイ」既刊、全60冊の重みだって平気だ。
常に持ち歩いてるから身体も鍛えられて、丁度良い。
とにかく俺は「エタウイ」に関することなら全てが苦にはならない。
初めて「エタウイ」を読んだのは10年前。
当時、小学生だった俺は友達の家で「これ、面白いぜ」と単行本を渡された。
最初は何の気なしにページをめくってた俺が、次第にストーリーに引き込まれていった。
もう、友達の声は聞こえない。
俺は完全に「エタウイ」の舞台、天空の城塞都市モッデグランティアに居た。
最高にかっこいい男、レオン・ゴートレット。
チャーミングで賢く情け深いヒロイン、エリシア・マーティストン。
2人の虜になってしまった。
レオンとエリシアのお互いの第一印象が悪すぎる出逢い。
初めての共闘、そして和解。
新たなる敵と神界の指輪の謎!
ケンカしながらも、いつしか惹かれ合う2人。
レオンとエリシアのピンチに必ず駆けつける謎の仮面の男女!
異世界から出現し、2人の前に立ち塞がる鎧闘士十六魔人衆!!
俺は友達が持ってる全ての巻を一気に読み終えた。