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転生システムに致命的エラーを発見してしまったのだが  作者: みももも
第壱章:砂漠世界

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砂漠の街(13)資金

 ガンガンガン!

「坊ちゃん! 起きてますかい? ……坊ちゃん!?」

 マテラとナチュラを見送った自分が横になって休んでいると、ガツガツと扉を叩くような大きな音に起こされた。

 カーテンを開けて窓から外を見ると、太陽はまだ高いところにある……「まだ明るいからもう少し寝させてよ」と、地球にいた頃だったら意味がわからないような言い訳をしたくもなるところだけど、狸寝入りをするにはおっちゃんがうるさすぎる……

 まあ、いいや。

 感覚的にはベッドに入ってから30分ぐらいしか経っていないけど、寝る前と比べたら幾分か頭がスッキリしているし、少しだけ話をすることにしようかな。


「今開けるから、ちょっと待ってて……」

 起き上がって扉を開けると、おっちゃんがハアハアと肩で息をしながら扉の前に立っていた。

 見た感じ、どうやらこの部屋まで走ってきたようだ……おっちゃんの体型からして普段運動はしていないだろうから、少し走っただけですぐに疲れるんだろうけど、だからこそ、そんな人がこんなにも必死になって自分に会いに来た用事は一体何なのだろう……

「おっちゃん、どうかした? とりあえず中に入って休む?」

「坊ちゃん、聞きましたぜ! 遺跡の情報を集めて……何か企んでるんでしょう? 金儲けのことなら、私も混ぜてくれませんか!」

「ああ、そんなことですか……」

 さてどんな問題ごとが飛び出してくるのかと身構えていたら、大したことではなかったので安堵の息をついて、おっちゃんを「まあ、お茶でも出すよ」と行って部屋の中に案内する。

 とはいっても自分がこれから出すのはこのホテルに最初から用意されていた物だし、しかもおっちゃんはこのホテルのオーナーだから、このお茶を用意したのはおっちゃん自身ということになるのかもしれないけれど……まあ、こういうのは気持ちの問題だからね。


 部屋の中におっちゃんを案内した自分はティーセットの中に茶葉とお湯を入れ、カップと一緒にお盆にのせてテーブルに運ぶ。

「お待たせ、おっちゃん。まずは一杯飲んで落ち着いてよ」

「ああ、ありがとな、坊ちゃん! まずい……が、気持ちだけでありがたいぜ!」

「まずいって、おっちゃんがホテルのオーナーでしょ? ってことは、茶葉を選んだおっちゃんの責任……」

「いや、茶自体は良いものを使っているんだが、坊ちゃんの腕が……な」

 確かに、お茶には適したお湯の温度とか入れ方のこつとかがあるって聞いたこともあるけれど、細かい知識は持っていないし、そもそもこの世界のお茶は緑茶ではないし、地球の紅茶ともまた違う種類のものなのだろう。

 だったら自分が知識を持っているわけがないし、「うぇ……」飲んでみたら確かに渋すぎて、間違っても「おいしい」とは言えないできだけど、初めてだからしょうがないじゃん!


「ごめんなさい、初めてなので……」

「まあ、坊ちゃんは見るからに『坊ちゃん』って感じだしな。しょうがねえよ。……それで、坊ちゃん。話を聞かせてくれるかい? なにやら坊ちゃんがいろいろ聞いて回ってるって話を耳にしましたぜ?」

「まあ、うん。そうですね……」

 確かに自分は、遺跡に旅立つ前にいろいろと情報を集めていたけれど、そこまで目立つことをしたような記憶はない。

 おっちゃんの情報網がすごいのか、それともこの街では噂が広がりやすいのかわからない。けれど、いずれにせよ自分たちが悪いことをしているわけではないので、あらすじを話していくことにしようかな。

