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転生システムに致命的エラーを発見してしまったのだが  作者: みももも
第弐章:精霊世界

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精霊の学園(2−14)

 中に入ると、待ち構えていたのはやはりというか、興味関心の視線の嵐だった。

 噂の人物を一目見ようと、どこからともなく次々と人が現れる。

 人の噂は人を呼び、たったの数分で、自分たちを取り囲むような人垣ができてしまった。


「あの、通してください……通ります……」

 フラウさんが声をかけると、目の前の人たちは道を空けようとするのだが、次々と人が押し寄せてくるので、すぐにその隙間が埋まってしまう。

 これはもう、フラウさんを連れて空を飛んだ方が良いのではないか。

 などと考えたとき、進行方向から「どけっ! 道を空けろ!」という声が聞こえてきて、みるみる道が開けていった。

 数秒後、数人の生徒や教師によって築かれたバリケードによって、自分たちの目の前には一本の細い道が伸びていた。

 そしてその先から、なんか偉そうな格好をした老人が、杖をつきながら悠然と歩いてくる。


 フラウさんはその老人に気づくと、その場に膝をついて頭を下げた。

「校長先生……」

 どうやらこの老人は、この学校の長らしい。

 周囲の野次馬たちも、噂話を止め、胸に手を当てて直立している。

 単に立場が上というだけでなく、崇敬の念を受けているのだろう。


 老人はゆっくりと歩きながら近づいてきて、フラウさんの目の前で立ち止まった。

「お久しぶりです、校長先生……わざわざ出向いていただき、感謝に堪えません」

「よい、よい。頭を上げよ。こんな状態では話もしにくいであろう」

「それでは、失礼いたします」


 フラウさんはそう言って、背を伸ばした。

 背の低い老人は、立ち上がったフラウさんを今度は見上げるようにしながら、片手を前に差し出した。

 フラウさんは即座に握手に応じ、周囲の野次馬から歓声とともに拍手が鳴り渡る。

「フラウ・フラフリカよ……大きくなったのう」

「ありがとうございます、校長先生」

 急に盛り上がった観客に、一瞬だけ驚いて肩をすくめたフラウさんに対して、老人はそんなフラウさんを見て微笑む余裕すらあった。

 長い間有名人をやっていると、こういう状況にも慣れるものなのだろうか。

「して、フラフリカ。すでに卒業しているお主は、我が校になにか御用であったかな?」

「今日は、校長先生にご報告と、お願いがあって参りました」

「ふむ……そうか。聞かせてもらおうか」


 老人が顎をなでながら聞くと、フラウさんは緊張した面持ちでゆっくりと口を開いた。

「まずは、ご報告から……私は、今回の精霊召喚の結果を受けて、正式に『王族』を名乗ることを決めました」

「よいのか? 王族になると言うことは、他王族と対等になるということだぞ? そうすればお前は、スウ家の貴族になるという夢は経たれることになるのだぞ?」

「よいのです。私は、スィラ先輩と、対等な関係として。後ろや下から支えるのではなく、ともに並んで歩くことにします」

「その勇気は尊重しよう。だが、上に立つのと下から支えるのでは、必要になる知識も技術も違う。今まで学んだことが無駄になるかもしれぬ。そこは理解しておるか?」

「覚悟の上です。それに、恐れながら言わせていただくと、今まで学んだことが完全に無駄になるわけでもないと考えています」

「そこまで考えておるのなら、これ以上私から言うことはない。大変だと思うが、研鑽を続けるがよい」


 フラウさんの言葉が聞こえたのか、自分たちを取り囲む輪のあちこちでざわめきが起こった。

 一大ニュースを前に、中には無遠慮に、どこかに向けて伝書鳩を飛ばす者さえいたようだ。

 自分たちの頭上を、鳥形の精霊が数羽、勢いよく飛び去っていった。

 しかしおそらく、その鳥の主たちは、先走ったことに後悔することになるだろう。


「それで、校長先生にお願いなのですが……」

「……聞かせてもらおう」

「校長先生には、私を支える『貴族』になっていただきたいのです」

「うむ。よかろう」


 ずいぶんとあっさりしたやり取りに見えた。

 震える声で聞くフラウさんに、老人は一泊すらおかずに答えを返す。

 あまりのあっけなさに、フラウさんは数秒、間を置いてからようやく理解して「ありがとうございます!」と頭を下げる。

 そしてそのさらに数秒後、状況を理解した観衆たちが沸き上がった。


 周囲の反応を見る限り、貴族というのはたぶん王族を直接支える配下のことなのだろう。

 この学校の校長が、フラウさんの貴族になったということは、フラウさん自身が王族になること以上の大ニュースでもあるらしい。

 校長先生が連れてきていた生徒や教師によるバリケードが少しずつ、押しつぶされるように小さくなっていく。

 崇敬の念を、興味関心が上回った瞬間だと思う。無数の質問が、フラウさんと老人に向けて浴びせかけられる。

 そこに至って老人も、ようやく「軽はずみに答えるべきではなかったか……」と後悔している様子だった。


<<六位の精霊よ、お主の力で、我と、我が主と、あと主の貴族となった男を持ち上げてくれぬか?>>

「わかった。フラウさん、あと……校長先生? 自分の力で持ち上げます。詳しい話は上空でしましょう」


 精霊力の翼を背中に生み出して、鱗粉をフラウさんと老人と霊狐に振りかける。

 そのまま返事を待たずして、二人と一柱を引き連れて、数メートル上空へと上がることで、ようやく押しつぶされそうな状況から脱出することができた。

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