終点
ホームに立つ少年。
影山と書かれたネームプレートと銅色のボタンの付いた学ランに紺のマフラー。マスクの隙間から白い息が漏れている。目は虚ろ。フラフラと揺れてる。
電車がホームに入ってくると、彼は線路に飛び込み、自殺した。
「あぁ…また一日が始まる。」
そう言って慣れた手つきで身じたくを済ませ、学校に向かう。
影山は学校が嫌いだった。
いじめや体罰があったわけではなく、ただただひたすらに学校がつまらなかったのだ。
やりたいことが無い。好きなことも無い。
好きな人もいない。
何か面白いことが起きて欲しいと何度願っても何も起こらない。そんな現実が嫌だった。
誰しも一度は考える。
同じ毎日の繰り返しでつまらない。
しかし、時間はあっという間に流れていき、いつか終わりが来ることに気づく。
毎日を大切に生きようと思うのだ。
だが、あの時、影山は気づけなかった。
登校拒否という選択もあったが、家にいてもすることがない。
それでは問題の解決にはならない。
退屈な毎日の中で、どうにかしてこの日々からの脱出する方法がないかを考えた。
結果影山は1つの答えに辿りついた。
それが自殺だった。
影山は友達という概念が理解できなった。影山は1人が好きだった。また、他人に興味が無かった。
学校では常に1人でいさせて欲しいと願う。
影山にとって他人は道端の石ころ同然に感じられた。
「影山君!卓球しに行くか?」
「うん…ごめん。俺は…いいや。」
「そっか!そっか!じゃあ、あとでやりたくなったら体育館きてよ!じゃあ、俺行ってくるから!」
「うん…アイツ1年中半袖だな…」
無愛想な影山も田舎の中学ではクラスの大切な仲間だった。
教室の黒板の上にはカラフルな画用紙で作られたクラス目標が貼られている。
「友情第一!勉強もね!」
時代に取り残された田舎の中学校。
仲の良いことが何よりも大切なことだと教えられていた。
そんな学校は影山にとっては窮屈でしかなかった。
毎日学校に隕石が落ちればいいと願っていた。
ある日の下校中影山は考えていた。
(今日もつらい学校が終わった。
ただひたすらに時間が過ぎるのを待つだけの学校生活。
とにかくパッとしない日々の繰り返し。
もう飽き飽きだ。
やりたいことも無い。夢も無い。愛想も無い。
俺には何も無い。
ただあるのはつまらないと感じてしまうことの自己嫌悪と心の大きな穴だけだ。
もうこの穴は埋められない。大きすぎる。あぁ、神様。もしいるのなら僕を救ってください。)
気づくと影山はホームに立っていた。
誰もいない古びた駅のホーム。三両編成の電車が入ってくる。
「この世に神様はいない。」
そうマスクの中でささやくと影山は電車を横目で確認するとそっと目を閉じホームから飛んだ。
死ぬことに抵抗は無かった。
この世に未練など無い。
だが、想像をはるかに超える痛み。それのみが心配だった。
しかし、何も感じなかった。若干味気ない気もするが痛くなかっただけましだと思った。
そんなことより、ついに死ねたのだ。もうあんな生活はしなくていいのだと喜んだ。
(なんだか心地がいい。ついに、あの世に来たのか。)
そして、影山は目を開けた。
すると、そこは白く何もない空間が広がっていた。
広大すぎるその空間は地平線も見えない。どこから光が来ているのか分からないがとても明るいが、影はない。
その時、影山は不安と恐怖を感じた。
そう、不安を感じていることに恐怖を感じたのだ。
死んだらなにも感じないと思っていたがそれは間違いだった。影山は元の世界よりも退屈な世界に来てしまったのだ。