第4話 黒メダルアルバイト
「とりあえず半妖倶楽部は数少ない半妖が楽しく交流する為に作られた部活動よ!半妖倶楽部の部室はこの学校全て!今日、これからは24時間いつでも部室に出入り自由になるわ!部長である私が部長命令により全員集合させて、何か指令を出すかもしれないけどそれ以外は基本自由よ!」
私含む部員5名が花子ちゃんによる半妖倶楽部の説明を聞いている。
「とりあえず説明は以上よ!はい、解散!各自自由に行動しなさい!」
花子ちゃんが説明を終えた途端
早速誡先輩が部長に
「それでは早速この学校の設備を使用したいのだが、いいか?」
「いいわよ。はい、これ体育倉庫の鍵」
そう言ってスカートのポケットから鍵を取り出して誡先輩に手渡す。
鍵を受け取ると誡先輩と留衣先輩はあっという間に教室から退散してしまった。
森くんは教室の窓を開け、そこから外へ出て行ってしまった。
いつの間にか葉月さんもいない。
まあ、みんな倶楽部特典で入ったから当たり前の結果だよね。
一年生の教室に取り残された私と花子ちゃんは顔を見合わせる。
「これからどうしよっか?」
どうしようね、花子ちゃん…
「ところでさっき森くんに言っていた黒メダルってのが気になったんだけど…」
私は気になっていた黒メダルの話をしてみた。
「ああ、あれはアルバイトの話よ。」
「アルバイト?」
「そう、人間から回収できる負の感情を集めて圧縮してメダルに変えて、それを私が日本円で買い取るのよ」
「負の感情?てかそんなのを圧縮してメダルに変えて、それを買い取ってどうするの?」
「質問ばっかりね…まあいいわ。まず負の感情から説明するわね。例えばそうね…悲しみ、怒り、妬み、とにかく人間にとっていやな出来事が起こると、その人間から黒い煙のようなものが身体中から出てくるのよ。ユキちゃんは人間の周りに浮いてる黒い煙見た事無い?」
「あー…あれ負の感情だったんだ、見た事あるかも。確かにあの煙が出ている人に話し掛けると高確率で不機嫌だったような気がする。」
「そう!それよ。負の感情は妖怪にとっては生きる為のエネルギー、つまり食料になるの。まあ、負の感情以外にも食べる物はあるんだけどね。」
「簡単にまとめると、妖怪の食料を集めてもらうアルバイトって事ですよね?」
「!?」
花子ちゃん以外の声に驚く私。辺りを見渡すとなんとびっくり、私の隣に葉月さんが!!いつの間に?!てか花子ちゃん、何で教えてくれなかったの?!
「図書室に入ろうとしたのですが、扉に鍵が掛かっていて開かなかったんです。なので花子さんから鍵を借りる為に教室へと戻ったら、何やら楽しそうに話す2人が見えたのでつい…」
そう言って楽しそうに笑う葉月さん。ついって…
全然気配が無かったからビックリしたよ…
「ちなみに黒メダルこと妖怪の食料は、悪い妖怪の手元には渡らないから安心して大丈夫よ!」
「へぇ〜。ちなみに黒メダル1枚は日本円にすると幾らになるの?」
「1万円よ」
「マジで!?」
タダ同然で手に入る黒メダルがまさかの1枚1万円!
洋服、お菓子、アニメグッズなどなど、とにかくお金を浪費してしまう私にとって、メダル1枚1万円のアルバイトはとても魅力的に見えたのだった。
よし!決めた!
「その黒メダル集めるアルバイト、私もやる!」
「ユキちゃん黒メダル集めるアルバイトするの?いいわよ」
あっさり認めてくれた。やった!
「白雪さん」
私が呆気なく受かったアルバイトの採用に喜び浮かれていると、葉月さんが私に声を掛けてきた。
「そのアルバイト、私も付いて行っても宜しいでしょうか?」
「もちろん!むしろ大歓迎だよ!花子ちゃん、葉月さんと一緒にアルバイトしていい?」
「もちろん大丈夫よ、むしろユキちゃん1人でアルバイトとか不安しか無かったから逆に大歓迎よ」
散々な言われようである。まあ、1人で寂しくアルバイトするより2人でアルバイトした方が楽しいもんね!
