狭間の世界にて
「元の世界へ? 今から戻ろうとしているんじゃないの?」
「いえ、そうではなく、私とチシロさまの生まれた元の世界……地球です」
「ナチュラが生まれた世界を感じたように、私は地球を感じたのです」
立て続けにそういったマテラは、少し離れたところに浮いている穏やかな空間を指さした。
「あれが……地球?」
かつて宇宙飛行士は「地球は青かった」と言った。
異空間から見た地球は……青くもないし、丸くもなく、そもそも見ることができるものでもなかった。
自分にはよくわからないが、マテラによるとあの場所に、確かに地球のある世界が存在しているらしい。
「私が、お守りという神秘的なものが素体だからなのか……あるいは、魔力も精霊力もない地球という特殊な空間だからなのか、それとも私が何度か世界を出入りしたからなのか。理由はわかりませんが、チシロさま一人ぐらいなら、自由に出入りさせることができそうです」
「そうか……地球に戻れるんだ」
「もちろん、戻るかどうかはチシロさまの判断に任せます。ですがおそらく私たちがこの空間に来るのは今回が最後です。この機会を逃したら、二度と地球へは行けません」
自分は、別に地球に未練とかはないと思う。
仲の良い友達とかはいたけれど、恋人とかそういうレベルの人はいなかった。
運が良いのか悪いのかは知らないけれど。
両親も、割とあっさりした人達だったから、自分の死を受け入れて入ると思う。
むしろ、一度死んだ人間が現れて、しかもまたすぐに旅立っていくという方が、精神的には悪そうだ。
「いかがですか? チシロさま」
ただまあ、気になることがないわけでもない。
そもそも自分の転生が、地球でどのように扱われているのか。
あとは、両親や友達が、元気にしているのかどうか。
妹の友達とかがどうしているかも、土産話として持ち帰ってもいい。
元気にしていると聞けば真白も安心するだろうし、幽霊的な存在として、自分たちは転生先で元気にやっていると伝えてやっても良いかもしれない。
「行くことにするよ。マテラ、頼める?」
「おまかせください、チシロさま!」
マテラとナチュラは、この空間に残るらしい。
世界の雲が晴れるのを見張っていないといけないし、こっちに引き上げるには二人が力を合わせないと難しいらしい。
ずっと一緒にいたマテラと分かれるというのは不安でもあるけれど……まあ、今から行くのは自分がよく慣れた地球だ。
なんとかなるだろう。
異空間を少し移動した場所で、マテラが自分に触れながら目を閉じて力を込める。
「それではチシロさま……数秒間目を閉じてください」
言われたとおり、目を閉じる。
自分を不思議な感覚が包んでいき、空間がゆがんでいるのが感じられる。
少しずつ、自分の重さを感じるようになっていき、数秒後。
自分の足が、地面についた。




