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転生システムに致命的エラーを発見してしまったのだが  作者: みももも
第壱章:砂漠世界

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砂漠遺跡(1)

 妖精の羽を広げて、大海原ならぬ大()原を、月の明かりを目印にして一直線に進んでいくと、目の前には不思議な光景が広がっていた。

 月光に照らされて、砂の中から人工物と思われるオブジェクトが突き出していた。

 土でできた崩れかけの壁のようなや、石や金属で作られたような彫像がぽつりぽつりと顔を覗かせている。

 一つ一つは何も言われなければ見逃していたぐらいに目立たないんだけど、空中で立ち止まって見回すと、それらしきものがいくつも見つけられた。


「ここが、遺跡……?」

「そのようですね。チシロさま、一度降りて、よく観察してみましょう」

「そうだね……」


 高度を落としていくと、さらにいろいろなことが分かってきた。

 まず、このあたりから、人々の想いをかすかに感じる。おそらく、この砂の下には舗装された道が広がっていて、その上をかつては多くの人が行き来していたのだろう。

 想力の視点に切り替えて、想いを感じる範囲から遺跡の広さを推測すると……かなり大きなものだということが分かる。

 どうやら、遙か彼方、地平線の向こう側にまでこの遺跡は続いているようだ。


 砂上に降りて、地面の砂を少し掘り返してみると、十センチぐらいで固い感触にぶつかった。

「パパ、私も手伝う!」

 魔王が魔力を使って風を起こし、自分が掘った場所の周りの砂を除けてもらうと、石で出来たタイルのようなものが顔を覗かせた。

 二人の妖精が創り出した魔力の光源で照らしてみると、そこには綺麗な模様が描かれている。だが、その表面はかなりすり減っているようにも見える。おそらくこの上を、かつては何万という人が歩いていたのだろう……


「チシロさま。あちらの、壁がある辺りに行ってみてもいいですか?」

「ああ、だったら自分もいくよ。マテラたちは、肩の上で座ってて!」

 マテラが指さす方向に、妖精の羽で軽く浮遊した状態でふわふわと近づいていく。

 壁に近づいて、表面についている砂を取り払おうとして軽くパタパタと叩いてみると……それだけで壁はパキッと音を立て割れてしまい、そのままバラバラと崩れ落ちてしまった。

「あ……ごめん、壊しちゃった」

「あーあ、パパ、やっちゃったね! いけないんだー!」

「ですがチシロさま、見てください。チシロさまが崩してくれたおかげで、壁の中身がむき出しになりましたよ!」

 この壁の厚さは30〜40センチぐらいあるんだけど、崩れた壁の表面を見ると、その中は不自然な空洞が広がっている。表面を見たときは気づかなかったけど、どうやらこの壁はスポンジのようにスカスカな構造になっていたらしい。

 そりゃ、自分が触るだけで簡単に崩れるわけだ……


「チシロさま、この壁……やはり、そうです!」

「そうって?」

「ほら、見てくださいこの石の表面を。この壁は、おそらく元々は生け垣だったのだと考えられます!」

 マテラがそっと持ち上げた石には、植物の葉っぱのような模様が残っていた。

 昔、教科書とかで見たことがある、植物の化石のような……それってつまり?

「つまり、もともとは生け垣だったところに、砂が積もってこんな石壁になったってこと? 面白いこともあるんだね……」

「いえ、チシロさま。それはそれで間違っていないのですが……大事なのは、生け垣があったこと、つまり、かつては植物を生け垣に使うぐらいに余裕があったということですよ」

「そうだよ、パパ。こんな大きな街を結界で覆えるとも思えないし、昔はこの世界も、結界無しで普通に植物が育つような場所だったんだよ……きっと」

「そうです。街で話を聞いたときに感じた違和感の正体も、それで説明がいきます。彼らは『砂漠しか知らない』と言っていたのに『森』や『森林』や『大河』などという言葉を使っていました。ここからは推測になりますが……おそらくこの世界も、かつては自然が豊かだったのですが、何らかの原因で一気に砂漠化が進んでしまったのではないかと思われます」


 ……なるほど。

 時間が経って何世代か重ねるうちに、今の砂漠の状態こそが当たり前になったものの、かつては自然豊かな世界であった可能性もあるわけか。かつてのことを知る世代が一人もいなくなってしまえば、「この世界は砂漠に覆われている」というのが常識になってしまってもおかしくないわけか。

 それでも、言葉としては自然豊かな時代の単語が生き残ったり、物語や絵画としてはかつての時代のものが残されていたりするわけか……

 だけど、だとすると、スペラさんのために魔力豊かな新天地を探すという計画は、一気に難易度が上がったことになる。だって、この世界にはもう、そういう場所が残されていないということになるわけだから。

 こうなると、彼女の魔力依存症という病気自体を治療する方針に切り替えた方がいいのかもしれないけど、いまだにあの病気は、原因すらはっきりと分かっていないから……

「パパ、この場所をもう少し調べてみない? もしかしたら、何か分かるかもしれないよ?」

「チシロさま、この子の言うとおりです。当時の記録がどこかに残っていれば、この世界がこうなった原因が分かるかもしれません。そうすれば、この状態を何とか出来る可能性も……」

「そうだね。日が昇るまであと何時間余裕があるかは分からないけど、ギリギリまで探索してみることにしようか」

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