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転生システムに致命的エラーを発見してしまったのだが  作者: みももも
第壱章:砂漠世界

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砂漠の街(18)

「すごい! 部屋から出ても苦しくない!」

「それはよかった……でも苦しくなったりしたら、遠慮せずに言ってね?」

「いえ、心配には及びません。……ですが、耐えられないほどになったら……」

「いや、耐えられるとか、耐えられないとかじゃなくて、少しでも異常を感じたらすぐに伝えて欲しい。それを約束できないなら……自分はスペラさんを外に連れ出すことはしたくない」

「ですが、私の協力が必要なのでしょう?」

「それはそうだけど……それでも、です。目的地に着いたときにはスペラさんが満身創痍で何もできない……とかになってしまっては、元も子もないし、自分も最大限の気を遣うけど、言ってもらわなきゃわからないこともあるだろうし!」


 スペラさんは、苦しくなったら連れ戻されてしまうとでも心配しているのか、何かあっても我慢しようとしているみたいだけど、自分もここで妥協する気はない。

 前にどこかで、「喉が渇く前に水を飲め」みたいな話を聞いたことがあるぐらいだから、本当は苦しく前に対応をする必要があるんだろうけど……でも、今の時点で気をつけられるのは精霊力の鱗粉を途絶えさせないことぐらいだ。

 だから、せめて何か異常を感じたら、些細なことでも伝えて欲しい。

 自分がスペラさんにそのことを伝えると、彼女は渋々ながらも「それは……分かりました。でも、少しぐらいなら我慢できますからね」と言って納得してくれた。

 こちらとしても、下手に我慢をされるよりはその方が良いと考えて、「何かあったらすぐに共有する。ただし、引き返すかそのまま進むかは、そのたびに相談し合う」ということが妥協点になった。


 部屋を出た自分たちは、廊下を進んで地上に向かう。

 ちなみに、スペラさんも今は精霊力の鱗粉がまとわりついている状態なので、宙に浮くことができるようになっている。

 初めは慣れない様子だったけど、長年強度のトレーニングを続けていたからなのか運動神経は良いらしく、あっという間に自在に空を泳ぐことができるようになっていた。

 おかげで、普通だったら歩いて遠回りしなくてはいけない縦穴をショートカットすることなどができて、あっという間に地上につながる出入り口へとたどり着いた。


『チシロさま、ホテルのオーナーが金片を隠している倉庫へ案内します』

『パパ、私たちの方は、まだ当分は時間稼ぎができそうだから、急がなくても良いからね!』

「ああ、わかった。ありがとう、マテラ、ナチュラ……」

 と、呟いてみたけどそういえば、こちらからマテラ達に声を届けることはできないんだったか。

 ついでに、マテラとナチュラの声は、スペラさんには聞こえていないはずだ。状況が混乱しそうだし、自分は何も話さない方が良いのかもしれない。

「スペラさん、行きましょう。案内するので、着いてきてください!」

「はい!」


 マテラのナビに従って、人通りの少ない道を駆け抜けていくと、街の中心からは少し離れた場所に巨大な建物があった。

 普通の家と違って外壁がのっぺりしていて、窓も最低限しか用意されていないその建物が、案内先の目的地であるらしい。

 慎重に近づいていくと、マテラから『チシロさま、そこの入り口に使用人が一人いるはずです。事情は説明してありますので話しかけてください』という声が聞こえてきた。

 言われてみると、確かに一つしか無い大きな入り口の前に、きっちりしたスーツを着た人が一人、背筋を伸ばして立っていた。


「あの……自分は、チシロです。おっちゃん……じゃなくて、オーナーから話は聞いていると思うのですが……」

 恐る恐る話しかけてみると、使用人はギロッとした目で自分をにらみ付け、軽く舌打ちをしてから自分の方に向き直った。

「お前が、うちのオーナーをそそのかした、坊ちゃんとやらか! オーナーからの伝言だ。『この倉庫の中にある物は好きに使ってもいい。他に何か入り用であれば、この者も好きに使うが良い』だと。あと、これとこれを渡せって言われていたな……ほらよ!」

