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転生システムに致命的エラーを発見してしまったのだが  作者: みももも
第弐章:精霊世界

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スィラ邸(3)

 マテラとナチュラが退出して静かになった部屋で、何をするでもなくゆっくりと腰掛けながら休んでいると、扉の向こうからなにやら不思議な音が聞こえてきた。

 絨毯の上を小柄な人が右往左往するような足音が。

 それと同時に、想力の目を凝らしてみると、不安と緊張と、期待と謙遜がごちゃ混ぜになったような少年の想いが見て取れる……

 っていうか、どう考えてもスィラさんだよね。どうしたんだろう。何か自分に用があるのかな。


 それから数分後。

 待っていればそのうち決心して入ってくるだろうと思っていたけど、いつまで経っても状況が変わらない。

 仕方がないから起き上がり、こちらから出迎えることにしよう。

 ガチャッと優しく扉を開けると案の定そこには、こちらを見て驚いた表情をしているスィラさんがいた。

「……スィラさん、どうしたの?」

「大精霊様!? いえ、少しお伝えというか、お願いしなくてはいけないことがあったのを忘れていまして……」

 どうやらスィラさんは、自分に伝えたいことがあったけど、どこか遠慮してしまって行動に移せずにいたらしい。

「そういうことなら、話を聞くよ。立ち話も何だし、部屋の中に入ってよ」

「ありがとうございます……失礼します」

 そんな、もともとスィラさん自身の屋敷なのだから、遠慮なんてしなくても良いのに……とは思うけど、まあ逆に言えばかしこまって丁寧にするのもスィラさんの自由なのだから、口には出さないでおこう。


 スィラさんは、職員室に呼び出された子供のように身を小さくしながら、自分の後を着いてくる。

 この部屋はあくまで一人用なのか、向かい合って座れるような大きなテーブルはないので、自分は椅子を引いてその上に座り、スィラさんにはベッドの上に腰掛けてもらうことにした。

 申し訳なさそうに肩を狭めてちょこんと座ったスィラさんは、上目遣いにこちらを見上げてゆっくりと話し出す。


「まず、いきなり質問から入ってしまい、申し訳ないのですが……僕たちが精霊召喚を行っている理由について、大精霊様はどの程度ご存じなのでしょうか」

「理由って言われても……召喚することで実力を示すんだっけ? 強い精霊を召喚できれば、それだけ優秀な人ってことなんでしょ?」

「はい。そういう一面があるのも確かなのですが……というか、外部の社会などからすればそれが全てとも言えるのですが……僕たちからすると『何を呼び出したのか』よりも『それから何を学んだか』の方が大切なのです。なにも皆が皆、社会的ステータスだけのために高位精霊を呼び出そうとしているわけではないのです」


 ……なるほど。

 どうやら、精霊との契約は永続的な物ではないらしい。

 社会的には「どのような精霊と契約しているか」みたいな直接的な力ではなくて、「どれだけの精霊を召喚できるか」という、その人の潜在的な能力の高さを証明する物になる。

 ただそれだけじゃなくて、やっぱり強い精霊を呼び出すほどに、学べることが多いこともあるし、何よりここは教育機関だから。

 だから、教師は「良い精霊を先生にして学びましょう」と教育しているし、生徒達もそれを信じて活動している。らしい。


「大精霊様が、いつまでこちらに滞在して頂けるのかはわかりませんが、僕としては一つでも多くのことを学ばなければなりません。大精霊を召喚したにもかかわらず何も学べなかったとなってしまっては、僕だけでなく、一族の恥となってしまいます!」

「そうなんだ、それは責任重大だ。でも、教えるって言われても、何を教えれば?」

「……一般に『精霊に教わるのではない。精霊使いが勝手に学ぶだけ』と言われています。僕もその理屈には納得していますが、それは言葉が通じないという前提があってのことだと思うのです。ですが、大精霊様とはこうしてお話も出来るので、だとすれば直接教えを請うのも間違いではないのかな。と」


 確かに、例えばラフォン君の精霊は鳥形だったけど、あれを見ていても「キィーー!」っていう甲高い鳴き声を上げるだけだから、コミュニケーションとかは難しそうだもんね。

 指示を出すときも、言葉ではなくイメージの共有という曖昧な形で行う必要がありそうだし、それはそれで、それだけでなんかの訓練になりそうだ。

 それに比べて自分の場合は……言葉も通じるし、少なくとも鳥頭よりは自分で考える知能があると思っているから、逆にスィラさんが学びを得るのが難しいのかもしれないね。


「そう、考えたんです。いかがでしょう、大精霊様」

「まあ、なるほどね。事情はわかった……けど、自分には教えられることなんてあまりないと思うよ?」

「でしたらっ! 僕に、空の飛び方を教えてください! 僕は、僕自身の力で宙を舞えるようになりたいんです!」


 無邪気な顔をして、スィラさんはこちらを見つめてくる。

 キラキラと輝く瞳が眩しい……

「それは……自分としては手伝いたい気持ちもあるんだけれど……」

 協力したい気持ちはあるけれど、それはそれとして。

「自分は、自分でもどうやって空を飛んでいるのかを理解していないというか……」

「……確かに。大精霊様にとっては歩くぐらい当たり前のことですからね。歩けない人に歩き方を教えるというのも難しい話なのかもしれません」

「いや、自分も元々は飛べなかったわけだけど……とりあえず、やってみようか。スィラさんは、精霊力のコントロールは出来るの?」

「はい、出来ます! 『精霊実技』は得意教科です!」


 そんな教科があるのか。さすがは異世界……

 まあいいや。そういうことなら話が早い。


「じゃあ、その精霊力を、羽を出したい場所……普通は、背中かな? ……に、集めてみてもらえる?」

「……こう、ですか?」

 スィラさんはそう言って、自分の方に背中を見せてくるけれど……実際のところ、どうなんだろう。

 キラキラと、小さな光の粒がポツポツと出てきているから、力が集まってはいると思うんだけど。

 そもそも精霊力(この羽)については、自分自身でも理屈がよくわかってないからね……

「多分、そんな感じ。じゃあそれを、羽の形になるようにイメージしてみて?」

「……、……?」

「えっと、なんかこう、自分の背中から羽が生えるような。それを、精霊力で再現するというか……」

「ですが、大精霊様。『精霊力』は体内を流れる力です。それで羽を……どうやって外に出したら良いんでしょうか」

「……え?」

 

 いや、自分の場合、精霊力をなんかこう……羽になるようなイメージをすれば、実際に羽が出てきて空を飛べるんだけど……え?

「……え、いえ、大精霊様? 大精霊様自身も、精霊力そのものを放出しているわけではないですよね……?」

「……え?」

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