山龍討伐一日目(4)
「マテラ、どうしよう。 本格的にどうしようもない・・・」
どうやら、追っ手は完全に撒いたようで、追っ手の気配は完全に消えたようだけれど、根本的に帰り道がわからないのではどうしようもない。
というか、姿の見えない追ってから逃げ続けているうちに、森の奥へ奥へとより深く迷い込んでいる気がするんだけど、もともと迷子だったんだから、関係ないよね!
まあ、冗談はさておき。
どうにかしてみんなに連絡を入れたいのだけれど、相変わらず通話は繋がらないし、固定文のメッセージを送っても届いているのかどうかわからない。
幸いなことに? 魔物などの「魔力」の気配はマテラが察知できるし、自分には悪いことを考えている人の『想い』が感じられるので、身に危険が迫っているわけではないのだが、やはりこのままずっとこのままというわけにもいくまい。
「マテラ、どう? 結界について、何か書いてあった?」
「はい、チシロさま。 ステータスカードのログを解析してみたのですが、私たちが迷い込んだのは『対個人用の低級結界』のようです。
ですがこれは、結界を張っていた人たちが私たちを見失った瞬間から効力を失っているようでして・・・」
「お、ということは、結界はすでに抜けているっていうわけだ。
ん? でも、じゃあ、みんなと通信がつながらないのは、なんでだ?」
「それがですね・・・。 どうやら、低級結界を抜けるとほぼ同時に、より強い結界に取り込まれてしまったようなのです。
こちらは、ステータスカードで解析できるような低級ではなく、少なくとも『上級以上』。 下手したら神話級の可能性もありまして・・・」
神話級とは文字どおり、「神話の中にしか登場しない」ぐらいの強さらしい。
まあ、神話級とまではいかなくても、それほどまでに凄そうだ。 ということなのだろう。
いったい誰がこんな大掛かりなことを?
「マテラ、何かがすごい勢いでこちらに近づいてくる。
すごい強い『想い』だ・・・。 でも、何だろう、そんなに嫌な感じがしないというか・・・・・」
「チシロさま? 私には何も感じられないのですが・・・」
今まで、魔獣からは「想い」を全く感じなかったので、魔獣ではないのだろう。
だけど、果たして人間に、ここまで澄んで綺麗な想いを出力できるのだろうか。
あまりの速度に、逃げ切れないと判断し、「ならばせめて」と、向かってくる方向を向いて身構えると、草むらをかき分け、木々の合間を縫って、風のような速さでやってきた。
それは、一柱の「龍」であった。




