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転生システムに致命的エラーを発見してしまったのだが  作者: みももも
第壱章:砂漠世界

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砂漠の街(24)

 街を覆っていた結界の穴は、少しずつひび割れが大きくなっていき、パラパラと破片をこぼしながらさらに大きく広がっていく。

 どうやら自分の「やさしさ」のステータスも、結界に対してはそんなに効果がなかったようだ。

 人や動物を直接傷つけることはできなくても、物を破壊したりすることは問題ないと言うことだろうか……


 結界の穴の向こうに広がっている青空を見上げて「なんてこった……」と呟いていると、ナチュラが何かに気がついたように、自分に話しかけてきた。

「パパ、良いお知らせが二つあるの。聞いて?」

「良い知らせが二つ……だったら、良い知らせから聞かせてくれる?」

 普通こういう場合、良い知らせと悪い知らせが一つずつ……みたいな言い方をするものだと思っていたけど……まあ、良い知らせが多いことは悪いことではない。

「うん! どっちも良い知らせなんだけどね。……まずは、この世界にとっての(・・・・・・・・・)良いお知らせから話すね。えっと、パパ。この世界は、救われたんだと思うよ……たぶん。私たちが見つけたあの遺跡があった場所から、ものすごい量の魔力が吹き出して、世界中に広がっているの。……マテラも、気づいているよね?」

「はい、もちろん。チシロさま、安心してください。チシロさまは結界を破壊してしまいましたが……この世界に、もう街を覆う結界は必要なくなります。まだしばらくは不安定な状態が続くかとは思いますが、早い段階でそれも落ち着いて、自然あふれる星になるでしょう……ほら、見てください! 雨雲です!」


 マテラが指さす方を見ると、確かにそこには高々と伸びる入道雲ができていた。

 自分やマテラにとっては地球でよく見慣れた光景で、ナチュラにとってもそこまで不思議な物ではないのかもしれないけれど、スペラさんにとってはそうではなかったようだ。

 目を見開いて驚いたような顔をしている。

「あの……あの柱は一体なんですか?」

「スペラさん、あれは……雲っていう、なんだろう。水蒸気の塊で、雨が降る……」

「雨って、なんですか?」

「そっか、そこからか……雨って言うのは、水? 空から水滴が降ってくる現象って言えばいいんだろうか……」

「空から水が? そんなことが起こるんですか!?」

 いやまあ、そうだね。

 当たり前だと思っていたことを説明するのって難しいね……


「まあ、今は信じられなかったとしても、少ししたら当たり前のことになると思う。……それでナチュラ、もう一つの良いことっていうのは?」

「それはね、パパ。私たちにとってすごく良いことなの! 魔力が吹き出しているあの場所に向かえば……」

 ナチュラがそう言ったのを聞いて、マテラは納得したように声を上げた。

「そうか、そういうことですね! チシロさま、私たちは元の世界に帰れるかもしれません!」

 ……いや、そういうことって、どういうこと?

 よくわかっていない顔をしている自分に、マテラが補足で説明をする。

「チシロさま、私たちが前の世界を飛ばされてこの世界に来ることになったのは、魔王の魔力が原因です。そして今、あの場所にはその時に匹敵する魔力が吹き出しています! この魔力を使えば、異世界転移の魔術を構築することが可能です!」

「でも、パパ……あまり長くは続かないかも。少し急いだ方が良い……かも?」

「チシロさま、ナチュラの言うとおりです。魔王の時とは違い、この大量の魔力はあくまで一時的な現象です。長くても数日で収まるでしょうし……いつまで続くかは私にもわかりません」

「だから、パパ。元の世界に戻るのなら、急いだ方が良いかも!」


 前の世界の魔王騒動の時は、元々あった魔力の流れを人間の手で無理矢理変えた結果歪み(ひずみ)が生まれたのが原因だったけど、今起きているのは、魔力が枯渇していた状態から元に戻ろうとする復元力のようなもの。

 だから、元の状態に戻ったら、魔力の吹き出しも落ち着くことが予想されるらしい。


「でも、この世界のことを放っておいて、自分だけ元の世界に帰るというのは……」

「あの! よくわかりませんが、時間がないのですよね? 今を逃したら、あなたの故郷に帰れないのですよね? でしたら、その機会は逃すべきではありません!」

「スペラさん……でも、街の人達の戦いもまだ片付いていないし……」

そんなこと(・・・・・)は、この街の生まれである私たちに任せておけば良いんです! 大丈夫ですよ。あなたがなんとかしてくれたおかげで、きっとこの世界はなんとかなります。雨……でしたっけ? 空から水が落ちてくるという奇跡まで起こるんですよね? 壁の外を自由に歩けるようになるんですよね? 大丈夫です。それならなんとかなりますし……」

 スペラさんは、そこで一呼吸置いて気持ちを落ち着けて、再び話し出す。

「それに、あなたは十分に私たちのために戦ってくれましたが、私たちは『あなたがいなくては生きていけない』なんてことはないんです。いたら嬉しいし助かりますが、いなくても……その、大丈夫です!」

「それは……心強いね」


 確かに自分は、この世界で唯一の(?)異世界人であることで、自分のことを特別な人間のように、この世界には自分の存在がなくてはならないのだと思い込んでいたのかもしれない。

 でもそれは、行き過ぎた傲慢だと、スペラさんに気がつかされた。

 自分なんて、いなかったらいなかったで、きっと世の中はなんとかなる。それは、存在を否定されたとか、そういうわけではなくて、むしろ人権を認められたということなのかもしれない。

 自分が抜けたとしても、その穴は誰かが塞いでくれる。それこそが、人が歯車や奴隷ではなく、人として社会に参加しているということなのだろう。


「わかった。この場はスペラさんに任せることにするよ。マテラ、ナチュラ……行こうか」

「はい、チシロさま!」

「そういうことならパパ、急ぐよ!」

 マテラとナチュラがフードの中に入ったのを確認して、妖精の羽を広げてふわりと浮かび上がる。

 スペラさんは、そんな自分たちを見て手を振ってくれている。

「千代さん! お元気で!」

「スペラさんも、元気でね! あと、自分のことを、おっちゃんや君のお兄さんに伝えておいてくれるとありがたいかも!」

「お任せください! 千代さんのことは、この世界を救った英雄として、伝えていきますね!」


 いや、それはちょっと……って思ったけど、そうやって自分がこの世界にいたという証を残してくれるのは、嬉しかったりもするから、文句は口には出さないでおいた。

 思わず表情が緩んでしまったのは、スペラさんには気づかれていないと信じたい。

「チシロさま、良かったですね!」

「パパ、恥ずかしがることはないよ! だってパパは、本当にこの世界を救ったんだから!」

 まあ、マテラとナチュラには気づかれていたみたいだけど……

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