「宜しく!葉月さん!」
「白雪さん、宜しくお願いします。」
「でも黒メダルの元は夜にならないと回収出来ないのよね〜。」
スマホの時計を見る。今の時刻は午前11時くらいだ。まだ夜になるには早すぎる。
「じゃあ午後の10時頃にまた集合って事で!解散!」
とりあえず私は自宅へ戻り、10時になるまで適当に時間を潰した。
そして今の時刻は午後9時56分
水色のパーカーに青いショートパンツを履き、運動靴を履いた私は花子ちゃんの自宅であり部室である小学校の玄関前に立っていた。
私の隣には緑色のジャージを着た葉月さん。黒い提灯のような物を2つ腰に提げている。
目の前には花子ちゃん。
「道案内はヨーコちゃんに任せるわ。黒メダルの材料の集め方もヨーコちゃんに任せて…あとはこれね。」
そう言ってスカートのポケットから出てきたのは
かなりかわいくデフォルメされた約3cm程の黒いカエルのフィギュアだった
「このカエルは超便利よ。通信機能が付いてるからどんなに離れていてもこのカエルさえあれば電話みたいに会話ができるの。私もこのカエルを持ってるから私とも会話できるわ。さらにラジオが聴けるの。」
それスマホで代用できるよ?
「明日の天気を聞けば一週間先の天気を予報してくれるのよ。」
それスマホで代用できるよ?
「そして!このカエルを縦に伸ばして手首に巻けば、普通の人間の目に見えなくなるステルス機能付き!」
そう言って私と葉月さんの左手首にカエルを巻きつける花子ちゃん。
それスマホで代用…できない!何それ!
私のお母さんは雪女、その気になれば幽霊並みに姿が消せる。だが、半妖である私は姿を消すのが物凄く下手だった。出来ても存在感が薄くなるだけだ。
姿が消せない私にとって最高のアイテムだよ!ありがとう花子ちゃん!
「これから人里に降りるのよ?こんな真夜中に女の子が2人歩き回ったら怪しまれるでしょ?」
野生動物扱いかな?
「そうそう、移動手段についてだけど…
ユキちゃん!アレやって!」
「了解!」
花子ちゃんの指示を察して頷く。移動手段でアレって聞いたらアレしかないよね!
私は学校の玄関から離れ、近くにあった手洗い場の蛇口を捻る。
うん、これだけあれば十分!
バシャバシャと音を立て続ける手洗い場から少し距離を置いて
水に意識を集中させる
すると手洗い場から白い何かが顔を出だした
子熊だ
白い子熊が立ち上がり、小学校の手洗い場から這い出してきたのだ
「可愛いです!」
「可愛いでしょ?でもね、ヨーコちゃん。あれだけで終わりじゃないのよ?」
玄関の前でそんなやり取りしている2人を尻目に、私は作業を続ける。
私は出てきた子グマを抱えると、水が出ている蛇口に子グマの顔を近づけた。
水を飲む子グマはみるみるうちに体が膨らんでいき、やがて
「凄いです…!」
「おー、2メートルくらいの大きさかしら?」
私の目の前には物凄く大きな白熊が四つん這いで佇んでいた。
「よいしょ!」
私は白熊の大きな背中に跨り、白熊の首に手を回し、両側から不自然に飛び出している自転車のハンドルのようなものを握る。
そして玄関前に立っている2人の元へ白熊を歩かせた。
「歩いています…」
「そりゃ歩くでしょ。白熊なんだから」
並んで立っている2人の前に白熊を止める。
「葉月さん!迎えに来たよ」
白馬の王子様ならぬ白熊の女子高生が迎えに来たよ!
「さあ!私の後ろに乗って!」
そう言うと葉月さんに右手を伸ばす。葉月さんが私の手をしっかり掴むのを確認すると、その手を引き上げ私の後ろに乗せる。
コレに捕まってね!と言って私の後ろにある、白熊の背中から飛び出した丸いハンドルを掴むよう指示する。
「ふわふわしてます、以外と乗りやすいです」
ハンドルをしっかりと掴み、後ろで白熊に乗った感想を呟く葉月さん。
そう、この白熊は人間が乗る事を考えてしっかり作られた最高傑作だからね!
私が小さい頃に始めて作った白熊の事を思い出す。
見栄を張って無駄にデカく作った白熊。首に手を回して掴んでもツルツルで滑るし、背中はカチカチ、足場が無いので不安定。花子ちゃんを私の後ろに乗せると
「冷たい!」
白熊を動かすと不自然な動きでゆっくり進み
バキッ!
と嫌な音を出し、私達を乗せたまま白熊は崩れ、ただの氷の塊に変わってしまった。
そう、乗り物にするにはあまりにも出来が悪かったあの白熊が
改良に改良を重ね
今こうして私の乗り物として立派に機能している。
感動。
そんな事を考えている間に、花子ちゃんは白熊の前脚にあのカエルを巻き付けてくれた。
ありがとう!もしこのまま走り出していたら「白熊が街中を走り回ってる!」とか言われて大騒ぎになってたかも!
「さて、こんなもんかしら?」
花子ちゃんの言葉に頷く私と葉月さん
「では出発!気をつけて行ってらっしゃい!」
「「行ってきます!」」
出発の合図と共に小学校の玄関から外に飛び出し、一本道の道路を走り出す白熊。
こうして私の人生初のアルバイトが始まったのであった!