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転生システムに致命的エラーを発見してしまったのだが  作者: みももも
第参章:地球世界

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地球世界(5)

 彼女と別れた自分は、名刺に書かれている番号に電話をかけようかと思ったけれど、そもそも自分は携帯電話を持っていないことに気がついた。

 財布から取り出したのは千円札が二枚だから、どこかで小銭に崩さないといけないし、そもそも公衆電話を見かけなかった。

 というかついさっき通ったときに、かつて公衆電話があったはずの場所が喫煙所に変わっていたのを思い出す。

 かといって、学生ならともかくこの歳になって「携帯貸して」というのもな……


 ただでさえこんな見た目で不審がられていそうな自分に、快く携帯電話を貸してくれるような奴がいるだろうか。

 図書館にはインターネットを使えるパソコンがあるようなので、貸してもらうことにした。

 名刺に書かれた事件名で検索すると、数年前の記事やブログがいくつかヒットする。


 とりあえず、自分が転生した件に関しては『謎の事件』という扱いになっているらしい。

 当時はかなり騒がれたらしいのだが、それも今では落ち着いている。

 一般人が神隠しに遭った程度では、日本社会は揺るぎもしないらしい。

 それは自分にとって、気が楽になったようでもあり、少し寂しいようでもあった。


 おそらく……魔術も魔力も存在しないこの世界の人では、原因を探ることが出来ないのだろう。

 これ以上調べてもわからなさそうなので、自分はそのまま図書館を出ることにした。

 とりあえず、自分が転生したであろう場所を目指すことにしよう。


 図書館を出て歩いて十分で、駅に着く。

 券売機で切符を買って、かつて乗り慣れた電車に乗り込んだ。

 昼間だからか、電車はガラガラに空いている。

 少しずつ、あの時のことを思い出す。


 実家を離れて一人暮らしをしていた自分は毎朝毎夜、満員の電車に乗っていた。

 あの日も、家から目的地まで……そう、確か二駅を過ぎた辺りだったかな。

 ターミナル駅で大勢の人が乗り込んで、ちょうどその直後だったような記憶がある。


 三十分ほど電車に揺られ、事件が起きたであろう地点の手前の駅で降り、改札を抜けて外に出る。

 線路沿いの歩道を歩いていると、鉄道柵に、少ししおれた花束が供えられていた。

「これは……まさか自分の?」

 自分が転生に巻き込まれたのは、確かにこの辺りだった気がする。

 ちょうど良い目印があったと言うことで、近づいてみて儀礼的に手を合わせる。


「今自分は、自分自身に拝礼しているのだろうか……」


 シュールな気持ちになりながら、柵の間から線路の様子を確認することに。

 特に変わった様子もない……いや? 何か思念のようなものが渦巻いている?

 視界を『想力』的な状態に切り替えると、線路から少しそれた辺りで何かがぐるぐると流動しているようだった。

 目を凝らすと、視界がにじむようにぼやけていく。

 この世界では、精霊力だけでなく想力も弱まっているのだと実感させられる……だけど、視神経を通じて頭が痛くなるのを無視して、強引に焦点を合わせるようにする。

 その瞬間、確かに見えたのは、羽毛に覆われた半透明の雛だった。


「こっちへ……おいで……」


 想いを込めた言葉を口にして、雛に向けて優しく投げかける。

 雛は、自分の思いを受け取って……そのままパクリと口にした。

 首を振って周囲を確認すると、何もない空間をよちよちと歩きながら自分の方に近づいてくる。

 雛の様子は、前の世界で見た精霊とよく似ていた。

 おそらく似たような生き物なのだろう。

 口を開けてピーピー鳴いているのは、自分に餌をねだっているのだろうか。

 普段であれば、精霊力でも想力でも与えることは出来るのだけど、今の自分には余裕がない。


 どこかに、強い想いのこもったものでもないか……と見回してみると、柵に結びつけられた花束が目に入った。

 確認すると、おそらく被害者(じぶん)に向けられたものであろう、『願い』が染みこんでいる……

 こうしている間にも、雛はみるみる衰弱していくようで。


「仕方がないよね、緊急事態だし。ほら、食べな」


 花束から『想力』をすくい取り、雛の口元に運んでやると、雛は喜んでそれを飲み込んだ。

 少しずつ血色を良くしていき、やがて其の姿は雛ではなく、立派な翼の生えた成鳥に姿を変える。


『ありがとう、そしてあの時はごめんなさい……』


 最後にそう言って、精霊鳥は羽ばたくようにして姿を消した。

 あの時というのは、もしかしなくても自分が転生したときのことだろう。

 ということは、その原因はあの鳥だったのだろうか。

 何が起きたのかもよくわからないけど、元気になって良かった。

 ……ということにしておこう。


 改めて線路を見ると、違和感は完全に消え、そこには普通の線路があった。

 もう用はない、そう思って立ち去ろうとしたところ、線路沿いを歩いてくる人の姿が目に入る。


「あれは……父さん?」


 真新しい花束を持ったその人は、自分の記憶よりも少しだけ老けた、父の姿によく似ていた。

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