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転生システムに致命的エラーを発見してしまったのだが  作者: みももも
第壱章:砂漠世界

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砂漠の街(23)

 スペラさんに鱗粉を再び纏わせて、ナチュラにはフードに入ってもらい、自分は再び空を飛ぶ。

 ナチュラの案内に従ってまず向かうことにしたのは、少年達が拠点としているスラム街だ。

 街自体がそこまで広くないこともあり、上空をショートカットすれば、五分とかからずに目的地に到着した。


 高い場所から見下ろすと、建物の影に何人かの少年が隠れているようだった。

 自分には想力が感じられるので丸見えだったけど、それ以外は何もかじられず、目で見ただけだと完全に無人の広場にしか思えない。うまく隠れているのだろう。

 自分たちが地上に降りていくと、一緒に着いてきているスペラさんに気がついたのか、ぞろぞろと少年達が出てきて近づいてくる。

 その集団の先頭には、スペラさんの兄でもある、少年達のリーダーいて、そのすぐ隣にはマテラもいた。


「チシロさま……どうでしたか? 砂漠の方は……」

「マテラ、その話は後でしよう。今はそれよりも、この戦争をどうにかすることじゃない?」

「そうですね。チシロさま、爆撃を行う場所は私の方で決めておきました。ナチュラ、術式は?」

「もちろん、もう完成している! 私の魔術の技を全て織り交ぜた、最高傑作だよ!」

「二人とも、ありがとう。じゃあ早速、準備を始めようか」


 自分たちがマテラと合流して話をしているあいだ、スペラさんは少年達との再会を楽しんでいた。

 ……まあどちらかというと、少年達が「大丈夫だったか?」とか「酷いことされなかったか?」と心配しているのを、スペラさんが「兄、うるさい……」と邪険に扱っているような感じだったけど。

