面接
結局、一次試験を合格した冒険者14人のうち、二次試験を合格したのは自分とコハクさんとリコを含む6人だけだった。
他の受験者達は『戦闘』というよりは『踊り』してるようなものだったので、自分から見ても審査は厳正に行われたように見える。
ただまあ、リコの対戦相手だった大柄な男については運が悪かったというか……明らかに実力差がありすぎて、何かをしようとする前に負けていて、なんかまあ、見た目は強そうだっただけに少し「可哀想だな」と思わないでもなかったけれど。
その後、自分たちはアピスさんから一人ずつ順番に面接が行われていった。
簡単に作られた天幕の中に一人ずつ冒険者が入っていき、数分後にはガッツポーズをしながら出てくる。
面接なんて……前世でも数えるほどしかしていない。
緊張しながら自分の番が来たので中に入ると……そんな様子を見たアピスさんはクスッと微笑んだ。
「そんなに緊張しなくて大丈夫ですよ……改めて、私は『黄牛』のアピスです」
「えっと……自分は、ミトです」
「はい、よろしくお願いします。さて……ミトさんは転生者、でしたっけ? 聞いた話ではつい最近転生してきたばかりだとか……?」
どうやら自分のことはある程度調査済みらしい。
嘘をつく理由もないので「はい」と素直に返事すると、彼女は「ふむ……」と少し困った顔をした。
「この面接は……スパイをあぶり出すのが目的なのですが、転生直後ということはその調査も必要ないですね。そうですね……すこし、雑談でもしましょうか」
なるほどたしかに、転生してきたばかりで他ギルドとの繋がりなどない状況で、スパイかどうかを調べる意味も無いと言うことか。
とはいえ実際は、自分はスパイどころか元黄金の関係者ではあるのだが、それを言うとややこしくなるから黙っておこう。
「ミトさんは……この世界でなにか、やってみたいことはありますか?」
「そうですね、まだこの世界のことがよくわかっていませんので……」
「『黄牛』の事業は一次産業から二次産業、三次産業まで手広く展開しています。最初は指示に従ってもらいますが、いずれはやりたいことを見つけられると良いですね」
朗らかに笑うアピスさんを見て、俺も少しだけ気が和らいだ。
「自分は……ちなみに、最初はどんなことを指示されるんですか?」
「そうですね、まずはヴァシランドカードの卸売りから覚えてもらいますが、ミトさんは杖術の達人のようですから小規模な『襲名戦争』に戦力として参加してもらうかも知れませんね」
「襲名……戦争、ですか」
聞き覚えのある、ある意味懐かしい単語を耳にして、自分は思わず聞き返してしまった。
アピスさんは、そんな自分の「しまった……」という表情には気づかずに、ふと疲れた顔をした。
「ああ、転生したばかりのミトさんには分かりませんよね。この世界では、ギルドの名前を賭けて毎日競い合いが起きているんです。『黄牛』というギルドは、今のところは私たちが守り続けていますが、取って代わりたいと目論むギルドも多いので、大変なんですよ……」
どうやら自分が他の世界を点々としているうちに、襲名戦争という概念は変わっていたらしい。
自分にとっては、世界中の中小ギルドを巻き込むレベルの、一世一代の大イベントという認識だったのが、この時代では日常的に中小ギルド同士で起こる小競り合いにも使われているようだ。
そんなこんなでこの世界についていろいろとアピスさんから聞き、彼女が「そろそろ良いですかね」と切り上げたところで、自分は正式に『黄牛』に仮採用されることになったらしい。
ステータスカードを確認すると、金色の牛角のような小さなアイコンが追加されている。
「それでは他の方の面接が終わったら、地上でギルマスに面接したら、正式採用となりますので、しばらくお待ちくださいね」
そう言って手を振るアピスさんに向かってお辞儀を返して、自分は天幕の外で全員の面接が終わるのを待つことにした。




