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転生システムに致命的エラーを発見してしまったのだが  作者: みももも
第肆章:転生世界(帰還)

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一次試験(足切り)

 リコと雑談しながら、この世界の(今の時代の)常識をいろいろ教えてもらっていると、開始時間になったようだ。

 強そうな雰囲気を纏った数名の冒険者が広場の中心にある台に上り、拡声の魔道具に声を吹き込んだ。


『みなさま、黄牛(あめうし)の入隊試験にご参加頂き、ありがとうございます』


 若い女性の声が広がり、集まっていた冒険者達は声を静め耳を傾けた。

 ざわつきが一瞬にして静まるのを待って、台上の彼女は再び口を開く。


『私は黄牛のサブマス、アピス・アメウシです。本日は皆様の試験を担当させていただきます……さて、では早速一次試験を始めましょう』


 そう言って彼女が合図をすると、広場全体が透明な結界に覆われた。

 同時に、結界内にいるすべての冒険者に、一定ダメージで破壊される簡易結界が展開される。

『一次試験は、生存能力試験です! これから一時間の間、結界内で傷を負わずに生き延びてください!』

 参加者同士で争い合え……ということかと思い、それが違うとすぐに気づかされる。

 互いに警戒し合う冒険者達を嘲笑うように、結界が何カ所か開いて『モォーーーーッ!』と雄叫びが鳴り響いた。


 現れたのは、数メートルはあろうかという巨大な牛の魔獣。

 広場の四方から投入された牛たちは、手当たり次第に冒険者に襲いかかり巨大な角で押しつぶし、次々に失格の烙印を押していく。


「うわぁぁぁ! こっちに来るな、うわっぁああ!」

「この、これでも喰らえ! んなっ? 俺の最高火力が通用しない、うゎああああ!」

「いやっ……やだ! なんで、こんなことに……ひぃ!」


 さっきまでほのぼのとしていた広場は一瞬にして阿鼻叫喚に満たされた。

 結界が破壊された参加者は自動的に広場の外に転送され(はきだされ)、外から呆然と中の様子を眺めていた。


「ミト! 二次試験で会おうね!」

 それだけ言い残して、リコはどこかに姿を消した。

 自分もただ立っているだけだと犠牲になりかねないと判断して……妖精の羽根を開いて身体を宙に舞わせた。

 牛の視線よりも高く上がると、牛たちは自分に攻撃することは諦めたようだ。

 ちょっとずるい気がするけれど、地上側で生き残れる自信もないので、まあ仕方ないとする。


 上空から見下ろすと、参加者達は様々な方法で生き残ろうと頑張っている。

 息を潜めて気配を完全に遮断して、牛の死角に隠れてる人もいるけど、そのほとんどは無造作な暴力の前に次々と脱落していく。

 牛と正面からぶつかり合おうとする人もいる。中には互角にやり合えてる人もいるけど、彼ら彼女らの結界は少しずつ摩耗して、やがて脱落してしまう。

 自分と同じように上空に逃げた人もいるけど、飛び続けるというのは案外難しいらしく、少しずつ高度を下げて牛の餌食になってしまう。


 ずううぅぅん……


 重い音が聞こえたと思ったら、広場の一角で巨大な牛が膝を突いて倒されていた。

 牛の目の前にいたのは、クガネチシロの弟子を名乗っていた小柄な少女。

 どうやら彼女は、ああ見えてかなりの武闘派らしく、巨大な牛を簡単に倒してしまったらしい。


 かと思えば、ずがぁんずがぁんと広場を破壊して回る牛の先で、ひょいひょいと攻撃を躱し続けている人や、気配を完全に絶って牛からも完全に無視されている人、逆に牛を手懐けてしまっている人など、なんだかんだ、生き残っている人はいるようだ。

 試験が始まってから10分で大量の冒険者が脱落したけれど、そこから先は生き残れる猛者ばかりがのこったせいか、ほとんど脱落者が出る事もなく、牛達の動きも緩慢になり、50分時点でほとんどの牛は飽きて欠伸をしていた。


『一次試験終了です! 生存者の皆様は、二次試験をおこないますので、こちらに集まってください』


 試験官のアピスさんが再び顔を出すと、黄牛のメンバーらしき冒険者が牛を手懐けてどこかへ運んでいった。

 自分は高度を落として、他の生存者と合流しながら彼女の元へ向かった。

 広場を埋め尽くすぐらいだった参加者は、たった一時間で数えられるほどに減ってしまったらしい。

 その中にリコの姿を見つけて、自分は嬉しくなって彼女の元へと駆け寄った。

「リコ、無事だっただね!」

「ミトも。もしかして空飛んでた?」

「うん。リコはどうしてたの?」

「私は……ずっと気配消して、牛の背中の上に乗ってたよ?」

 なるほど。灯台もと暗しというか、脅威のすぐ近くこそが、一番の安全地帯だったのかもしれない。

 もちろん、そんなこと普通の冒険者はやろうと思って出来ることじゃない。

 それを彼女は、さも当たり前のように話す。

 一番楽だからというぐらいの軽い気持ちで、最も難易度の高いことを容易くこなす。

 リコという少女が常識外れの能力を持っているのだと、改めて思い知らされた。

 もしかしたら、SランクやSSランク冒険者レベルの実力があるのでは……? なんてことを考えていると、ニコッと年相応の笑顔を返された。


 一次試験を生き残った冒険者は、最終的に14人だったらしい。

 アピスさんは再び台に上がり、拡声魔道具に声を入れる。

『ひ、ふ、み……思ったよりも残りましたね。それでは二次試験の内容を説明します』

 あれだけ大量にいた参加者がここまで減ったのに、彼女からすると「結構多い」という結果らしい。

 というか、この反応を見る限りだと、これと同じ試験を何度も行ったことがあるのかもしれない。

『二次試験では、生き残った人同士一対一で模擬戦をしてもらいます。最低限の戦闘能力があるかどうかを判定するのが目的なので、勝ち負けは重要ではありません』

 そう言いながら、彼女は次々と冒険者を指さして、二人組に分けていく。


 リコは名も知らない男の冒険者とペアにされ、自分は……


『そこの男は……そっちの子と戦ってね!』


 彼女が指さす先には、参加者の中で唯一、牛をなぎ倒した少女。

 クガネチシロの弟子を名乗る彼女が立っていた。

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