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転生システムに致命的エラーを発見してしまったのだが  作者: みももも
第壱章:砂漠世界

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砂漠クエスト(1)

 建物の中に入った自分たちを待ち構えていたのは、やはり大勢の人混みだった。

 その中でも、多くの人が集まっている場所に近づいていくと、どうやらそこではさっき外で見たソリや獣の貸し出しを行っているようだった。

 並んでいる人は通貨を支払って、その代価として番号の書かれた板を受け取っている。

 あの板を、厩舎のような場所で手渡すと、代わりに動物を借りることができる仕組みになっているらしい。

 借りることができる動物は、六足歩行の獣だけでなく、二足歩行の巨大な鶏や、四足歩行の狼や猫、駱駝のようなものまで様々だった。

 猟師達は、それぞれ自分に合った動物にソリをひかせたり直接その上にまたがったりして、砂漠での狩りに向かうのだろう。


 そうして、競うようにパートナーを取り合っている様子を見ていると、がっしりとした体格の、ひげまみれになったドワーフのようなおじさんがゆっくりと近づいてきた。

「どうした? ここは初めてか? もしかして、狩りに興味があるのかい?」

「え、ええ。すごい活気ですね……」

「そりゃあ、な。何せ、バディ次第で狩りの成果が決まると言っても過言ではないからな!」

「バディ……?」

「おいおい、いくら何でもバディぐらいは知っているだろ? それこそ人とバディの関係なんて、産まれたばかりの子供でも知ってるよな!」

「ああ、バディね……知ってるよ、もちろん」


 いや、知らんけど。

 でも、知っていて当たり前なことを知らないと、怪しまれる可能性もあるから、知っている振りをしよう。

 というか、今のでなんとなく分かった。要するにあの、人が騎乗したりソリを引かせたりする動物のことをいっているのだろう。

 おそらく、相棒とか、そんな意味合いで使われているのだろう。

 バディ……バディね。よし、覚えた。もう大丈夫!


「ところで、狩りというのは……何を狩るんでしょうか」

「おいおい、おいおい! まさかお前、俺を試しているのか? そんなの、サンドフィッシュに決まっているだろう? それともお前、そんなことも知らないなんて、どっかの屋敷のお坊ちゃんか?」

「いや、そう言うわけではないが……」

 サンドフィッシュ……名前からして、砂の中に生息する魚?

 とにかくこの世界の人達は、こうして街の外に……魚ということは漁に出て、その魚を資源にして生きているらしい。

「そうですよね。サンドフィッシュに決まってますよね……ところで、その漁には、自分も参加できるのでしょうか……?」

「はぁ……」

 自分の言葉を聞いて、おっさんは露骨にため息をついた。

 これはあれか。また、知ってて当たり前のことを知らなかったことに対する落胆か。

 だが、例え落胆されたところで、こっちが知らないという事実は変わらないから、恥ずかしいことなどではないし、恥じるつもりもない。

 そう思ってじっと相手の目を見つめると、面倒くさそうな顔をしながらも、説明を再開してくれた。


「サンドフィッシュの狩りに行くのは、基本的に自由だ。どんな事情がある人でも許可されているし、それがどんな手段で捕らえられた物でも、ここに持ってこれば買い取ってやれる。だが、素人が狩りに出かけて遭難して、見つかったときにはミイラになっていたって話も珍しくない。坊ちゃんはやめておいた方が身のためだと思うぜ?」

「そうなんですね……それは、自分たちにとっては都合が良い。教えてくれてありがとう、おっちゃん!」

 もしこれが免許制だったり、身分が明らかでないと買い取ってもらえないとかだったりすると、異邦人の自分にとっては都合が悪かったのだが、開放的というか、自由度の高い市場になっていてくれて助かった。

 おそらく、このおっちゃんが言っている「どんな手段でも」というのは、例えば他人から強奪したりとか、そういうことを言っているのだろう。

 そんなことをするつもりはないけれど、他人から奪った物でも許されるなら、身分のない自分が持ち込んだとしても問題にはならないのだろう。


 そう思って優しいおっちゃんにお礼を告げて、早速狩りに向かうことにする。

「おい、坊ちゃん! バディは?」

「とりあえず今日は無しでも大丈夫! 心配してくれてありがとう、おっちゃん!」

「おい……聞いちゃいねえ……」

 おっちゃんは何かを言おうとしていたみたいだけど、どうせ狩りに行くならバディは必須とか、そういう話だろう。

 自分の場合は、精霊の羽で空を飛ぶことができるから、わざわざバディを借りる必要がないし、そもそも借りるためのお金が一銭もない。

 根無し草のくせに金までないとなると、さらに怪しまれることになりそうだから、このあたりで話を切り上げることにしよう。


 走って店を抜けると、後ろには誰もついてきていない。人の数が多かったから、追いかけてこようとするおっちゃんを振り切ることは簡単だった。

「パパ、どうするの? サンドフィッシュを捕まえるの?」

「そうだね。どうやらお金を手に入れるには、それが一番手っ取り早そうだから、そうしようかな」

「でもパパ、本当に大丈夫なの? そんなにうまくいくの?」

「こう見えてチシロさまは、前の世界ではSランクの冒険者でしたからね!」

「まあそれは、マテラとかライアとかリオとか……みんなの協力があっての物だけどね」

 でも、前の世界で一から転生者として活動をして、短期間でSランク冒険者という地位まで上り詰めたというのが自信につながっているのも事実だと思う。

 やってみれば案外なんとかなる。自分が前の世界で学んだのは、そういうことだったのかもしれない。


「それに今日のところは、魚を捕まえるって言うよりは、他の人がどうやって漁をしているのかを観察するのが目的だからね。それで、バディが必須ってなりそうだったら、そのとき改めてどうするかを考えれば良いわけだし」

「そうですね、いざとなればアルバイトでもして種銭を稼いで、それを元手に増やしていけば良いだけですしね!」

「そんなにうまくいくのかなあ……」

 魔王は、自分たちの考えを伝えても半信半疑と言った感じだけど、別に自分もうまくいく確信があるわけではない。

 でも現実問題として、動かずにじっとしていたところで何かが解決するわけではない。

 別に自分は考え無しで行動しているわけではなくて、考えたところでしょうがないと思って行動することにしているだけ。


「まあ、見てなって。世の中なんて、案外なんとかなるものだから」

 そう言って、入ってきたばかりの門をもう一度抜けて外に出た自分たちは、人気がなくなったのを確認してから羽を広げて飛び上がる。

 上空から改めて地上を見ると、至る所で人々が夜の狩りに勤しんでいるようだ。

 日が暮れて暗くなっているから、松明のようなものを掲げているらしく、殺風景な砂漠の上を、燃えさかる炎が飛び交っているようにも見える。

「お、あそこで何か起こりそうな予感がする!」

「本当ですか、チシロさま?」

「パパ、普通に走っているだけに見えるけど?」

 自分が指さしたのは、燃えさかる松明を掲げたソリで砂漠を走っている三人組の集団だった。

 ただ見ただけだと普通に走っているように見えるのかもしれないけれど、想力に注目すると、緊張感が高まっているのが分かる。

 どうやら、獲物を追い込んで、いよいよ狩りが始まるようだ……

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