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転生システムに致命的エラーを発見してしまったのだが  作者: みももも
第弐章:精霊世界

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スィラ邸(2)

 好きに使えと言われても……

 自分としては特に部屋にこだわりがあるわけでもないから、自由度が高いと逆に困る。

「じゃあ自分も、入り口から近い方が便利だろうし、スィラさんの隣の部屋とか使わせてもらおうかな」

 わざわざここで「じゃあ自分は遠くの部屋を」なんて言ったら、まるで自分がスィラさんと距離を置きたいと思っているみたいだからね。

 なんて。スィラさんはそんなこと気にしなさそうだけど、自分としてもわざわざ遠くの部屋を使う理由はない。

 逆に、スィラさんから「もう少し距離を置きませんか?」なんて言われたらどうしようと考えないでもないけれど……


 そんな気遣いを汲み取ってくれたのか、あるいはこれが素なのかもしれないけれど。スィラさんは嫌な顔一つせずに、曇りのない想いで相づちを打った。

「確かに、大精霊様の言うとおり、部屋は近くにした方が便利ですね! それでは、その部屋は今から執事に片付けさせますので……先に建物を案内しょうか。それとももう休みますか? 最低限の手入れはしてあるはずですけど……」

「よかった……じゃあ、案内をお願いしようかな」


 これだけ大きな建物だから部屋数もかなりあるだろうし、全ての部屋が完璧に片付けられていなくても仕方のないのだろう。

 一つか二つぐらいは急な来客用の部屋を用意してあるのかもしれないけれど、使う予定のない部屋まで完璧にメイキングをするのは労力の無駄遣いだ。

 自分としても、急いで部屋を使いたいわけでもないから特に問題もない。


 食堂。

 扉を開けて中に入ると、ものすごい長いテーブルがあった。

 ずらっと並べば、二十人ぐらいは一緒に食事をとることが出来そうだ。

 テーブルの上には、うっすらと埃が被っている。

「大精霊様、ここは食堂です。無駄に広いだけなので、今のところ僕は使っていませんが……」

「え、じゃあ食事はどこで食べてるの?」

「今は、僕の部屋に運んでもらってます。これからは大精霊様と一緒に食事を取れるので、利用しても良いかもしれませんね!」

 ……いや、二人で使うにしても広すぎる気はするけれど。


 訓練場。

 渡り廊下を抜けてた先の別棟は、道場のようになっていた。

 こちらは、比較的綺麗に手入れされているようだ。

 壁や天井は見るからに頑丈そうで、これなら多少は暴れても大丈夫になっているようだ。

 見たこともない訓練器具が、使いやすいように丁寧に並べられている。

「そしてこちらは訓練場です。ラフォンがたまに使っています。別に彼とは同盟を組んでるわけでもないんですけど……まあ、腐れ縁ってやつですね。対価をもらってもいいんですが、面倒なので無償で貸してます。僕はどうせ使わないですし、こっちに迷惑がかかってるわけでもないですからね」

「もしかして、スィラさんとラフォン君って、仲が良い?」

「そんなことないですよ。向こうが勝手に、僕のことを敵視(ライバル認定)してくるだけです」

 でも、ここで(ラフォン)の名前が出てくるということは、なんだかんだ仲が悪いというわけではないのだろう。

 ラフォン君の方も、普通なら気が引けそうなところを遠慮することなく借りているということは、スィラさんに対してなんだかんだ信頼のようなものを置いているのかな?

 ……幼なじみとかそういうやつなのだろうか。知らないけど。


 大浴場。

 脱衣所を通り抜け、扉を開けると真っ白い湯気が勢いよく流れてきた。

 たっぷりとお湯が張られた大きな浴槽がいくつかあり、水着のような湯浴み着を来た女性が数人、のんびりしていた。

 彼女たちはこちらに気がついても特に恥ずかしそうにはせず、スィラさんに向かって軽く頭を下げた。

「大精霊様、彼女たちはここで働いているメイドです。大浴場は、従業員にも使用を許可していますので。お邪魔でしたら上がってもらいますが……」

「いや、とりあえず今は見学に来ただけだから、別に良いよ」

 好きなタイミングで温泉に入れるなんて、スィラさんの屋敷は福利厚生がちゃんとしているんだなあ……

 なんて。でも実際のところ、人が大勢泊まっているわけでもなさそうだし、スィラさん自身が寛容な態度をとっているみたいだから、働きやすそうなのは間違いないのだろうけれど。

