世界の狭間にて
景色が切り替わる。
眩いばかりの光に包まれていた空間から、何もない真っ暗闇の世界へと。
そして後ろから、扉が閉まるような音が聞こえる。
「……チシロさま、無事ですか?」
「あ、そういえば。前のと気は意識を失っていた気がするけれど……」
二回目と言うことで、改良でも加えられていたのだろうか。
何も見えず、何も感じない状況ではあるけれど、意識だけははっきりしているようだ。
かなり離れた場所に小さな光がいくつかあるようで、目が慣れてきたら、星空のような光景が広がっているのが見えてきた。
「あのね、パパ。……その、言いお知らせと、悪いお知らせが一つずつあるの」
「こんどは両方ちゃんとあるのね。学習していて偉い! ……それで、どんなお知らせ?」
「言いお知らせは、マテラの言っていたとおりで、無事に世界の壁を越えることに成功したよ! ここは、世界と世界の間にある……狭間? っていう場所なの。この空間を移動することで、別の世界に転移することができるのよ! ……理論的には」
「ほう、すごいじゃん。『理論的には』って?」
なんだろう。最後に付け加えられた一言が妙に気になるというか……
「その……悪いお知らせなんだけど……あの、怒らないでね?」
ナチュラは、おびえたような表情で自分のことを見上げている。
これは、相当何かやばいことをやらかしたのだろうか……
「大丈夫、怒らないよ。言ってごらん?」
「えっと……さっきも言ったけど、世界の壁を越えることには成功したの。でも……」
「ナチュラ、もう良いですよ。チシロさま、私から話しますね。私たちは、世界の壁を越えることばかり考えていました。壁さえ越えれば後はなんとかなるだろう……と、考えていたのですが……」
「パパ、ごめん。世界を超えることはできたけど、見ての通り私たちは今、世界の波に流されてるみたい……」
……え?
それってどういう……
「わかりやすく言えば、漂流しています。いずれどこかの世界にたどり着くのでしょうが、それがどんな世界になるのかはわかりません」
「パパ、ごめん。私は『なんとかなる』って言ったのに……」
「いや、二人に任せきりにした自分も悪いから、あまり謝らないで。連帯責任ってことにしよう! それよりも、本当にどうにもならないの?」
自分でもどうにかしようと思って精霊力を使ってみると、ふわふわと浮かぶように流されていた自分の身体を、ある程度コントロールすることはできるようだった。
とはいっても、そもそも目的地がわからないのだから、がむしゃらに身体を動かしたところで意味がない。
ルーラララ♪
ララリララルーラ♪
リララルララルーラ♪
どうするべきかと悩んでいると、どこかから音が聞こえてきた。
「……これは?」
「チシロさま、歌声のようですね」
どうやらこの音は、自分だけでなくマテラ達にも聞こえているらしい。
ということは、想力が関係した『想い』とかではなく、物理的な音が実際になっているのだろう。
「パパ、向こうから聞こえてくるみたいだよ!」
「私には、この声が私たちを呼んでいるように聞こえます。 チシロさま、向かってみませんか?」
確かに自分にも、この声が自分のことを呼び寄せているように聞こえなくもない。
いずれにせよ、他に手がかりになりそうな情報もない。
精霊の力で水をかくように力を込めると、自分の身体がゆっくりと移動していく。
たどり着いた先には、白く光り輝く、半径一メートルぐらいの円があった。
ルールールルルー♪
ラーララ♪ ラララー♪
歌声は、確かにこの光の向こう側から聞こえているようだ。
「チシロさま、これは、別の世界につながる入り口です」
「パパ、どうする? これは、さっきの世界でも、パパが前いた世界でもないみたいだけど……」
マテラとナチュラには、世界を渡る前からこの世界のことがある程度わかるようだ。
そしてその二人によると、この世界はまだ見ぬ、自分にとっては全く新しい世界ということになる。
でも……
「どちらにせよ、他に手がかりはないわけだし……だったら、自分たちのことを呼んでくれたこの世界に行くことにしようか」
あまり悩んでも仕方がない。
そう思った自分は、マテラとナチュラを抱きかかえるようにして、光の中へと飛び込んだ。




