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転生システムに致命的エラーを発見してしまったのだが  作者: みももも
第壱章:砂漠世界

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砂漠の街(4)

 床の上でじっと横たわっていると、マテラと魔王が帰ってきた。

 体感の時間だけど、5分ぐらいしか経っていない気がするし、自分が起きる頃に戻ってくると言っていた襲撃者が帰ってくる気配もないし……

 もしかしたら、自分のことが心配で、少し早めに戻ってきてくれたのかもしれない。


「二人とも、お帰り……何か見つけた?」

「チシロさま、この建物の奥に、魔力依存症の少女を見つけました。どうやら彼らは、その少女のために手荒なことをしてでもお金を稼ごうとしているようです……」

「パパ、あの子、かわいそうだよ。こんな魔力濃度の薄い世界で……きっとあの子は、あの温室から一歩も外に出たことがないんだよ?」

「魔力依存症って、キューちゃんと同じ? っていうか、魔力が薄いって、そうだったの? 自分には分からないんだけど……」

 どうやら妖精の二人は、この短時間で廃墟の中をざっと探索して、その一室に閉じ込められるように暮らしている少女を見つけたらしい。

 彼女は、キューちゃん……前の世界で自分と同じギルドに入っていた女の子と同じ魔力依存症という症状にかかっているらしい。

 魔力依存症は先天的にかかる病気で、確か、魔力を体内にためておく能力が著しく欠如している症状だったはず。

 だから、周りの魔力濃度に体調がかなり左右される。確かキューちゃんは、都会の人混み程度の環境ですら、かなり体調を悪くするぐらいだったんだけど……


 自分には全く分からなかったけど、この世界の魔力濃度は、かなり希薄になっているらしい。

 まあ、世界が違えば魔力の事情も変わるってことなんだろうけれど、この状況は、魔力欠乏症の少女にとってはかなりつらいものであるらしい。

 マテラと魔王の二人によると、その少女は魔力を逃がさないように膜を張られた部屋の中に魔力を吹き出す植物を植えることで、なんとか命をつないでいるらしい。


「ちなみに、マテラでもどうしようもないの?」

「チシロさま、ご命令ください! あの子が平気で暮らせるようになるような術式を、開発して見せます!」

「そんなこと、マテラのことだから、どうせ自分が命じなくても勝手にやるんでしょ?」

「それは……そうですが……」

「いいよ。自分からもお願いする。その子のために、術式を開発してあげて! 君も、マテラの手伝いをお願い出来る?」

「パパ、任せて!」


 前の世界では、フードを改造したり、外付けの腕輪に魔力のシールドを発生させる機構を組み込んだりして対応しようとしていたけれど、術式だけで実現することが不可能だったわけではない。

 ただ、その必要がなかったと言うだけで……必要は発明の母っていう言葉もある。

 それに、この二人なら、何でも出来そうな……そんな気もするしね。


 マテラと魔王の二人とこそこそと会話をしていると、捕らえられて転がされているおっちゃんが、その様子に気がついたらしい。

 寝返りを打って、芋虫のように体をくねらせながら、自分の方に近づいてきた。

「おい、坊ちゃん、おきたんか?」

「え、ええまあ……」

「混乱したくなる気持ちは分かるが、まずは状況を説明するぞ。俺と坊ちゃんは、あのクソガキ……強盗団に襲われて、こうして捕まえらえられとる。目的は十中八九……いや、間違いなく坊ちゃんの持ってる金片だ。坊ちゃんがどこに隠したのかは知らないが、悪いことは言わんからとっとと手渡して逃がしてもらった方が身のためやで! ……俺と坊ちゃんの、お互いにとってな!」

「……なるほど」

 マテラ達に頼めばいつでも逃げられる自分は今の状況を楽観的に考えていたんだけど、このおっちゃんにとってはかなり危機的な状況なのだろう。

 自分にとっては見知らぬ人だけど、だからこそ効果的な人質として作用していることになる。勝手に自分に関わってきたこのおっちゃんの自業自得と言えないこともないけれど……

 って言うか、こうしてアジトまで連れ込まれた時点で、ただで逃がすという選択肢はないような気もするんだけど……

「良いか、あいつらは最近噂の盗賊団だ。見た目にだまされちゃいけねえ。下手な交渉も止めた方が良い。素直に金片を渡して、従順な振りをしてここから逃げ延びて……奴らをとっちめるのはその後でも遅くねえ!」

「それはつまり、おっちゃんにはあいつらをとっちめられる手段があるってことなの?」

「いや、俺自身がそんなことをしなくても、奴らに恨みを持っている者は多い。この場所の情報を売りつけてやれば、後は勝手に滅びるだろ!」

「まあ、そうだろうね」


 ただ、そんなことはさすがにあの子供達も分かっていることだろうから、憲兵なり荒くれ者なりが到着した頃にはここはもぬけの殻ってこともあり得るけど……でも、待てよ?

