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転生システムに致命的エラーを発見してしまったのだが  作者: みももも
第弐章:精霊世界

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スィラ邸(6)

「おふぁようございまふ、大精霊様!」

「スィラさん、おはよう……大丈夫?」

「……いえ、気になさらないでください! 扉の前でうろうろしていた僕が悪いのです!」


 扉を開けるときは、向こう側に誰かいるかもしれないからゆっくり開けましょう。

 なんていう、一般常識みたいなことを改めて学ぶきっかけになってしまった……

 スィラさんの様子をみると、特に鼻血が出ているわけでもなさそうだし、大けがをしている様子ではなさそうだ。

 とりあえず安心しても問題はないだろう。


「それで、スィラさんは何をしてたの?」

「いえ、はい。僕はそろそろ学校へ向かいたいのですが……」

「え、もうそんな時間? 日が昇ってまだ間もないのに?」

「はい、すいません……ただ、今日は第三位から第一位までの生徒が精霊召喚を行いますので、念のために。せっかくですから、大精霊様もご一緒しますか?」

「ああ……どうしようかな。マテラ、どうする?」

「そうですね……私としても、他の精霊というのが気になりますので……」

 念のためマテラにも聞いたところ、どうやら彼女も自分と同じ考えらしい。


「スィラさん、自分たちも付いていくよ。お邪魔でなければ……だけど」

「お邪魔だなんて、そんなことはありません! それで、その……もしよろしければ、空を飛んで登校したいのですが……」

「そんなことでよければ、喜んで協力するよ」

「ありがとうございます、大精霊様! それでは早速行きましょう!」


 真面目なスィラさんのことだから、きっと空を飛びたいと言ったのも「遅刻しそうだから」とか「歩くのが面倒だから」とかじゃなくて、精霊力で空を飛ぶための訓練的な意味合いがあるのだろう。

 何せスィラさんは、自分がこの世界にいる間に、自分と同じように精霊力で空を飛べるようになることを目標としているわけだからね。

 直接手を貸そうとしても上手くいかなかった自分としては、やはり可能な限りは協力してあげたいところだ。


 スキップしそうな勢いで楽しそうに外に向かうスィラさんは、玄関で執事に会って

「おはようございます。こちらが本日の昼食と、簡単なものですが、朝食を用意しました」

「ありがとう」

「行ってらっしゃいませ。朝食は、登校中にでもお召し上がりください」

 スィラさんが執事から手渡されたのは、風呂敷に包まれた弁当箱と、小包に入ったサンドイッチのような食べ物だった。

 風呂敷を背中に担ぎ、サンドイッチを手に持ったまま、執事に簡単に挨拶をして、そのまま外へ。

 自分も、執事さんに軽く頭だけ下げてそれに付いていく。


「それでは、大精霊様……よろしくお願いします!」

「うん、行くよ……」

 スィラさんが自分のことをじっと見つめているのに気がついて、よく見えるように、あえてゆっくりとした動作で行う。

 背中から精霊力の羽を生み出して、それをゆっくりと羽ばたくことで発生する鱗粉を操って、スィラさんに振りかける……

「はい、終わったよ!」

「何度見ても、わかりません……なんで僕は、今空を飛べているんでしょうか」

 ふわりと浮き上がるスィラさんに聞かれても、自分だって理屈がよくわかっていないのだから説明はできない……

「とにかく、スィラさん。今はとりあえず学校に向かおうよ」

「そうですね。あ、こちらは大精霊様たちの分みたいですね。どうぞ、お召し上がりください」

「ありがとう。マテラ達の分まであるんだ……」

 スィラさんに渡されたのは、肉や野菜が挟まれたサンドウィッチと、それを指先サイズまで縮小したミニチュアサンドウィッチが二つ、だった。

 ナチュラはまだ寝ているんだけど……

「チシロさま、せっかくなので頂きます。ナチュラの分は、箱に入れて保管しておきますのでご安心ください」

 マテラはそう言うと、自分の分のサンドウィッチを口に運びながら、もう一つを精霊力の箱で包み込んでフードの中に放り込んだ。

 なるほど、そういう使い方もできるのか……


 感心しながら羽の力で宙に浮き、同じく鱗粉の力で浮遊したスィラさんが移動する方についていくようにしながら自分のサンドウィッチを一口食べる。

 なるほど、野菜や肉を適当に切って挟んだだけにも見えるけど、味は悪くない。

「スィラさん、こうやって登校しながら朝食をとるって、普通なの?」

「いえ、一般的ではないです。貴族の中には『マナーが悪い』と言う人もいますが、僕は貴族ではありませんし、のんびり朝食を食べている時間もありません、ので!」

「そうなんだ、そんなものかな……」

「僕もそうですが、この時期の学生のほとんどは、そもそも朝食をとらないか、移動中などの空いた時間に食べる人が多いです。とはいえ空を飛びながら朝食をとるなんてのは、さすがに僕だけでしょうけどね!」

「そりゃまあ、この世界だとそうだろうね……」

 何せこうして、自由に空を飛ぶことができる人が、そもそも自分たち以外に存在しないわけだからね。


 歩けば5〜10分はかかる道のりも、空を飛べば数十秒でたどり着いてしまう。

「大精霊様、あの校舎に僕の教室があります。……せっかくなので、屋上から入りましょう!」

 スィラさんはそう言って、サンドウィッチを口に咥えながら建物の屋上へ向かって一直線に高度を落として着地した。

 自分も慌ててサンドウィッチの残りを飲み込んで、屋上入り口の扉を開けて建物の中に入っていくスィラさんに続いて、校舎の中に足を踏み入れた。

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