「おっちゃんの言うとおり、自分たちはいろいろ調べているんだけど、最初に言っておくと、金儲けとかそういう話ではないよ?」

「別にそれでも構わんよ。それで坊ちゃん。その『いろいろ』がなんなのか、教えてくれ!」

「そこまで言うなら、教えるけど……おっちゃん、この部屋の入り口に絵画が飾ってあったと思うんだけど、あの絵の背景って、気にならなかった? 実はこの世界は……」


 マテラとナチュラに相談せずに話しても良いものかと一瞬考えたけど、二人も別にこのことを秘密にしているというわけではないと思うし、おっちゃんにとって迷惑という話でもないだろうから邪魔されることもない。

 そういうわけで、自分はおっちゃんに、そもそも何でこういう調査を始めたのか。というところから話し始めることにした。

 絵画の背景にあるような大自然がかつてはこの世界にもあったという話をして、もしかしたらその世界を取り戻せるかもしれないと話すとおっちゃんは興奮していた。

 この部屋の絵を用意したのも、オーナーであるおっちゃんだったんだけど、絵の背景とかは全く気にしていなかったらしく、改めて絵画を見て「確かに、こんな植物まみれの場所は見たことないなぁ」って呟いていた。不思議に思わなかったのかと聞くと「幻想的だなとは思ってた。どこか遠い世界か、神話の舞台なのかと思ってた」とのことらしい。

 確かに、大自然の中で美形の女性が座っていたら、宗教画にも見えるから、そう思うのも自然なのかもしれない。


「……と、いう感じで、自分たちは外の砂漠にあった遺跡の情報を元に、魔力を吸い尽くす震源地を見つけたんです。これから次の調査に行きたいんだけど、そのためのお金が大量に要るから、明日からは資金調達を頑張ろうかなって思ってる……みたいな感じです」

「そうか、なかなか面白いことになってるみたいやな! ……ちなみに、もし坊ちゃんがその調査を完了させて、その魔力? とやらの原因を解消したら、この世界はどうなるんや?」

「さあ、そこまでは……でも多分、時間をかけて元の世界に戻っていくんだと思うよ」

「つまり、世界中から砂が消えて、自由に暮らせるようになるってことか? 結界に頼ることもなく、昼でも夜でも自由に外を歩けるようになるってことか?」

「いずれはそうなると思うけど……でも、そもそも解決方法もわかってないし、資金の当ても無い状態だから、先の話ですよ?」

 話をすると、おっちゃんは予想以上に食いついてきた。

 この世界で生まれ育ってきたおっちゃんも、砂に覆われた生活には苦労しているみたいで、興味は持ってもらえたみたいだ。

「そうか……でも、坊ちゃんならなんだかんだ言って解決しちまいそうな気がするんだよな。なんて言うか、そう言うオーラがあるというか。それに、資金の話なら、簡単な解決方法があるぜ?」

「解決方法?」

「そうや。金が必要なら、金持ちに頼んで援助してもらえば良い。しかも都合の良いことに、坊ちゃんの目の前にはこの街で一番のホテルを経営しているオーナーがいるんだぜい?」

「それってつまり、おっちゃんが金を出してくれるってこと? でもそんなことをして、おっちゃんに何の得があるの?」

「そりゃお前、もし坊ちゃんがこの世界の砂を消し去ってくれたら、世の中は大きくうごめくことになる。その時に、先のことを見通せる俺がどれだけ有利に立ち回れることか! しかも、もっと大きな規模で脈動することになる! つまり、こんな狭い街を飛び出して、国や世界を支配することだって夢じゃねえ! そのためなら、たとえ全財産を投入することになったとしても分の悪い賭けじゃ無い! そう思わねえか、坊ちゃん!」

「なるほど……」


 そこまで上手くいくかと言われると、それはさすがに妄想が過ぎる気もするけれど、情報的優位に立てるということは、商人にとってはすごく重要なことなのかもしれない。

 だとしたら、おっちゃんに金を借りるというのも選択肢としては悪くないような気がしてきた。

 いや、むしろこれしかないというような気も。

「チシロさま! 戻りました! ……おや、お客様ですか?」

 話を呑むか断るかを考えていると、帰ってきたマテラとナチュラが窓から入ってきた。

 念のため二人にも相談して、問題なさそうだったらおっちゃんにお願いすることにしようかな……

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