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転生システムに致命的エラーを発見してしまったのだが  作者: みももも
第参章:地球世界

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帰省(3)

 十分ほど小走りをすると、大きな建物が見えてきた。

 地図上は公民館と記されているここには、二階部分が図書館になっている。

 自分も、子供の頃はたまにお世話になったものだ。

 改めて懐かしい気持ちがよみがえる。


 ちなみに途中、人通りの多い道も何度か通り過ぎたけど、自分のことを不審に思う人は特にいなかった。

 今の自分の姿は日本人離れして入るけれど、まさか異世界人だとまでは考えなかったのだろう。

 せいぜい外国人ぐらい? 島国の日本では、海外の人を見慣れていないから、全部同じに見えてしまうのか。

 それとも、元日本人の自分の持つ雰囲気が、違和感を上手く隠してくれたのかもしれない。


 この図書館は、お世辞にも蔵書が充実しているとは言えない。

 流行の本は置いてないし、どの本も表紙がボロボロになっている。

 本を読むためと言うよりも、学生が自習用に使う方が多いぐらいだ。

 だけど今は、そんなことはどうでもいい。


 図書館に入った自分は、書架も自習スペースも無視して、奥へと進む。

 目的地は新聞コーナーだ。

 この図書館には、地元の新聞が無料で閲覧できる場所が用意されている。

 もしかしたらそこに、自分が転生することになった事件のことが書かれているかもしれない。


「さて……」


 表紙には、政治家が不正をしたというようなことが書かれている。

 聞いたことのない政治家だけど、まあ自分は政治に詳しいわけでもないし、あまり興味もない。

 パラパラと中身をめくっていくうちに、違和感を感じる。

 どうにも、聞いたことのない話題が多い。

 変なウイルスが流行っただとか、マスクをしていないことが原因で喧嘩になっただとか。

 さっきから自分に対して不信感を持っているような感じの人が多いのは、もしかして自分が、マスクをしていないから?


「いやまさか、そんなわけないか」


 そういえば、と思って新聞の表紙に戻り、日付を確認すると……

 思った通り、平日だった。

 祝日でも、土日でもないありきたりな日付。

 そして、西暦が……


「五年以上、経過している……!?」


 さっきからちらほら出てくる『令和』というのは、元号のことを言っているらしい。

 この世界と、自分が転生した世界では、時間の流れが違うのか?

 あるいは、距離の概念を超えた別世界に光速度で移動することで、タイムスリップをしたのだろうか。


 いずれにせよ、五年も前のことが書かれているわけもなく、もう一度中身をあさってみたけれど、それ以上の収穫はなかった。

 小さくため息をついて、新聞を閉じる。

 司書さんに頼めば、過去一週間の新聞が閲覧できるらしいけど、それでもおそらく、得られるものはないだろう。


「う〜ん……さて、どうしたものか……」

 新聞コーナーから離れて、うろうろとさまよっていると、見かねた司書が恐る恐ると近づいてくる。

「……あの、なにかお困りですか?」

「いえ、そういうわけではないんですけど……」

 その司書さんは、どこかで見たことがあるような顔立ちだった。

 いや、気のせいかもしれないけど……と思って、首から提げているネームプレートを見ると、この名前も見覚えがある。


 ……あ、そうか。

 この人、中学時代の同級生だ。

 テストではいつも学年上位を維持していたから、なんとなく覚えている。

 確か文芸部で、いつも難しそうな本を読んでいた。

 学級委員みたいなポジションでクラスを上手くまとめていた……


 話したことはあまりないから、彼女の方は自分を覚えていないかもしれない。

 そもそも今の自分の顔は、転生前とは別人になっているわけだけど。

 そういえばあの頃から彼女は、勉強の苦手な周りの友達に、親切に丁寧に勉強を教えていた。

 親切な性格は、あの頃から変わらないということなのだろう。


「えっと……少し調べごとをしたいんだけど」

「調べごと……ですか? お手伝いできるかもしれませんよ。どんなことを調べているのですか?」

「事故……か事件かは、わからないけれど、五年ぐらい前に大勢が死ぬことになった……」

 自分の覚えている範囲で、質問をすると、彼女は天井を見上げるようにして悩み、そしてあることに気がついたように目を閉じる。

「もしかして『列車爆破事故』のことですか?」

 列車爆破事故……自分の転生後、この世界ではそう呼ばれることになったのだろうか。

 確かに自分が転生する直前、自分は電車に乗っていた。

 爆破事故という呼称も、そのときの状況に酷似する。

「そうです、その事故のことを調べたくて……」

「そうですか……あれから、もう五年もたつのですね」

 いやな記憶を思い出させてしまったようだ。

 彼女は青ざめた顔で浅く息をして、近くにあった椅子に腰掛けた。

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