表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
594/694

魔王討伐戦(10)

「突撃、開始!」

 名前も知らないSランク冒険者の号令で、魔王討伐戦の最終幕が切って落とされた。聞いた話だと彼もSランク冒険者で、この業界では結構有名などこかの国の将軍らしい。


 この戦いに勝てば今回の騒動全てに決着がついたことになるが、同時にこの戦いに負ければ全世界は魔王の恐怖に包まれることになる。

 なにせ今ここにはこの世界におけるほぼ最大戦力と言ってもいいだけの冒険者たちが集まってきているので、ここで事態を収束できないとなれば人類は残った戦力でどんどん強化されていく魔族の恐怖に怯えながら魔王の力が自然に収束するのを待つしかなくなるのだ。

 ちなみに、『赤銅』の研究者が出した試算によると、あの魔王はいまだ発展途上の状態で、ピークを迎えるのはおそらく約1年後。そこからは徐々に沈静化していくと考えられるが、今と同じ状態になるのは数十年から数百年が必要になるらしい。

 自分たちが今しようとしていることはまさに火山の噴火に立ち向かおうとしているようなものだが、それをしなければ人類は衰退の道を辿ることになるし、それをできるだけの人がこの場には揃っている。


 まずはSランク冒険者の中でも戦闘特化型の何人かが山に突入し、進路を塞ぐ魔物との戦いを始めていた。

 並のAランク冒険者では歯が立たないような相手でもさすがはSランク。一人で何体かの魔物を同時に相手している人もいた。

 ただ実力的に余裕があるという感じでもなく、普段は苦戦することなど滅多にないSランク冒険者たちは久しぶりの戦いで血が騒ぐのか、楽しそうに戦っている人が多い印象だ。 ここは彼らに任せておけば大丈夫かな。

「チシロさま、血路が開きました!」

「よし、行こう! シロヒメさん、クロヒメさん、キューちゃん。 三人とも準備はいい?」

「もちろんです〜」

「いつでも大丈夫だぞ☆」

「任せるでち!」

 山に入る道が確保されたのを確認したら、自分たちの他にも大勢のSランク冒険者が山に向かって突撃していった。

 一応、本命と呼ばれる部隊は自分と三姫に三妖精が加わったチームなのだけど、SランクやSSランクの冒険者たちはそれぞれが一騎当千の実力を持っているので、他にもいくつかの部隊が編成されている。

 自分たちが問題を解決できればそれでも良いし、自分たちはダメでも他のチームが解決できるならそれでも良い。

 ギルドの枠を超えたチームが編成されることも多く、脅威を前にして初めて世界は一つにまとまった・・・のかもしれない。


 押し寄せる魔物を足止めしてくれている冒険者たちのおかげで自分たちは大した消耗もなく山の洞窟にまでたどり着いた。

「これは・・・前に来た時よりもひどくなってない?」

「はいチシロさま。 魔力によって山自体が変質しているようです・・・」

 この洞窟は山の調査をするときに使ったのと同じ洞窟なんだけど、以前と比べても壁や床、天井の禍々しさが増している気がする。

 その傾向は洞窟の奥に進むほどに顕著になって、多分ここらへんの壁には魔力が豊富に含まれているから平時であれば「高級素材祭り」って喜んでたかもしれないけれど、今は状況が状況なだけあってそういう気分にはなれない。

「うむ・・・この調子で侵食が進むと、いずれは世界的な災害になってしまうのであろうな」

 洞窟の奥に進むほど魔力の濃度が高くなっているらしく、シロヒメさんとクロヒメさんはまだ大丈夫そうだけど、キューちゃんはかなり辛そうにしているように見える。

「・・・キューちゃん、大丈夫?」

「オンちゃん・・・まだ(・・)、大丈夫でち」

 キューちゃんの様子を確認した感じだと、「今はまだ耐えられる」けど「この先耐えられるかはわからない」っていう感じに見える。

 魔力依存症のキューちゃんは周囲の魔力の影響を直に受けてしまうから、こういう場所ではかなりきついんだろう。

 ウィスさんが発動してくれた魔力結界はちゃんと起動しているのだが、あくまでこれはサポートで、完全に影響を無効化するようなものではないから。

 無理はさせられないから最悪の場合は途中で引き返してもらう選択肢もあるんだけど・・・。

「チシロよ、ベルンに我を装備させればおそらく影響を緩和できるぞ」

「なるほど。 キューちゃん、どうする?」

「・・・お願いするでち。 やっぱり今のままだと厳しいでち」

 王冠の形になったライアを装備したキューちゃんは「本当に、だいぶ楽になったでち」と言って元気を取り戻すことができたみたいだ。

 ちなみにシロヒメさんとクロヒメさんも完全に平気というわけではなさそうだけど、自分は精霊力の薄膜のおかげで今のところ全く問題ない。

 いざとなったらこの薄膜を全員に発動しても良いんだけど、これ、自分に対して使うのは楽だけど他人に対して使うのはめちゃくちゃ体力を使うんだよね。

 それに集中しなきゃいけないからその場からあまり動くこともできなくなるし。 あくまで「最後の手段」って感じかな。


「チシロくん、洞窟の出口だよ!」

 視線を前に向けると洞窟の出口が見えてきた。

 魔力が吹き込んでいるからなのか、壁面の侵食がより酷くなっていて、ボロボロと自然に風化していたり、あるいは変色して宝石のように禍々しく輝いていたりする。

「そうだね・・・いこうか」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