Sランク冒険者認定試験(78)Aランク冒険者試験(12)
チシロさま(仮)は、大空洞の中心で弱化した爆撃魔法を発動すると、何事もなかったかのように羽を広げて飛び去っていきました。
残された私たちは大空洞の崖から、ただ呆然と見上げています。
やがてチシロさま(十中八九)の姿が見えなくなると、ブレドさんがポツリと話し始めます。
「・・・一体、何だったんだ? あれは」
「さあな。 だが結局俺たちのやることは変わらないだろ?」
「ブレドよ、ルフールの言う通りじゃ。 花と瘴気が残っておる限り、わしらはそれを取り除かねばならん」
「そうだな。 ・・・!? おいまさか?
ルフール、ジジイ! 瘴気を全く感じないのは俺だけか!?」
ブレドさんが言うように、洞窟内の瘴気は完全に掻き消えています。
おそらく、チシロさまとライアが発動したあの魔術がこの洞窟内の瘴気を『浄化』したのでしょう。
ライアならそれぐらいのことを平然とやってのけます。
あれだけの大爆発でも誰も傷一つ追っていないのは確かに違和感がありますが、まあチシロさまの魔術ですしね。
チシロさまであれば、それぐらいのこと無意識にやってのけます。
「先生、どうやら花から出てた瘴気も完全に止まっているようです」
「一体何が起こったって言うの!? 私たちは夢でも見ていたの?」
アサギパパとお姉さんは現実をうまく受け止めきれないのか、軽いパニック症状になっていますが、まあいずれ落ち着くでしょう。
それに対してブレドさん、ルフールさん、おじいちゃん先生の三人は「さすがは『Sランク』」といったところなのでしょうか、動揺している様子もありません。
Sランク以上のクエストにもなるとその場に集まった冒険者同士で即席チームを組むことは当たり前で、クエストの相性によっては「その場にいただけで何もせずにクエストが完了する」ということも珍しくはないらしいです。
要するに、慣れの問題なんでしょうね。
「・・・クエストも達成扱いになってやがるし、・・・俺たちも帰るか」
ブレドさんはステータスカードを一瞥し、軽くため息をついてこちらに見せてきます。
私のステータスカードは未だ『毒龍もどきの討伐』が『受注済み』の状態になっているのですが、もはや私の手からは完全に離れているので放置しておくしかなさそうですね。
今更手伝いに行ったところで流石に間に合わないでしょうし。
「そうじゃの。 暴れ足りない気持ちはあるが、弟子たちの試験も終わる頃合いじゃ。 むしろちょうど良いのかもしれぬな」
「そういえばそうだった、すっかり忘れてたぜ! アサギはうまくやっているだろうか・・・」
アサギパパと同じ発想なのは悔しいですが、私も試験のことは半分忘れてました・・・。
ウィスさんとマシロさまも合格しているといいんですが・・・。
「そういえば、マテラちゃんにとっては今回が『初めての冒険』になったわけよね。 終わり方はあっけなかったかもだけど、・・・どうだった?」
「そうですね。 お姉さんとパパさんがいろいろ教えてくれたおかげで勉強になりました! あと、すっごく楽しかったです!」
「そう、それは良かったわ! マテラちゃんならすぐに『Aランク』まで登ってこれると思う。 そしたらまた一緒に冒険しましょうね!」
「そんなことよりマテラちゃん、俺の弟子にならないか? アサギも友達が増えてよろこ、ブッ・・・」
「ちょっと! マテラちゃんの勧誘は禁止って決めてたでしょ! マテラちゃん、これの言うことは無視していいからね! マテラちゃんは、マテラちゃん自身が選んだ師匠やギルドの元で頑張るのよ! あ、でももし刀術に興味があるなら、『黒鉄』系列の刀系ギルドを紹介するから私に連絡してね!」
刀の柄がアサギパパの脇腹に突き刺さってものすごい痛そうなのですが・・・みなかったことにしましょう。
・・・とにかく。
今の私は、現役のAランクから見ても突出した才能に見えてしまうほどのようです。
今後低ランクのクエストに参加する時は傀儡の設定を調整したほうがいいかもしれません。
今回はそこまで「怪しまれる」ということもなく、ついでにこの傀儡の性能もある程度は把握できました。
ついでに、冒険者としての立場も手に入れることまでできましたので、あとは帰ってからウィスさんとマシロさまが『Aランク試験』に合格していれば言うことなしなのですが・・・。