表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生システムに致命的エラーを発見してしまったのだが  作者: みももも
第参章:地球世界

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

687/696

地球世界(7)

 意気揚々と家を出たものの、冷静になって考えれば、行く当てがあるわけもない。

 少し探せばビジネスホテルぐらいはあるかもしれないけど、そもそも手持ちのたった二千円で、ホテルに泊まれるのかも怪しいところだ。

 ということで、近くの公園のベンチに座る。

 幸いにして、今の季節は夜になってもそこまで冷え込むことはない。

 風邪ぐらいは引くかもしれないが、別に翌日仕事があるわけでもないし。

 このまま夜が明けるのを待つことにしようかな。


 思えば、ここしばらくの間で一番惨めな状況かもしれない。

 初めて転生した日にも、一人きりになることはほとんどなかった。

 すぐにマテラに出会えたし、黄金(ギルド)に入ることも出来た。

 その後なんだかんだといろいろな世界を渡ったけれど、生まれ故郷の世界が一番孤独とは。

 なんというか、複雑な気持ちになる。

 自分には、どうしてもこの世界が、自分に相応しい世界とは思えない。

 かつて過ごしたはずの空間が、今の自分には居心地悪い。

 故郷って言うのはもしかしたら、そういう性質があるのかもしれない。


 独りで悩んでいると、どうしても悪い方向に考えてしまう。

 父さんも母さんも、俺がいなくてもそこそこ元気にやっていた。

 自分の残り香だけはあったけど、そこに居場所は残っていなかった。

 自分のことなんて早く忘れて、二人は二人の人生を歩んで欲しい。

 そう考えればやはり、自分はこの世界にいない方が良いという結論になる。


『……さま! チシロさま!聞こえますか……?』


 そんなことを考えていると、マテラの声が届いた。

「マテラ……?」

『パパ、聞こえる? ごめんね、こっちはなにも聞こえないんだ……』

『そういうことで、申し訳ないのですが一方的に伝えますね……』

 まさか幻聴か……と思って耳を澄ませると、ナチュラの声も混じって、はっきりと聞こえた。


『チシロさま、そろそろ世界の霧が晴れそうです。チシロさまを引き上げますので、人気のない場所に移動してもらえますでしょうか』

『あまり時間がないから、急いで! 十五秒後に引っ張るよ!』

 

 幸いなことに、自分がいるのは人気なんて欠片もない夜の公園。

 向こうに声は聞こえないみたいだから、座ったままじっと待つ。

 ぴったり十五秒間、心の中で数えると同時に目の前の景色が切り替わる。

 浮遊感が全身を包み、自分は狭間の空間に戻されていた。

 まるで、短い夢を見ていたような感覚だった。


「チシロさま、お帰りなさい。いかがでしたか?」

「うん。父さんも母さんもまあ、元気にしてたよ」

「いいなぁ、私もパパの家族に会ってみたかったかも」

「それはまあ、少し難しいかな」


 なにせ向こうは妖精なんて存在しない世界だから。

 なんて説明していいものか。こういうおもちゃだ、って説明するのは、それはそれでマテラやナチュラに失礼だし。


「みてください、チシロさま! 雲が晴れて、今なら世界に行けそうです」

「でもね、パパ。たぶんあの世界に入ったら、もう二度と世界を旅することは出来ないよ」

「チシロさま。チシロさまには選ぶ権利があります。故郷の世界に戻るか、転生後の世界に永住するか」

「パパが決めてね。どっちを選んでも、私たちはついていくって決めたから」


 二人はそう言って黙り込む。

 父と母が待つ故郷か、ギルドの仲間達が待つ異世界か。

 だけど悩む必要はなかった。


「行こう、みんなが(・・・・)待ってる」


 生まれ故郷に背を向けて、自分は雲の切れ目に飛び込むことにした。

 はぐれないようにマテラとナチュラを抱きしめながら。


 ほんの一瞬、意識が途切れた感覚のあと、いつか見た景色が目の前に広がっていた。



 転生者の『チシロ・ミト』様

 大変申し訳ありません。

 ただいま、担当者が席を外しております。

 しばらくお待ちください。



 ああ、よかった。

 目の前には、見慣れた(かつての)コンソール(トラウマ)が浮いている。


 あの時と違ってマテラとナチュラが隣にいる。

 三人で喜びながら、自分はおとなしく担当者が来るのを待つことにした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