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転生システムに致命的エラーを発見してしまったのだが  作者: みももも
第弐章:精霊世界

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精霊の学園(3−1)

 その後スィラさんは、自分の部屋を出てスィラさんの部屋へと戻っていった。

 龍の精霊とその召喚主である兄弟と、話をするのは午前中という指定だったけど、さすがにこんなに朝早くからというわけではない。

 ということで、一時間ぐらい仮眠をとって、その後で待ち合わせ場所へと向かうことになった。


「自分は少し寝るけど……時間になったら起こして」

「もちろん! パパ、お休み!」

「チシロさま、私たちはもう少し精霊力について調べますので……」

「うん。おやすみ」


 ベッドに倒れながら横目に見ると、マテラとナチュラはあーだこーだと意見を出し合っていた。

 スィラさんが精霊力の訓練をしていた様子を見て、話が尽きないのだろう。

 二人には精霊力を使うことはできないけど、だからこそ観測した現象から、客観的に「精霊力とはなんなのか」という根本的なことを考えることができるのかもしれない。

 なんの役に立つのか。と聞かれたら、それまでなのかもしれないけれど、学問とはそういうものなのかも……

 そんなことをぼんやり考えながら、自分の意識はだんだんと沈んでいった。


 ◇


「……さま、チシロさま! そろそろ、時間です!」

 マテラが耳元でささやく声で目を覚ます。

 短時間の睡眠だったけど、少しでも寝たおかげで少し疲れが和らいだ気がする。

 まだ少しだるさの残る、重い体に鞭を打って起き上がると、ちょうどそのタイミングで部屋の扉が叩かれた。

 マテラが「どうぞ」と答えると、スィラさんが扉を開けて中に入ってきた。

「大精霊様、おはようございます。それでは、クリニヒ兄弟のところに向かいましょう」

「あぁ……そうだね。行こうか」

「どうします? 歩いて行きますか? それとも飛んでいきますか?」

「自分はどっちでも良いけど……スィラさん、寝起きなのに、元気だね……」

「いえ、僕は結局眠れませんでしたので! 寝ておりません! 飛ぶ練習をしてました!」


 それはどうなんだろう……徹夜は健康に良くないとも思うのだけど、まあ一日ぐらいなら大丈夫かな。

 そんなことを考えていたら、スィラさんは部屋に入り込んできて、そのまま窓を開けた。

 大きな窓だから、大人でも簡単に通り抜けることはできると思うけど……


「もしかして、そこから……?」

「はい! それでは僕が先に行きますね!」

「え……ちょ……」


 スィラさんはそういって、背中に羽を生やしてふわりと浮き上がる。

 開け放った窓から、すぅっと音もなく飛びだしていった。

 浮かび上がるのもぎこちなかった昨夜と比べたら、成長したなぁ……ってそうじゃなくて!

「チシロさま、さあ私たちもスィラさんを追いましょう!」

「ほら、おいて行かれるよ、パパ!」

 この世界の人がみんな翼を持ったら、この世界から玄関はなくなるのだろうか。

 いや、精霊力を使えない(空を飛べない)人もいるだろうから、玄関というものは残るだろうか。

 そんなことを考えながら、自分も精霊力で宙に浮き、まだどこか不安定さの残るスィラさんの飛行に続くことにした。


 時々適当な屋根の上に降りて休憩をしながら飛行を続けると、目的地が見えてきた。

 大きなスペースの中心に、一人の少年と、その上には巨大な龍がいるから、わかりやすい。

 彼もこちらに気づいたようで、少年は腕を組みながら自分たちを睨み付けている。

 龍は……なんとなく意識をこちらに向けているようではあるけれど、図体が大きすぎてよくわからない。


 スィラさんは、少年から少し離れた場所に着陸したので、自分もスィラさんのすぐ後ろに降りる。

 そのまま二人で歩いて近づいていく。

 小柄なスィラさんは、腕を組む少年を見上げるようにして、気さくな様子で話しかけた。


「やあ、クリニヒ((あに))。待たせた?」

「ふん、久しぶりだなリィラルルク。そしてそれが、お前の精霊……新たな(おう)精霊か?」

「この方が、僕の精霊……大精霊様だ。王精霊かどうかは、まだわからない」

「まあ、元から王族であるお前にとっては、必要ないだろうからな。だが、フラフリカを王族にする根拠として使うのだろう? だとしたら、王精霊であった方が都合が良いんじゃないのか?」

「それは……そうだが。そんなことを聞くために僕を呼び出したのか!?」


 二人の話を聞いてる感じだと『王精霊』というのは、『龍』や『霊狐』のように、この世界の王族にしか召喚できないとされている精霊のことなのだろう。

 あるいは、王族を選定する権限を持った精霊とか……?

 フラウさんが新たな王族を名乗る根拠として、霊狐だけでなく、自分……つまり、言葉を話せる人型の精霊も利用しようということだろうか。

 自分としては……まあ、どっちでもいいけど。


「もちろん、そんなことじゃない。俺は、その精霊に用があった。悪いが、少し貸してくれないか?」

「貸す……?」

「俺と、俺の龍精霊との、通訳を頼みたい。お前の精霊は、人の言葉を話すのだろう?」

「まあ、そんなことだろうと思ったけど……大精霊様、いかがですか?」


 スィラさんは、少年から視線を外して自分の方を見る。

 どこか蔑むような表情なのは、頼み事をする態度すらどこか横柄な少年を見て、呆れているのだろう。


「もちろん、手伝うよ」

「それじゃあ、まずは、俺の龍精霊様に『伺いたいことがございます』と、伝えてほしい」


 スィラさんや自分に対してはぶっきらぼうな少年も、自身の召喚した精霊にはへりくだっているらしい。

 態度の差にクスリと笑いそうになりながら、自分は龍精霊にむけて精霊力の声を向けた。

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