 でも、そういうスペラさん自身もなんだかんだそれを楽しんでいるようだった。

 少し変わった形ではあるけれど、これも家族の一つの姿なのかもしれない。

 こんな当たり前のやりとりが、当たり前に続けられるような世界を守るためにも、今からやる作戦は成功させたい。


「スペラさん、そろそろ行きましょう」

「わかった。兄、しばしの別れになる。また……」

「マテラ師匠から話は聞いています。この世界を救うために戦うんだな、兄として誇らしい! だが、無理はしないようにな。俺はお前の幸せが一番……」

「兄、話が長いし、大げさすぎ。まあ、期待せずに待ってて……行きましょうか」


 スペラさんは少年(兄)に別れを告げ、自分の方を向いて急かしてきた。

 この二人のやりとりは見ていて楽しいのだけれど、いつまでもこうしてのんびりしているわけにも行かないから、そろそろ切り上げる必要があるかな。


 マテラはフードの中に入ってもらい、自分がふわりと飛び上がると、それに続くようにスペラさんも宙に浮く。

 あまり高度は上げず、路地裏を縫うようにして、マテラの案内に従って飛ぶ。

 途中、人と人が戦い、傷つけ合っているのに何度か遭遇しかけたけれど、仲裁に入りたい気持ちをグッとこらえて、気配を殺しながら素通りしていった。

 しばらくしてたどり着いたのは、街の外周、結界のすぐ内側にある大きな空き地だった。


 周りに人の気配はない。

 この空き地自体が少し高台になっている場所にあるから、ここからなら街全体を見下ろせる。

 それは同時に、街のどこからでも見ることができる場所ということになる。

 ここで派手な爆発を起こせば、誰もが一度は手を止めてこちらを見るだろう。

 後はそのタイミングで、あらかじめ仕込んでおいた仲間が不安を煽るだけで、うかつに攻撃はできなくなるはず。


「チシロさま、準備が整いました!」

「さすがマテラ。早いね……スペラさん、いける?」

「この部分に力を流し込めば良いのですよね。すぐにできますよ」

 さっきまで何もなかった空き地には、いつの間にか精緻な魔方陣が描かれていた。

 複雑な図形や文字の組み合わせが渦巻き状に描かれている。

 半径3メートルぐらいはある、巨大な魔方陣だった。

 スペラさんはその中心付近に立って手をついて、力を込めるようにする。


 スペラさんの魔力が流し込まれた魔方陣は徐々に明るく輝きだし、十秒と立たずに眩いばかりの明るさになった。

「すごい……」

 これだけ大きな規模の魔術は、前の世界でもあまり見た記憶は無い。

 自分は魔力や魔術には詳しくないから、具体的にこれがどうなるのかはわからない。

 けれど、そんな自分が感じる雰囲気からだけでも「すごいことが起きそう」ということが伝わってくる。


 そんなものすごい光景を一瞬のうちに生み出したスペラさんは、一度魔力を送る手を魔方陣から離し、一呼吸してから再び魔力を込めようと手をついた。

 体力を消費している様子はほとんど見られず、まだまだこれからといわんばかりにやる気に満ちているスペラさんを見て、マテラが慌てて声をかける。

「スペラさま、そろそろ十分かと……」

「まだ、いけますよ!」

 スペラさんは、心配して声をかけたマテラにそう答え、再び魔力を流し始めるが……

「いえ、スペラさまのことを心配しているのではなく……」

「パパ、すごいけど、やばいかも! 私たちの想定以上の魔力が流し込まれて、線が焼き切れそう!」

「スペラさん、ストップ、ストップ!」

「えっ?」


 魔方陣はどうやらこの状態でもすでに限界ギリギリの状態だったらしく、追加で大量の魔力が流し込まれたことで、バチバチと音を立てて一部が点滅していた。

 本当に、あと少し魔力が多かったら、暴発してもおかしくない……そういう感じのやばそうな状態だった。

「……チシロさま、お手数なのですが、魔術の起動はチシロさまにお願いしても、良いでしょうか……」

「え? そんな、自分のことは気を遣わなくても良いよ。手柄を奪うような感じになって申し訳ないし……」

「いえ、先ほども申しましたが、想定以上の魔力がすでに流し込まれていまして……このままでは、爆発して大きな被害が出てしまいそうなのです」

「マテラ、どういうこと? パパに責任を押しつけるつもりなの?」

「いえ、そういうことではなく……」


 自分には、『想力』以外に『やさしさ』というステータスがある。

 普通の人が使えば攻撃魔法になるような魔術でも、自分が使えば逆に敵を回復させる魔術になってしまう。

 そういうやっかいな能力だ。


 つまりマテラは、なんかやばそうな魔術ができてしまったので、自分が発動させることでできるだけ平和な結果になるようにしたいということなのだろう。

「……わかった、やるよ。どうすればいい?」

「スペラさんがいる場所に立ち、衝撃を……そうですね。大きな音が鳴るように、手と手を合わせて拍手してみてください!」

「わかった。……というわけで、スペラさん。後は自分に任せてくれる? スペラさんは少し離れた場所で、マテラ達と一緒に見ていて」

「すいません……お任せしますね」


 魔方陣から出て行くスペラさんと入れ替わるように光の中に入り、その中央で一度大きく息を吸う。

 自分の『やさしさ』というステータスのことは、良い意味でも悪い意味でも信頼しているから、まあおそらく、自分の体が傷つくこともないのだろうし、これが誰かを傷つけることもないのだと思う。

 それでも、魔力を感じることができない自分でさえ薄々やばそうと感じられるエネルギーの真上に立って、それを爆発させるというのはかなり緊張することでもある。

 息を吸って、吐き出して、マテラとナチュラとスペラさんが離れた場所でこちらを見てくれているのを確認して、ゆっくりと両腕を広げ……そのまま閉じて、勢いよく手を合わせた。


 ペチン


 思ったよりも覇気の無い音が鳴ってしまったのでもう一度やり直そうかと思ったら、魔方陣が強烈に輝きだした。

 どうやらこれで、うまくいっていたらしい……

 魔術のエネルギーは真上に向かって立ち上り、天井代わりの結界さえも突き破ってさらに天高く登っていく……


「え、これってやばいんじゃ……?」

 綺麗に貫いたからなのか、結界が粉々になるようなことはなかった。

 けれど、確かにこのエネルギーは結界を貫通していて、少しずつひび割れが大きくなっていく……

 やがて、スペラさんが溜め込んだ魔力を消費しきったのか、魔方陣は煙を出しながら発光を止めた。

 天井には大きな穴が空いてしまい、そこから外気が吹き込んでくる。

「熱っ……くない? いや、熱いというか、暑い? これは、砂漠の焼けるような熱じゃなくて、ジメジメとした梅雨時のような、湿ったような蒸し暑さ……?」


 外から入り込んできた空気は、ついさっきまでの砂漠の空気とは全く違う種類だった。

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