 病人がいるのなら、そんな簡単には逃げられないのでは?

 ということは、一体あの子達は自分たちのことをどうするつもりだったのだろう……

 おっちゃんの話を聞きながらいろいろ考えていると、複数人が廊下を歩く足音が聞こえてきた。

『チシロさま、来ましたよ』

『パパ、私たちは隠れているね! あと、パパを結んでいる紐は、力を込めればちぎれるぐらいの切れ目を入れておいたから、いつでも逃げれるからね!』

 マテラと魔王がすっとポケットの中に入り込むと同時に、鍵が空く音がして、直後に扉が開く。

 そこには数人の子供がいて、その中心にいるリーダー格の男が、縛られて動けない自分の元に、自信満々といった感じで近づいてきた。

「起きたか! 単刀直入に聞く。金片はどこに隠した! 言わないと、痛い目を見ることになるぞ!」

「……」

 威圧的に話しかけてくる少年に対し、こちらは何も口に出さず、じっと見つめるようにする。

 まだ幼いこんな子供が、人から者を奪うことを当たり前だと考えている。その事実は少し受け入れがたいけど、でもそれが、この世界の現実なんだと思う。

 自分が黙っていると、向こうは少しビビったように顔を引きつらせているけれど……それでも、完全に拘束されて動くことも出来ないこちらの様子を見て、冷静さを取り戻したようだ。

 おっちゃんは「素直に金片を渡せ」と言っていたけど、それだけで逃がしてもらえるとも思えない。

「おい、聞いているのか? とっとと金を出せって、そう言っているんだ! 家に帰りたくないのか?」

「お前達に金片を渡したとしても、それで素直に返してくれる保証はあるのか?」

 自分が相手に反論をすると、おっちゃんは「おいっ!」と言いたげな表情でこちらをにらみつけてくる。

 気持ちは分かるけど……でも、この金片は一応、自分と二人の妖精の、三人で得たものだから。交渉するかしないかも含めて、おっちゃんの指示に従う理由はない。


「どういう意味だ? 金片を渡したお前達に用はないから、すぐにでも放流してやるぞ?」

「だけど、そうしたら自分たちはその後で、君たちのことと、この場所のことを通報するよ? そしたら、今度は君たちが襲われる立場になるよ?」

「そんなことか! 馬鹿め、そうなる前にここを離脱すれば良いだけの話だろうが! そんなことも……」

「だったら、あの子のことはどうするんだ? まさか一人で置いていくのか?」

「あの子? 何のことを……」

「病気で苦しんでいる子がいるんだろう? その子は、簡単には外に出られないはず……」

「おまえ! スペラの何を知っている! なぜそれを……誰に聞いた!」

「そんなことよりも、自分たち(・・)になら、その子を救うことが出来るかもしれない。自分としては、このままお金を渡して立ち去っても別に良いけれど、病気を診てあげてもいい。……どうする?」

 突然こんなことを言われて、少年達はかなり戸惑っているようだ。

 まあ確かに、鴨が葱をしょっていると思って捕まえてみたら、突然そいつが「おまえ達を救ってやる」みたいなことを言っているわけだからね。

「お前……たち? お前一人じゃないってことは、そっちのデブオヤジが、医者なのか?」

「ああいや、そういうわけではなくて……」

 いつまでも横たわったまま話をしているのもつらいので、魔王の妖精が付けてくれた傷を頼りに、体を縛り付けている紐を腕で思い切り広げると……ブチッという音を立てて拘束が解かれる。

 そのまま手をついて起き上がり、ポケットの中にいた二人の妖精に出てきてもらう。


「紹介するよ。この子達は、自分の妖精だ。病気の子は、この子達に見てもらう」

「初めまして……チシロさまの妖精のマテラです」

「同じく始めまして! 私もパパの妖精だよ! よろしくね!」

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