精霊車・運転席にて(3)
そうして『黄金』はどんどん大きな組織になっていきました。
おじいちゃんや、おじいちゃんの戦友達が、張り切って高難度のクエストをじゃんじゃんクリアしていたので、資金面でも、名声面でも爆発的な成長を見せました。
そもそも、仕事なんてしなくても余生を楽しめるだけの資金を溜め込んでいるお年寄りばかりでしたので、報酬や効率なんかは一切気にしないで、高難易度のクエストをクリアしては、私に自慢してきました。
『アウラちゃんや、ドラゴンって知っとるかね? これが、ドラゴンの鱗じゃ。 きれーなもんじゃろ?』『アウラちゃん、見てみてこの石。 きれ〜な石じゃろ? この石はのぅ、ダンジョンの奥深くに・・・』『ほら、ごらん? これはね、・・・・・』『うわぁ〜、おじ〜ちゃんたち、すご〜い』なんて会話は日常茶飯事でした。
つまるところ、孫に自慢したいおじいちゃん的発想が、結果としてギルドの名を上げることにつながったわけですね。
そうしてギルドが成長してくと、当然ですが「このギルドで働きたい」っていう人もたくさん出てきます。
おじいちゃんたちは広い心でそういう人たちを受け入れました。
新しく入ったメンバーも、優しい人が多くて、私と一緒に遊んでくれる人もたくさんいました。
その時は単純に『仲のいい友達』ができたような、あるいは、ひどい言い方をすれば『なんでも言う事を聞いてくれる召使い』ができたような。
まるで一国の王女様のような気分だったんだと思います。
ですがそんな気分は、残念ながら長続きしませんでした。
ある日、おじいちゃんや、他のギルドメンバーの真似をして、クエストのパーティーメンバーを募ったことがあったんです。
「一人か二人ぐらいは集まるといいな」なんていう、軽い気持ちで募集用掲示板に書き込みをすると
あれよあれよと人が集まってきます。
一時間ほど経って慌てて募集を打ち切った時には、それはもう、すごい人数です。
おかげさまで初めてのクエストは、『1000人で薬草集め』という、ピクニックにしても大迷惑なツアーを敢行する羽目になりました。
ちょうど、その頃からですね。 私がギルド離れをするようになったのは。
周りのすべての目が私に集中しているようで、怖かったんです。
少しでも困ったそぶりを見せると、カラスやハイエナのように群がってくる。
悩むことも迷うことも、考え事をすることすら許されないようで。
そこにいる限り、私に自由は存在しなかった。
結局、周りの気遣いから逃げるように、遠く離れた町のクエストなどを一人で受注するようになりました。
それから数年も経つと、ギルドにはほとんど戻らず、一人でクエストをこなす生活を続けるようになりました。
幸いなことに、おじいちゃん達から学問や戦闘技術を教わっていたので、一人で生きることに苦労はほとんどしませんでした。
そうして一人暮らしをしているとある日「おじいちゃんが病気で亡くなった」という手紙が届きました。
当時旅に出ていた私は、おじいちゃんの死に目にも逢えず、便りが届いた頃にはギルド主催の葬式もすでに終わっていて、私にできることは何もありませんでした。
当時は、部屋から出ないで一人で泣き続けていましたし、今でもたまに思い出して後悔しています。
でも、それと同時に「ギルドに顔を出す理由」も完全に消え去って、まるで枷から解き放たれたような気分でもありました。
それからは、あっという間です。
急速に育ったギルドというものは、衰退するのも速いということなのでしょう。
おじいちゃんが亡くなった頃には、他のおじいちゃん達もすでに引退しているか亡くなっていて、ギルドを支える人は一人もいない状態だったようで、そこからは滑るように落ちぶれていきました。
「そして気がついたら、ギルドメンバーは私一人になっていた。
これが、私の知るこのギルドの全てです。
私のために作られたギルドが、最終的に私一人のものになったのですから、世の中、うまくできてますよね・・・・・」




