山龍討伐一日目(10)
術式を完成させるのにまだ時間が掛かるということで、ライアと一緒に行動するのなら森を探検しても良いということになった。
ということで、森を探索しながら魔獣との戦闘を何回か繰り返したのだが
「本格的に、自分は要らないのではないだろうか?」
「チシロさま、何を言ってるんですか。 私の攻撃も、チシロさまの魔力をお借りして発動しているんですよ?」
「そうぞ。 それにちしろよ、お主は我らよりも早く敵に気付いておるようじゃ。
魔獣に対して先制攻撃を仕掛けられるのも、全てはチシロのおかげといえる!」
「そんなもんかなぁ・・・」
ちなみに、「武器が悪いのでは?」とライアが言ったので、試しにバトルナイフを貸してみたところ、ライアが持つナイフが触れるだけでスライムが爆散した。
こっちが全力でスライムを切り裂いても、傷一つ与えられなかったというのに・・・。
まあ、さておき、そんな感じで近くの薬草を探したり、野生の魔獣と戯れたりしながら時間を潰していると、声の主たちから声がかかった。
<<術式の構築が後わずかで完了する>>
<<術式の起動を行うゆえ、こちらに戻ってくるがよい>>
術式を発動するためには一度、獣の元に戻らなくてはならないらしい。
ライアによると、自分の中には複雑怪奇な術式がうごめいているらしいが、それっぽい感覚は全くしない。
声の主たちが言っていた通り、人体には全く影響がないらしいどころか、どうやら感知することもできない類のものらしい。
少し歩いて獣のいた場所に戻ると<<では、獣に手を当てよ>>と言われたので、言われた通りに右手で獣を触る。
手で触れた部分は、ひんやりと冷たく硬く、まるで本当に岩に触っているようだった。
あらかじめ「これは魔獣です」と言われていなければ、触っても気づかなかったことだろう・・・。
<<では、術式を起動する。>>
<<万が一違和感を感じたら、すぐに告げよ。>>
<<術式、起動・・・>>
「起動」の声がかかると同時、身体中に「ピリッ」と電気が通ったような刺激が走った気がする。
獣の方も「ピクリ」と震えるように動いたようで、何らかの現象が起こっているようだ。
手で触れていた部分がどんどん柔らかく、暖かくなっていく。
はじめに触れていた時は「まさに岩」といった感じだったのだが、今ではもふもふの毛皮に触れているような感じ・・・。 ああ、毛皮なのか。これ。
それからさらに少し待つと、ピリピリしていた感覚が治った。
<<うむ。術式完了である>>
<<無事に成功したようであるな。>>
<<お主らの協力に感謝する。>>
「いえいえ。 こちらこそ、なかなかできない体験をさせてもらいました」