赤銅革命計画(9)
シェフに「『赤銅革命計画』(の阻止)に協力する」ことを伝えた自分たちは料亭の屋上から再び飛び立ち、街に入るためにとりあえず地上に降りることにした。
この店は雲より上の屋上にヘリポートがあるから遠慮なく飛んでこれたけど、流石に普通に街に入るときは目立つのを避けるためにも一度地上に降りて、そこから車なりバイクなりで向かう必要があるのだ。
ちなみに、シェフとは結局ステータスカードの連絡先交を行わなかった。
なんでも「ステータスカードのメッセージは『赤銅』に監視されてる可能性があるでちゅ」とのことで、連絡先の交換をするだけでも『要注意人物リスト』に乗ってしまう可能性もあるのだとか。
あの料亭は様々な情報が集まるので、シェフを含めた全ての関係者が要注意人物として常に監視されているらしい。
もともとシェフは『伝書鳩』という魔術を使って手紙でやり取りするつもりだったらしいけど、それではあまりにも手間がかかりそうなので、かわりにライアの分身を一人あの料亭に配置して情報のやり取りはライアを通して行うことにした。
ということで、自分が運転する車で街の門をくぐり抜けた自分たちは、そのままソーダさんに指定された待ち合わせ場所である公園に向かうことにした。
公園に着いて駐車場に車を停めて、車を降りるとそこは多くの子供や子連れの親でそこそこ賑わっていた。
「兄さん、常々思ってたんですけど、この世界って案外平和ですよね」
「うん。 街を出ると普通に魔獣がゴロゴロいるんだけど、逆にそういうわかりやすい脅威があるせいで人間同士の争いが少ないのかも」
「だとしたらなおのこと、『赤銅』がどうだか知りませんが、そんなことで人間同士が争いあうのは馬鹿らしいですね」
「うん。 ・・・とはいえ自分はついこの間『襲名戦争』っていう争いごとに巻き込まれたばかりなんだけど・・・、あれはどちらかというとそういうイベントみたいなものだったしね」
以前『黄金』が巻き込まれた『襲名戦争』は最終的に人間の血は一滴も流れない形で決着がついたけど、今回の革命でも同じことになるとは思えない。
なにせ『襲名戦争』には明確なルールがあったけど、革命となるとそれはルール無用の戦いになって、「目的を達成するためなら流血沙汰も辞さない」という人が現れてもおかしくはない。
自分の知らないところで人が傷つくのもいい気分ではないけれど、知ってしまったからにはなおのこと人事でない。
こんなことを考えていたらまた『やさしさ』のステータスが成長しそうだけど、自然にそう思ってしまうのだから仕方がない。
(チシロさま、私たちは協力者の顔を知りませんので、むこうからこちらに接触してもらうことになります)
(うむ。 一応人違いで話しかけられるのを防ぐために目印として黄色のスカーフを身につけ、合言葉を決めておるらしい)
(チシロくん、彼らは人混みの中でも怪しまれない訓練まで受けているんだって! すごいね!)
ちなみに、マテラ、ライア、リオの妖精三人とキューちゃんを合わせた四人はフードの中で待機である。
妖精が飛んでいると目立つし、キューちゃんはアイドルとしての知名度が高すぎるから。
自分もなんか最近は有名人になってきてしまっているみたいなんだけど、まあ一応ギリギリセーフってことで。
それにしても、黄色いスカーフなんてものを身につけていたら、それだけで目立ってしまいそうな気もするんだけど、それでも目立たないなんてことができるのだろうか。
おそらく尋常じゃない訓練の果てに『気配を消す術』とかを身につけているとか・・・。
(チシロさま、あの人では? なんか派手なファッションですが、確かに黄色いスカーフを身につけています・・・)
(うむ。 チシロよ、念のために合言葉を言ってもらえるか?)
(チシロくん、合言葉は・・・)
いやまさか、派手なものを身につけても不自然に目立たないという問題を解決するために、そもそも派手な格好をすることにしたのか!?
それって本末転倒な気がするのだが・・・とにかくまずは、合言葉だ。
リオに教えてもらったい言葉をそのまま復唱しよう。
「ごきげんよう、良いお日柄ですね!(合言葉)」
「ごきげんよう。 風が気持ち良いですね」
「暖かくなってきましたからね。 今日はどのようなご用で?(合言葉)」
「わたくし、人と待ち合わせをしておりますの」
うーん、特に話していて違和感は感じないけど・・・。
(チシロくん、一応この人の話してる内容は合言葉通りだよ!)
(うむ・・・念のためソーダに顔写真を送ったところこの人物で間違いないようである)
顔写真で判別するのなら、合言葉を決める意味があったのだろうか・・・。
(チシロさま、この場では連絡先だけ交換して別れる手はずになってます。 互いに名乗ったら「それでは」と言って別れてください)
「自分はチシロ・ミトと言います。 お嬢さん、お名前は?」
「おじょ!? ・・・わたくしは『イザク』でございます。 それではごきげんよう」
(チシロさま、確かに名前が登録されました。 目的は果たしたので一度車に戻りましょう)
そうだね。
マテラの言う通り、イザクさんと手を振って自然に別れた後、自分たちはあくまで自然に見えるように少し遠回りをしてから車に戻った。
フードの中から(兄さん、逆に怪しい人みたいです)とか(オン先生、そこまでしなくていいと思いますよ)とか聞こえてくるけど気にしない、気にしない。
それにほら、自分たちはこれから歴史的な革命運動に関わることになるわけだし、どこにスパイがいるか分かったものではないし、それになんていうか、そう。 こういうのは雰囲気を楽しまなくちゃ!