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転生システムに致命的エラーを発見してしまったのだが  作者: みももも
第壱章:砂漠世界

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砂漠の街(5)

 ポケットから出てきて皆の前で挨拶をする二人の妖精を見て、みんなかなり驚いている。目を思い切り見開いたり、見間違いでないかと目をこすったり。現実をそのまま受け入れることが出来ていないようにも見える。

 どうやらこの世界では、妖精の存在はあまり一般的ではないようだ。

 ……いや、よく考えたら自分の出身地である地球でも妖精なんて見かけなかったし、魔術や魔力が一般的だった前の世界でも、妖精のことはあまり知られていなかったから、全世界的に見て珍しい存在なのかもしれないけど。


 そんな風にあっけにとられている彼らをよそに、マテラと魔王は挨拶もほどほどに、自分の方へと向き直った。

「チシロさま、それよりも彼女の元へ向かいましょう。今も彼女は病気で苦しんでいます」

「ああ、そうだな。というわけで、自分は病人の元へ向かいたいわけだけど……どうする? いやまあ、どうしてもダメっていうならこのまま立ち去るけど……」

「パパ、立ち去るにしても、あの子の治療だけ済ませてからにしようよ! 地下は迷路みたいになっているけど、道も部屋も覚えたから私が案内するよ!」

「そうですね……私たちの力だけでは足りないので、おそらくチシロさまに魔術を発動してもらう必要がありそうなのです。お手数なのですが、ご足労お願い出来ますか?」

「あ〜……うん。まあ、苦しんでいる人がいるなら、放っておくのも気が引けるしね」

 自分としては別に、まだ会ってもいない病気の少女だから特に気負いはないんだけど、この子達にとってはすでに放置出来ない存在になっているのだろう。

 そんな彼女たちの親のような立場である自分としては、できる限り望みは叶えてあげたいところだし……


 とはいえ、この少年達のように、突然現れた自分のような不審者のいうことを鵜呑みに出来ないという気持ちも分かる。

 だから、本当に彼らに妨害されるようだったら、妖精達を説得してでも止めさせようとも思っていたんだけど……

「地下……迷宮……リーダー。どうやらこいつら、出任せを言っているわけではなさそうですよ」

「そうだな。だとすると、もしかしたら本当に治療が出来るのか?」

 どうやら彼らも、マテラと魔王が状況を的確にいっているのを聞いて、少しは自分たちのことを信用する気になったのかもしれない。

 信用するというのとは少し違うのかもしれない。

 たまたま捕まえただけの人がたまたま病気の治療が出来て、しかも勝手に「治療を手伝いたい」などと言い出す可能性が低いことは承知の上で、それでも藁にもすがるつもりでいるのかもしれない。

 どちらにせよ自分たちはすでに拘束からは逃れているし、ここまで来たら後は利用してやろうというつもりなのかもしれないけれど……


「わかった。案内する。だがそのデブオヤジはここに残しておく。何か怪しいことをしたら……分かっているな?」

 要するに彼は、おっちゃんのことを人質にして、自分に対する足かせにしようとしているようだ。

 実際は、あのおっちゃんとは全然顔見知りじゃなくて、それどころかまともな話もしたことがないんだけど、まあそれで盗賊団の少年達が納得するなら、それでいっか。

「おい馬鹿! 俺はその坊ちゃんとは無関係だ! ……坊ちゃん、俺を見捨てたりは……」

「分かった。それでいいよ。おっちゃん、悪いけどしばらくそこでおとなしくしていてね……」

「…………!!」

 おっちゃんは何かをいおうとしていたけれど、自分はそれを無視して少年について行くようにして部屋を出る。

 バタンと音を立てて扉が閉まると、おっちゃんの暴れる声も聞こえなくなった。

 そんな様子を完全に無視しながら、自分たちは地下へと通じる隠し通路に入り、真っ暗闇の中をランタンの小さな光源だけを頼りに進んでいくことになった。

 彼らがアジトにしているこの建物の地下は迷宮のように入り組んでいるようで、途中何度も細い道を曲がった。妖精達も特に何も言わないことから、自分たちを惑わすためにわざと遠回りをしているとかではなく、目的の場所にたどり着くにはこうして何度も曲がる必要があるということらしい。

 彼らが、金品を奪った後は自分たちのことを放逐しようとしていたのは、この複雑に入り組んだ地形に隠れれば見つかることはないと思っていたから……なのかもしれない。


「おら、分かっていると思うが、そろそろつくぞ! あと、これも分かっていると思うが……部屋への出入りは静かにやれよ!」

「チシロさま、この先の右側にある扉です。そこに魔力依存症の少女がいます。その部屋は魔力の温室になっているので、出入りの際は魔力が外に漏れないように静かに行いましょう」

「でも、パパ。多少暴れたぐらいで魔力が漏れることはないから、あまり気にしなくても良いんだよ?」

「まあ、そう言うのは気分的な問題もあるんだろうな……」


 とにかく、実際に意味があるのかどうかは別として、自分たちは息を潜めて抜き足差し足で扉へと近づいた。

 部屋に近づいていくと「ドンッドンッ」という、何かがたたきつけられるような鈍い音が響いてきた。

 盗賊団のリーダーである少年が扉に近づいて、コンコンコンとノックをすると、中から細い声で「はい、どうぞ……あいていますよ」と帰ってくる。

 その少年が「入るぞ」といって扉を開けると、ひときわ大きな音が響き、そこには何かを蹴り上げたような格好で制止している少女がいた。

 運動をしやすそうな露出度の高い服装を着て、髪を結んでポニーテールにしている、その少女が振り返ると、数秒遅れて、ドスンと音を立ててサンドバッグのような物が床に落ちた。

「……お客さん?」

「ああ。お前の病気を治せるかもしれないらしい。俺は半信半疑だが……」

 その少女は扉を開けた先にいた自分たちに気がつくと、小さな声で少年に問いかけた。

 ということは、この、健康なように見える彼女こそが、魔力依存症で苦しんでいる少女ということらしい。

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