ギルド選び→漁夫の利
カーマさんが案内してくれた部屋に入ると、机の上に書類が山積みになっていた。
「ざっと分類わけしたから、後は好きにしな!」
そう言ってどこかへ行ってしまい、自分とリコだけが部屋に残された。
試しに一枚手に取ってみる。
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ギルド名:新世界探索組(32)
ギルドランク:シルバー1
所属メンバー:Aランク冒険者1名、その他14名
入隊条件:面接(一回)
活動内容:新世界の探索をしています。メンバー全員家族のように仲良いです!現在は特に補助職を中心に募集しています!
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ちなみにこの、ギルド名の最後にある「(32)」というのは、全く同じ名前のギルドが他に31個あって、三十二番目に作られたギルドであるという意味らしい。
このギルドのように面接一回で合否が決まるギルドもあれば、ちゃんとした入団試験が必要なギルド、逆に無条件で入れるギルドもあるようだ。
どちらかというと『赤の』みたいに『色名』が含まれるギルドほど、厳しい条件となる傾向があるようだ。
「なるほど……」
「ミトは、どれか気になるのあった?」
「そうですね」
とりあえず、色のついていないギルドを、今の自分があえて選ぶ理由はない。
カーマさんが分類してくれたうちから無色のギルドを除外すると『赤』系と『黄』系のギルドが多くて、それぞれ十枚以上あった。
その次に『橙』『緑』『藍』の三色が五から六枚あって、『紫』と『青』はその次でそれぞれ二枚ずつしかなかった。
とりあえず『黄』系の中から、一番『想』が光っている一枚を取りだして、内容を確認する。
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ギルド名:黄牛
ギルドランク:ゴールド3
所属メンバー:Aランク冒険者7名、その他多数(100〜500)
入隊条件:試験(一次)→試験(二次)→面接→面接
活動内容:黄金系列の総合ギルドです。冒険から酪農まで多方面に力を入れて活動中です。
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他の『黄』系のギルドはすべて孫ギルドや曾孫ギルドで、直系の子ギルドはこの一枚だけだった。
黄金の人たちにコンタクトを取るのなら、このギルドに入るのが一番効率がよさそう……かな。
「リコ、自分はこのギルドを受けてみようと思います」
リコに見せると、彼女は「へぇ〜」と言いながら内容を確認した。
こくりと頷きながら書類を返してくれる。
「うん、良いんじゃない? ……ねえ、ミト。このギルド、私も受けてみても良い?」
「リコも? 別に自分はかまわないけど、リコはギルドに所属してなかったの?」
「なんか私も、どこに入ろうか悩んでて。ミトと一緒なら、入ってみても良いかなって思ったから」
日付を確認すると、試験は明日の昼から行われるようだ。
とりあえず自分とリコは明日の午前中にこの酒場で会う約束をして、リコは洞窟探索に向かった。
今日のうちに、残っているクエストをいくつか終わらせてしまうつもりらしい。
自分は、とりあえずいろいろ身支度をすることにする。
「えっと、まずは……」
資料室を出てギルド内の雑貨屋へ向かい、魔石の嵌まっていない安い杖と、食料品をいくつか買いそろえる。
自分にとってこれは初めての転生ではないから、前前前前世の記憶を思い出せば必要な物は大体想像がつく。これが『強くてコンティニュー』というやつか。強くはないのだけど。
買った物を全部フードの中に入れようとして……そういえば今のローブは普通のローブなのだと思い出した。仕方がないから邪魔にならないサイズの肩掛け鞄を買い、その中に全部詰め込むことにする。
空間拡張や重量軽減の効果はあるみたいだけど、無制限というわけじゃないから、ある程度厳選する必要があるかな。
支援金の一割ほどを使って装備を調えて、今晩泊まる宿まで確保できた。洞窟内は日が差さないから実感は薄いけど、まだ外は明るい時間だし、少しの間時間を潰すことにした。
ギルドのクエストボードを眺めると、洞窟内ということもあり、鉱石素材の回収クエストが多くある。
つまり散歩しながら、キラキラした石を探せば良いのかな。それぐらいなら出来そうだし、成果がなかったとしてもまあ、それならそれで良い。
建物から外に出て壁際に向かい、無数にある穴のうちの一つを選んでまっすぐ進むことにする。
一歩ごとに、うっすらと妖精の鱗粉を壁や床に貼り付けながら、キョロキョロと何か落ちていないか探しながら進む。
「う〜ん、なにもないなぁ……」
まあ、当然といえば当然だけど、そんな簡単にお宝が見つかったりはしない。
三十分ほど進んで、でもなにも見つからず。そろそろ帰ろうかな……と思ったところで、ふと何かを感じる。
「動物……魔物の気配かな?」
枝分かれした洞窟の末端から、魔物特有の雰囲気がある『想い』が二つ、流れてくる。
直接見たわけじゃないからはっきりとはわからないけど、想いと想いがぶつかり合っている……ような気がする。
「見に行ってみよう」
羽を広げ、鱗粉を散らしながら細い洞窟内を滑るように移動する。
歩けば数時間かかる距離を数秒間で駆け抜けると、洞窟の三叉路で、二匹の魔物が向き合っていた。
しゃぁーっ!
ぎゃるるるる……!
蛇のように胴体の長い魔物はすでに傷だらけで、猫のような四足歩行の魔物が軽快に飛び回る。
体格差は圧倒的に蛇が有利なのだけど、早さという点では猫が勝っていた。
むき出しの牙でかみつこうとする蛇の頭を軽く飛び越えて身をひねり、鋭い爪が振り下ろされる。
ザシュッ!
小さな爪では考えられないほど大きな斬撃が放たれ、蛇の頭がボトリと落ち、身体がバラバラと崩れて土に戻っていく。猫は灰の中から一粒の魔石を見つけ出し、口にくわえてどこかへ逃げ去っていった。
遺された蛇の死骸に近づくと、キラキラと輝く塊がいくつかあった。
「これは……?」
消化されずに残った鉱石が出てきた……とかだろうか。
ってことはあの蛇は、あんな牙がありながら、土を食べる生き物だった?
もしかしたら蛇というよりも、ミミズに近い生き物だったのかもしれない。
手で土を掘りながら金属塊をいくつか取りだした。素人の自分にはわからないけど、とりあえず土を拭って鞄にしまう。
大きな塊を七つぐらい回収したところで鞄に入りきらなくなったので、残りは放置して拠点に戻ることにした。




