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転生システムに致命的エラーを発見してしまったのだが  作者: みももも
第壱章:砂漠世界

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砂漠の街(16)

 マテラと別れた自分とナチュラは、ホテルを出て自分たちが捕らえられていた廃墟へと向かった。

 日の光の届かない、人気のない裏路地を突きすすむと、何人かの子供が建物の中から気配を消してこちらをのぞき込んでいる。

 自分にとっては、ピリピリした感じの想いが想力という形で見えるから丸見えなのだけど、普通の人はまさかこんな何もない場所に何人もの子供が隠れているとは思いもしないだろう。

 以前捕らえられていたときは気がつかなかったようなことも、改めて観察することで見えてくる者もあるということか。


 そして、おそらくこの視線の主は、以前自分を捕らえたのとはまた別の子供達のようだ。

 自分に対して向けられる想いに、とげとげしさのようなものを強く感じる……

 自分たちがここに来ることがわかっていたから出迎えのつもりなのか、それともこの警戒状態が平常運転なのかすらわからないけれど、いずれにせよちょうど良い。

 彼らが通報なり連絡をすれば、いずれそこそこに立場が上の人間が出てくることだろう……


「パパ、どうするの? あいつら、焼いちゃう?」

「焼くって、そこまでする必要はないでしょ。というか、ナチュラにも隠れてるあいつらが見えてるの?」

「隠れてるって言っても、魔力的には丸見えよ? この世界の人は魔術を使えない人が多いから、仕方ないのかもしれないけれど……」

 なるほど。「頭隠して尻隠さず」ならぬ、「身体かくして魔力隠さず(ついでに想いも隠さず)」と言ったところか。

 ナチュラにも言ったけど、別に自分は彼らと争うつもりはないわけだからね。

 だけど、このまま待ち続けても進展がなさそうだし、軽くつついて脅かしてみようかな。


「君たち、隠れているのはわかっている。自分は、君たちに話がある。代表の人は、出てきて欲しい!」

「…………」

 建物の壁に反射して、自分の声が静かにこだまする。

 どうやら、反応がないみたいだ。適当なでまかせを言っているとでも思われているのだろうか。

 だったら仕方がない。隠れている人の元に走って近づいて、一人一人に問い詰めるとか……

「パパ、来たよ!」

「来たって? ああ、あの時の少年か」

 妖精の羽を目に見えない濃度で展開して高速移動をしようと腰を沈めようとした瞬間に、二階建てぐらいの建物の屋根の上から一人の少年が姿を見せた。

 前に自分とおっちゃんのことを誘拐して、金品を巻き上げようとしたあの時の少年だ。


「お前は、あの時、妹を救ってくれた……こんなにも早く再開するとは想っていなかったが、何か用か?」

「用事があるのはスペラさんだけど、ついでに君たちにも伝えておかなきゃ行けないことがある。代表者は君か? だったら今から少し話をしないか?」

「……いや、話を聞こう。それにあんたは、俺の妹の恩人だしな!」

 返事があるまでの一瞬の間が何だったのかは気になるが、深く考えても仕方がないか。

 少年が屋根から降りて背中側……つまり、その建物の中に向かって親指で指さしたので、自分は頷いて彼の元へと歩いて向かう。

 少年は、意図が通じたのを察したのか、暗い室内へと入っていくので、自分はそれについていく。

 部屋の中には家具が何一つなく、殺風景な有様だったけど、自分たちを観察する視線のようなものはより強くなったような気がする。

 落ち着いて話すためというよりは、自分たちの話を他の人達にも聞かせることが目的なのかもしれない。


「それで? お前が俺達に伝えたいことってのは?」

「単刀直入に言うと、自分たちは君たちに、危機が迫っていることを伝えに来た。街が騒がしくなっているのは、君たちも気がついているだろう?」

「そんなことか……まさか、それだけか? だったらわざわざ言われるまでもない。俺達は今まで何度も攻撃を受けてきたし、そのたびになんとかしてきた。どうせ次も、なんとかなるさ……俺達ならな!」