「そうですか……いつでも貸し切りにしますので、遠慮はしないでくださいね」

「そうさせてもらおうかな……」

 別に、大勢の人と一緒に入るような銭湯スタイルも嫌いではないけれど、どちらかというと一人でのんびりしたい気持ちの方が強いかな。

 少なくとも、いくら裸でないとはいえ、知らない女性と一緒にはいるような豪胆さは、自分にはない。


「チシロさま、この世界には温泉があるのですね……」

「そうだね。まあ、自分たちの世界でも『日本特有の文化』ってわけじゃないからね。古代ローマとかの人も温泉に入ってそうなイメージあるし……」

「……パパ、マテラ。おんせんってなに? あのお湯に使ってどうするの? 修行?」

 そうか、マテラは自分と同じで地球の出身だからお風呂とか温泉とかを知っているけれど、ナチュラは生まれたばかりだから知らなくても当たり前なのか。

 特に、ナチュラの場合は汚れを落とすためにお風呂に入ったりも必要なさそうだし「リラックスのため」と言われても理解は出来ないのかもしれないけど……

「いや、ナチュラ。そうじゃなくて……」

「さすがは精霊様ですね、おっしゃるとおりです。この湯は地下深くから湧き出したもので、精霊力を多量に含んでいます。身体の調子を整えるのにも使いますし、長い時間つかることで、精霊力を宿すことが出来るとも言われています!」

「……え?」


 スィラさんの顔を見ると、冗談を言っているような表情ではない。

 ……どうやら本当に、このお風呂には修行の効果があるみたいだ。

「チシロさま、確かにこの湯には、私の知らない力のようなものが溶け込んでいるようです。……調べることで何かがわかるかも?」

 そしてどうやら、マテラの研究者魂にも火がついてしまったようだ。

 ナチュラもこの温泉の湯に興味があるようで、二人してお風呂の中をのぞき込んでいる。


「スィラさん、二人が興味あるみたいなんですけど……調べても良いですか?」

「もちろんです。大精霊様達の、好きなようにしてください!」

 念のため聞いておくと、スィラさんは快く返事をしてくれた。

「だ、そうだよ。二人とも好きなだけ調べて良いって」

「ありがとう、パパ!」

「ありがとうございますチシロさま……ですがナチュラ、時間がかかりそうなのでまた後にしましょう」


 よほど本格的に調べたいのか、マテラははやる気持ちを抑えて後回しにすることにしたらしい。

 うずうずと今すぐにでも調べたそうにしているナチュラを、まるで姉のようにたしなめている。

 そんな微笑ましい様子を見たスィラさんは、二人に「いつでも好きなときにどうぞ」と笑顔で話していた。


 そういうわけで、その後も一通り建物の中を案内してもらい、最後に入り口近くの部屋の前にたどり着いた。

「大精霊様、部屋の片付けは済んだそうです。こちらの部屋をご自由にお使いください」

「そうなんだ。スィラさん、今日はありがとう。そして、これからもよろしく……ってことになるのかな?」

 部屋の扉を開けると、一人用にしては広すぎるぐらいの、そこそこ大きな部屋だった。

 高級そうなベッドがあるだけでなく、ソファーやテーブルもあり、ここだけで生活が出来そうだ。学習用の机や椅子まで用意されているのは、ここが学校の敷地内にある、学生向けの建物だから、なのだろう。


 ためしにソファーに腰掛けてみると……思いっきり腰が沈み込んだ。

 さすがは高級品というか、慣れればゆっくりくつろげそうかな。

「それでは、チシロさま! 私たちはお風呂に入ってきます!」

「パパ、行ってきます!」

「はいはい、行ってらっしゃい……気をつけてね」

 マテラとナチュラは、息つく間もなく部屋を飛び出していってしまった。

 自分は……少し疲れたから、このままゆっくり休ませてもらおうかな。

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