 口の悪い使用人は、そう言って、鍵のような物と一枚のプレートを、投げるように手渡してきた。

 プレートを受け取って確認すると、表面には複雑な魔方陣が描かれている。おそらくこれは、マテラが用意してくれた物だろう。

「ありがとうございます。それじゃあ、中に入らせてもらいますね……」


 どうやら自分は、あの使用人にあまり好かれてはいないようなので、スペラさんの手を引きながらさっさと倉庫の中に足を踏み入れた。

『パパ。とりあえず、倉庫にある金片だけ拝借しよ!』

『チシロさま、金片が隠されている場所まで案内しますね!』

 そりゃ、共通財産であるはずの金片をかってに盗られるんだから、いい気がしないのは当然か。

 せめて自分たちは、おっちゃんの期待を裏切ることだけはしないようにしよう。


 広い倉庫なだけあって、中には金片以外にもいろいろな物が乱雑に積み上げられていた。

 おっちゃんのことだからきっと、この場所は私的な倉庫としてだけでなく、貸倉庫のような使い方もしているのだろう。

 それか、一時的に物品を保管して、値上がりしたタイミングで売るのだろうか。

 そんな倉庫を進んでいくと、鍵のかかった部屋があった。

 使用人から受け取っていた鍵を差し込んで回すと、カチリと音がして扉が開く。

 部屋の中には、山のように積み上げられた金片銀片と、明らかに価値のありそうな物品の数々が。


『チシロさま、着きましたか? とりあえず、金片の入った袋をいくつか適当に拝借してください!』

『外は昼間で、灼熱の地獄だけど……金片が100枚ぐらいあれば強行突破もできる。だから、パパ。念のために200枚ぐらい持って行くと良いと思うよ!』

「200枚……」

 二人の指示に従って、金片の入った袋を適当に持ち上げる。

 一枚一枚は、高価程度の重さでしか無い金片だけど、さすがは『金』が材質なだけあって、枚数が増えるとかなりの重さがある。

 一袋に入っている枚数は50枚ぐらい、だろうか。

 とりあえず、4袋ぐらい持っていけば十分かと思って、ずしりと重い金片袋をそれぞれ紐で腰に結びつける。

「なんだか、悪いことをしている気分になりますね……」

「スペラさん、それは思っても言わないで。余計に意識しちゃうから」

「すいません……」

 自分だって、いくら本人から許可をもらっているとは言え、他人のお金を拝借することに罪悪感を感じないわけではないからね。しかもこのお金を、これから自分たちはまさに消費(・・)することになるわけで……いや、あまり深く考えないことにしよう。精神衛生上、そっちの方が良さそうだ。


 とりあえず、目的の物を回収した自分とスペラは、見張りをしていた使用人にお礼を言いながら鍵を返して、街の外へと向かった。

 気のせいか、街全体の空気がピリピリしているように感じる。マテラとナチュラが食い止めているとはいえ、少しバランスが崩れるだけで今にも戦いが始まってしまいそうだ。

 街を囲う結界の外に視線を向けると、灼熱の太陽が高く昇り煌々と輝いている。

 こんな状況で外に出るのも無責任というか、本来ならせめて安全に移動できる夜まで待つべきなのかもしれないけれど……それでも、内乱のことは二人の妖精に任せたし、とはいえ戦いが始まってしまったら外に出ることも難しくなるかもしれない。

 散々自分に言い訳を重ねて、結局自分たちは今、灼熱の大地に足を踏み出すことにした。


「さあ、スペラさん。行きましょう! ……えっと確か、このプレートに金片をセットして……」

 マテラとナチュラ作のプレートには、金片をはめることができる場所が三カ所あったので、とりあえずその穴に一つずつ金片を埋める。

 すると、プレートの魔方陣が淡く輝いて、プレートから半径1メートルぐらいの範囲が薄い結界に覆われた。

『チシロさま、結界の起動をこちらでも観測できました! 外に出ても大丈夫ですよ!』

『プレートは金片の魔力を消費して結界を維持するよ。魔力を吸いきった金片は吐き出されて、そしたら次の金片から魔力を吸うようになるから、そうなったら空いた場所に新しい金片を入れ直してね!』

 二人の声が聞こえたので、心の中で「了解!」と答えて、自分はスペラさんの手を引いて、街の結界から外に出る。

 プレートが生み出している結界は無事に作用しているようで、いかにも熱そうな周りの景色とは関係なく快適な温度が保たれている。

 ただ、プレートの魔方陣はキラキラと輝いていて、一枚目の金片は少しずつ輝きを失っている。あまりのんびりしている余裕はなさそうだ。

「ここからは、空を飛んで移動します。このプレートの結界から外に出ないように気をつけてくださいね」

「わかり、ました! 置いていかれないように気をつけます!」

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