 自分の警告に対して少年は、強がりと取れなくもないような答えを返してきた。

 想いを見た感じだと、本音が4割ぐらいと、2割ぐらいの虚勢と……残りの4割は、どうでも良いという諦めというか、投げやりな感覚だろうか。

「だけどそれは、今まで争ったことがあるのは、個人とか、多くても数人程度のチームだろ? 数十人……いや、下手をしたら百人近くにもなる大人の本気を相手にした経験はないだろ? しかも、今集まっている人達は、単なる八つ当たりで攻撃してくる人とは違って計画的で粘り強くて……で、だから自分が来た。いわゆる仲介役ってやつで……」

「馬鹿にするな! あいつらが本気じゃなかったっていいたいのか? だったらそれは、俺達も同じだ! お前を捕らえたときの俺達が本気だったと勘違いするなよ? あれはスラム全体の1割にも満たない勢力である俺達のうちの、さらにほんの一部が独断に近い形で動いたに過ぎない! あれが本気だと、思うな! そっちが本気を出すならば、こちらも本気で応じるまでだ!」


 ……え?

 目の前の少年の『怒り』の想いが強まっていく。

 それに共鳴するように、黙って聞いていた周りの少年少女の『怒り』にまで、火がついたように燃え広がっていく。

 一体自分が、何の地雷を踏んだというのか……

「パパ、きっともう、私たちがこの子達に何を伝えても無駄だよ。私たちは部外者だから……それに、マテラによると、あのホテルのおっちゃんは、こうなることがわかっていて、その上で計画を考えているみたいだよ。だから、この世界の争いのことはこの世界の人達に任せて、パパはパパにできることをしよ?」

 そういうもの、なのかな……


「わかった。そういうことなら、自分はここでおとなしく見守ることにする。君達が望むなら、拘束するなり追放するなり……」

 役に立ちたいのに役に立てないのは悲しいけれど、でもそれも仕方がないかと思ってその場を立ち去ろうとすると、ナチュラは「そうじゃないでしょ、パパ」とでも言いたげな瞳で自分を見つめ、少年もそんな自分を引き留めるように口を荒げた。

「待て! 用事があるのは、妹のスペラなんだろ? だったらあの子のことは好きにすれば良い。お前ならスペラを連れ出すことができると聞いた。どうせあいつは戦いには使えないし、どこにでも連れ出してしまえ!」

「そうよ、パパ! パパにできることは、この少年達を救うことでも、あの大人達に手を貸すことでもないの。パパにしかできないことそれは、この世界を救うことなのよ!」


 世界を救うなどと、大げさな……

 自分にできるのは、マテラとナチュラが用意してくれた手段を使ってスペラをその場に連れて行くことだけ。

 しかも明確に何かを解決できる方法があるわけじゃなくて、ただ単にスペラならなんとかなるかもしれないぐらいの可能性の話でしかない。

「パパ、私はここに残ってこの子達の手伝いをします。パパはスペラさんを連れてあの場所に向かい、パパのしたいことを成し遂げてください!」

「そういうわけだ。お前に(スペラ)を任せる代わりに、俺は小さな精霊(お前の娘)を借り受ける。いいか、あの子には傷一つ付けるなよ!」

 少年は、さっきまでの怒りを嘘だったかのように静めて。

 ナチュラは、相変わらず親愛の籠もったような視線を自分に向けて。

 二人とも声をそろえて「「お前に任す」」と言ってくる。だったら自分はやはり、その期待に応えないわけにはいかないのだろう。


「パパ、これを使って! まだ未完成だけど、私とマテラの声が届く魔道具だよ!」

「ありがとう!」

 ナチュラから受け取ったイヤホンのようなものを片耳に装着すると、ザザザというノイズに混じって、二人の声が聞こえてくる。

『チシロさま……聞こえ……すか? 事情は……ュラから聞きました。まずは、スペラさんの元へ誘導しますね』

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