山龍討伐二日目(幕間3)(1)
チシロさまと白黒姉妹を山龍の元に案内していたのですが、白黒姉妹が山龍を何体か討伐したのを見て「戦闘はあの二人に任せておけば良い」と判断しました。
というかあの二人、やばすぎやしませんかねぇ。
いえ、山龍の強さの基準とか、この世界の冒険者の基準とかは何も知らないのですが、それでも、「数十体いる山龍の群れを、素手で討伐しきってしまう」というのが『異常』だということはなんとなくわかります。
おかげさまで、さっきから私たちはひたすら次の山龍の場所を探して案内するだけの人になっています。
ということで、山龍の元へ案内するのは『分身魔法』で作り出した分身体に任せて、私の本体はフードの中で作業をすることにしました。
チシロさまは・・・、まあ、あれです。
チシロさまサイズの分身を作るのはちょっと大変ですし・・・。
それにほら、チシロさまは自分の分身を遠隔操作することも出来ませんし。
そんなわけで、フードの中での作業ですが、
まずはフードの中の建物に、新たに小部屋を一つ作り、そこに白黒姉妹の所持品をまとめて格納しておきます。
急いで拠点を出たので、白黒の荷物は全て大部屋に放っておいてあったので、私たちの持ち物と混ざることがないように別室で管理することにしました。
荷物の量が結構多かったので大きめの倉庫を作り、そこに荷物類をまとめて転送します。
本来なら、預かった荷物には傷などがつかないように厳重に管理する必要があるのかもしれませんが、ある意味この空間自体が何重にもプロテクトのかかった空間なので、あとは私たちが「何もしない」ことが一番の管理なのでしょう。
荷物を運び終えて、部屋から出て扉を閉めると、ちょうどライアが上の階から降りてきました。
ライアも『探知魔法』を使って山龍の細かい位置や数、他にも魔獣などの位置を調べたりしてチシロさまや白黒のサポートをしているのですが、やはり外で活動しているのはライアの『分裂体』で、本体はフードの中の魔法陣の管理を行っています。
分裂体はあくまでも『魔法を外に届けるためのパイプ』の役割らしいのですが、事情を知らない人からすると、ライアは「魔法陣も詠唱も無しに複雑な魔法を常時起動している」ように見えるのでしょうか。
まあ、外からどう見えるかなんてあまり関係ないですけどね。
私も、一通りの荷物整理は終えてしまいましたし、ライアの魔法も起動さえしてしまえばあとは片手間に魔力を送り続けるだけで大丈夫だそうで、有り体に言ってしまえば暇になってしまいました。
外で戦っている白黒姉妹を手伝ってもいいのですが、あちらはあちらで魔獣でも山龍でも見つけた端から双子が片付けてしまうので他に手伝うことがありません。
だからと言って、チシロさまとのんびり会話するという雰囲気でもありませんし、むしろ私本体よりも『分身体』の方が決められたことを確実にこなしてくれるので役に立つんですよね。
『分身体』に戦闘力は皆無ですが、決められた行動は確実にこなしてくれているようですし、いざとなったらいつでも入れ替わることができるので安心して見ていられます。
『分身体』を通して外の様子を観察してみると、相変わらず白黒姉妹が無双しているのですが、時折チシロさまが野生の魔獣などに先制攻撃を仕掛けることもあります。
と言っても、大抵の場合はダメージを与えるどころか相手に気づかれることもなく、その後に白黒姉妹のどちらかが一撃で葬ってしまうのですが・・・。
「マテラよ、チシロの攻撃は一体どういう仕組みなのだ?
倒せるとまでは行かずとも、傷一つ与えぬというのは明らかに異常のように思うのだが」
「ああ、それはですね・・・。 説明するのでちょっと待ってください」
そういえば、ライアはまだチシロさまのステータスを見たことがなかったんですよね。
口で説明するよりも、実際にステータスを見せた方が早いでしょう。
そう思い、一階の装置に設置してあるステータスカードを起動し、チシロさまのステータスを表示します。
<<チシロ・ミト>>
想力:103
やさしさ:35
想法力:13
魔法力:4
魔力耐性:3
治癒力:3
「これが、チシロさまのステータスになる・・・
なるのですが、しばらく見ないうちに成長してますね」
魔法力が上がっても魔力がゼロのままなのは、自ら魔力を使わずに魔水から魔力を取り出して魔法を使っているからでしょうか。
というか、想力は100が限界値だと思っていたのですが、そうでもないようです・・・。
「うむ、なるほど。
我は、一般的なステータスというものを知らぬからなんとも言えぬのだが、確かに見たところ、チシロは戦闘系のステータスが軒並み低いようであるの」
「そうなんです。
ですが、チシロさまの普段の行動を見ている限り、戦うこと自体を嫌っているわけではないようなんですよね。
前世でMMORPGをプレイしていた時も、ヒーラーやバファーではなくて純粋なアタッカーを選ぶことが多かったですし」
「エムエム・・・? そう言えば、チシロは『転生者』であったの。 ああいや、用語の説明は別にせんでも良い。
とにかく、チシロは「周りをサポートするだけでなく、自らも戦いたい」と思っているのであるな」
「実際のところ、魔獣を討伐するぐらいなら私たちが出来るので大丈夫なんですけどね」
「しかし、このままではチシロはただの荷物運びとなってしまう。
我らはそれでも気にせぬが、チシロ自身そうは思わぬであろう。 その気持ちもわかる」
「そう、そういうことなんです。
チシロさまのためにもどうにかしたいのですが、どうにかならないものですかね」
ライアも私の考えに納得してくれたようです。
ですが、チシロさまに『攻撃力』を持たせるというのは至難の技です。
何せ、たいていの通常攻撃では相手を通り抜けるだけでダメージは与えませんし、毒や遠距離からの攻撃も全て無効化していました。
「うむ。 確かにこれは、一筋縄では行かぬようであるぞ。
我も不思議に思ったので試しに、『辺り一面を焼け野原にする魔法』の魔法陣を起動してもらったのだが、結果的に『辺りの土壌を正常化し、植物の成長を促す魔法』が発動するぐらいに複雑怪奇であるからの。
魔法陣を描いた我にもなぜそうなったのかが未だに理解できぬ」
ああ、それで、畑の植物が元気になっていたんですか・・・。
というか、もしそれで本来の魔法効果が発動していたらどうするつもりだったんでしょう・・・。
この辺り一面が焼け野原になっていたかもしれないっていうことですか。




