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転生システムに致命的エラーを発見してしまったのだが  作者: みももも
第壱章:砂漠世界

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砂漠の街(19)

『チシロさま、そのまままっすぐ進めば、街が見えてくるはずです……』

「そのはず……なんだけど、どこだ? おかしい、この辺りのはずなんだけど……」

「見えましたよ、あれです!」

 街に近づいてきて、目で見えるぐらいの距離に近づいているはずなのに、いつまでたってもその姿が確認できず、辺りをうろうろと飛行することになってしまった。


 自分は『想い』を見ることができるから、人の集まる街の場所はすぐにわかるはずだと思っていたのだけど、さっきから人以外(・・・)の、例えば砂の中で生活する魚や、そのさらに下に埋まっている植物の種の想いまでもが沸き立っていて、そのせいで肝心な人の想いが見えにくい。

 不安や緊張……そして、何かが起こることを期待するような想い。

 それらがあちこちから湧き水のように吹き出していて、目がチカチカとして集中できない。

 どうしてこんなことに……そう思いながら、金片の在庫が少しずつ減っていくのも感じつつ、想力に頼らない視覚も駆使して上空を飛んでいると、不意にスペラさんがとある方向を指さした。

 そっちに視線を向けると、蜃気楼のように景色が歪んだような空間があった。

 確かにいわれてみれば、人の想いはその空間の中から強く感じられるような……


 空間に近づいていくと、ぼんやりと町の様子が見えるようになってきた。

 どうやらこの結界には、内部の環境を一定に保つ以外に、外からは見えにくくなる効果もあったということらしい。

 建物の位置などから結界の出入り口のある場所を割り当てて、高度を下げて近づいていくと、ちょうどその部分には少し色の違う結界が壁のように立ちはだかっていた。

 軽く手で触れてみると、石のようなひんやりとした感触が帰ってくる。

「入り口は確かこの辺りにあったはずだけど……そうか、この時間は閉まっているのか?」

 続いて降りてきたスペラさんが、軽く結界を叩くと、コンコンという音が反響する。

 どうやらこの時間帯は、外との出入りを完全に遮断しているようだ。


「……あの、中に入れないようなのですが、どうするのですか?」

「そうだね……どうしようか」

「またですか。……もしかしてお兄さんは、計画性のない人なのですか?」

「うう゛っ……それは、申し訳ない」

 そりゃ、自分の性格に対して気づいていないわけではない。

 行き当たりばったりというか、「なんとかなるさ」の精神というか。

 わかってはいるんだけど、自覚したところで簡単に治るわけでもないというか……


 俯いて反省の意を示しながら、どうしたものかと悩んでいると、その様子を見たスペラさんが「仕方がないですね……」と言って、こちらの顔をのぞき込んできた。

「わかりました、わかりましたよ。貴方に任せても解決しないことが。では、私からも提案します。今の私なら、この結界を破壊することも、この扉をこじ開けることも可能ですが……やりますか?」

「破壊……って、それはダメでしょ。そんなことしたら中にいる人が」

「そうは言っても、このままだと私たちが素焼きになってしまいますよ。私たちの結界も、燃料が残り少ないはず。あまり長くは保たないのでしょう?」

「それは、そうだけど……」


 でも、生き残るために結界を破壊して中に入ろうとするのでは、本末転倒というか……

「っていうかスペラさん、いくらスペラさんが力持ちでも、結界を破壊なんて無理じゃないの?」

「無理では、ありませんよ。あの時あの場所で高濃度の力を吸い続けた結果、私の中には莫大なエネルギーが渦巻いています。これを少しコントロールすれば、結界どころか、この街ごと消し飛ばすことも可能です。……やりませんけどね」

「そりゃ、そうしてくれると助かるけど……」


 街を消し飛ばすって……

 冗談のように聞こえる台詞も、真剣な顔で、真剣な想いで言われると、実際に出来そうに聞こえてくるから怖いよね。

 その力をうまいこと使えば、例えば結界の一部だけを削って最小限の穴を開けたり、扉を無理矢理こじ開けることも出来るのかもしれないけど……

「でもとりあえず、それは無しで。スペラさんの中に不安の感情が見える。つまり、コントロールできるか自信が無いんでしょ?」

「それは……よくわかりましたね。その通りです、お兄さん」


 なんとなくそうだと思ったんだけど、まさか自覚があったとは。

 なんでそれで、自信満々に「やりましょう!」って言えたの?


 とはいえ、金片の在庫が心許ないから、扉が開く時間までここで待ち続けるわけにも行かないし……

「そうだ。今のスペラさんは魔力を使えるんだよね。だったら、中にいるマテラとナチュラに魔術で連絡を取ることが出来たり……しない?」

「あの小さな妖精さんですか? 出来ますよ。さっきからあの子達同士で頻繁にやりとりしているみたいなので、そのパターンで力を使えば割り込むことも出来そうです……というか、声を聞いている限りあの子達、結構大変な状況みたいなんですけど、お兄さんは手伝わないんですか?」

「え、出来るの? って言うか、あいつらの通話魔術が、スペラさんにも届いているの?」

「はい。『声』が垂れ流しの状態になっていますので……離れると聞こえにくくなりますが、これぐらいの距離ならはっきりと聞き取れますよ」


 自分や、この世界の一般人には、魔力を感知する能力が無いから何も感じないのだけど、スペラさんにはマテラとナチュラの通話魔術を傍受することが出来るようだ。

 通話魔術が他の人に盗み聞きされたという話は今まで一度も聞かないから、前の世界の通話魔術は暗号化でもされていたのだろうか。

 この世界ではその必要もないというか。それとも魔術のない世界で一から作り上げている関係で、そこまで発想が至っていないのかもしれないけれど……


「そういうことなら、試してみてくれる? 自分たちが中に入れなくて困ってることを伝えて欲しいんだけど」

「わかりました。とりあえず私たちの状況を伝えますね。ちょっと待っててください」

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