赤銅革命計画(8)
豪勢な朝食を食べ終わると、食後のコーヒーを運ぶ給仕と一緒にシェフが部屋に入ってきた。
全員の元に湯気を立てるコーヒーが行き渡ると、早速シェフが口を開いた。
「『黄金』のみなちゃん、今日もうちのお店を使ってくれてありがとうございまちゅ。
ところで昨夜の話なんでちゅが・・・」
「えっと、昨日あの後みんなと話し合って、『黄金』としては『積極的に様子見する』ことにしました。
ただ、自分個人としては革命による戦争は阻止したいと考えています」
「うちもだいたいオンちゃんと同じ考えでち。 とはいえまだ方針も決めてないから、できれば情報が欲しいところでち」
「そういうわけで、シェフの指示に従って・・・みたいな感じじゃないけど、互いに情報共有したりとかで協力し合えたらいいかなって思ってます」
「そうでちたか・・・でもそれで十分でちゅ! それじゃあ早速情報共有でちゅ!」
そういってシェフがパンパン!と手を叩いて合図を送ると、給仕が巨大なホワイトボードを5人がかりぐらいで運んできた。
ホワイトボードの上には顔写真付きで色々な人の情報が載っている。
「見ての通りこれは、今時点で判明している『赤銅』の構成図でちゅ。 一番上に『赤銅闊歩』と呼ばれるギルドマスターがいて、その下に『四天王』と呼ばれるサブマスターが四人。 さらにそこから分岐して・・・」
「チシロさま、さすがは5大ギルド中最大規模とも呼ばれる『赤銅』です。 『黄金』とは根本的に違いますね」
「シェフ、質問というか、ちょっと気になったことがあるでち!」
「はい、キューチシロちゃま、なんでちょうか?」
「最近うちがクエストをやってると『赤の同盟』ってギルドが競合してくることが何度かあったでちが、そのギルドが載ってない気がするでち。 もしかして漏れてる情報もあるでち?」
「申し訳ないでちゅ。 この情報はうちの料亭ギルドで独自に蒐集しているんでちゅが、情報の更新が追いついていないものあるでちゅ。
例えばみなちゃんは知ってるはずでちゅが、この『赤き農民』はすでに『赤銅』から『黄金』参加に移っているんでちゅが、ここの情報はまだ更新されてないでちゅ。
だからあくまで『参考情報』としてみて欲しいでちゅ」
シェフに言われて下の方を見てみると、確かに『赤き農民』の名前が載っていた。
というか『赤き農民』の上にはいくつものギルド名が並んでいるのに下には一つも伸びていない。
つまりまさしく根っこの末端部にあるギルドだったのだろう。
それと比べれば今は『黄金』の直属傘下のギルドになったわけだから、大出世したということになるのだろうか。
相変わらずそれ以上下がない末端ギルドであることに変わりはないけど・・・。
「なるほど。 それでシェフ、この料亭の給仕さんが脅迫を受けたっていうのはどのギルドだったんですか?」
「そうでちた。 えっと、うちの従業員にちょっかいかけたのはこの『赤槍第6部隊』というギルドで、調べていくうちに第3から第5までの赤槍とその傘下にあるギルド全部も革命計画に協力的みたいでちゅ」
シェフがホワイトボードに手をかざして魔力を送り込むと、だいぶ上層にあった『赤槍』というギルドから下が全て赤色に塗りつぶされた。
パッと見た感じ全体の2〜3割が赤く染まったように見えるんだけど、これだけ多くのギルドに『革命』を起こすつもりがあるということらしい。
「うむ。 まずは何れにせよこやつらの目的を調べる必要がありそうであるな」
「そうだね。 シェフくん、何かそこらへんの情報はないの?」
「妖精ちゃまの仰るとおり、まずは奴らの目的を調べることが大事でちゅが、そのためには潜り込んで調査をする必要があるんでちゅ。
だけどうちの店でできるのは料理を提供しながら情報を聞き出すことだけで、そういう荒事はできなかったんでちゅ・・・」
「そういうことなら、うちらに任せるでち! 幸いなことにベルンシュタインは全然浸透していないから、ステータスカードの情報公開レベルを調整すればいくらでもどうにでもなるでち!」
「ああ、そういうこと。 だったら自分も・・・ダメだ、チシロはなぜかめちゃくちゃ浸透してるから・・・」
「オン先生! でしたら私が潜入調査を手伝います!」
「ウィスさん・・・。 そういうことならウィスさんにお願いしようかな。 『黄金』に入って早々別ギルドに入ってもらうことになって申し訳ないんだけど・・・」
ちなみに、ギルドへの多重登録は、先に入っていた方のギルドが許可を出せば自由にできるらしい。
ただ、ギルドマスターとサブマスターにはそもそも多重登録の権利がないので、自分の場合は名が知れているとか以前の問題でそもそも協力できなかったらしいけど。
「チシロ先生、チシロ兄さん。 私ももちろん協力しますよ!」
「マシロちゃん、そしたら私と一緒のギルドに参加することにしようよ! 『二人で『Aランク』に合格したからギルドを探してます』っていえば、怪しまれないと思うよ!」
「二人は二人で頑張るでち! うちはちょっと言い訳が難しいからいっそ上の方のギルドへの潜入を目指してみるでち!」
「うむ。 ベルンの補助はわれが努めよう」
「ライア、よろしくでち!」
「だったら僕はチシロくんか、マシロちゃんとウィスちゃんのサポートをすればいいのかな?」
「私は私はチシロさまのサポートをするのですが、リオは『黄金』でアウラとメリアさんのサポートをお願いできますか? 本格的に動くとなると人手が足りなくなることが予測されますので・・・。 マシロさまとウィスさんは、二人であれば大丈夫でしょう」
「もちろんです、マテラ先生!」「私とウィスさんを信用してくれてありがとうございます!」
というわけで、一応今後の方針は決まった。
キューちゃんは『フリーのSランク冒険者』として『赤槍』に近いギルドへ。
ウィスさんとマシロは、『なりたてのAランク冒険者』として末端ギルドに潜入し、そこから少しずつ上のギルドへ転職していくつもりらしい。
そして自分は、特にギルドに潜入するわけではなくてあちこちを飛び回りながら情報を集めつつ・・・みたいな立ち回りをすることになった。