転生生活1日目(3)
少し歩くと、小高い丘の上に出た。そこからは街の様子が一望できる。
森の中で迷っていたときはどうしたものかと思ったが、街は割と近くにあったようだ。
とはいえ、道案内があったからこそたどり着けたのであって、テンキさんに出会っていなかったら、今頃自分は野生動物のえさになって、最終的に植物の養分にでもなっていたかもしれない。
それを考えれば、テンキさんに出会えた自分は相当に運が良かったのだろう。
ここから見える街は、レンガ造りの建物が多く目について、和風か洋風かで答えるなら洋風といった感じだった。
大きさの基準はよく分からないけど、ぱっと見た感じそこそこ大きな街なようにも思える、すこし離れた丘の上にまで活気が伝わってくるぐらいだから、そこそこ賑わっているは間違いないだろう。
テンキさんはそのまま街に向かって歩いて行くので、ついていくと、数分後には街の門までたどり着いた。
門の前についた瞬間、テンキはポケットから取り出した端末を確認してなにやら操作して、街の中央にそびえ立つ巨大な塔を指でさしながら申し訳なさそうに口を開いた。
「すまん。わるいけど、俺の案内はココまでだ。『ギルド』に連絡は入れておいたから、あの塔の受付に言えばなんとかなるはずだ。ということで、あとは自分でなんとかしてくれ!」
「え? いえ、ここまで案内してもらっておいて、これ以上の贅沢は言いませんが・・・。でもたしか、自分の捜索は『クエスト』になってるんですよね。最後まで報告しないと報酬がもらえないんじゃないですか?」
「・・・まあ、そうなんだが。いや、すまない。実はさっき討伐した魔獣の処理が中途半端だったから早く戻って片付けたいんだ。あと、これは俺のこだわりなんだが、討伐以外ではクエストのポイントを稼ぎたくないというのもあって・・・」
どうやら、彼には彼の考えがあるみたいだ。
聞いた感じだと、冒険者になるとクエストでポイントを稼ぐことができるけど、テンキさんはそのポイントの稼ぎ方にこだわりを持っている感じなのだろうか。
魔獣の処理が必要というのも嘘ではないんだろうけど、こっちのこだわりの方が本音な気がする。
まあ、異世界と言うぐらいだからいろいろな人がいるのだろう。
本人が「それでいい」と言っているのだから、しかたないし、それでも「ついてきてください」と言えるほどに自分は図々しくなれない・・・。
「そういうことなら、仕方ないね。とりあえず案内ありがとう。ここからは自分で頑張るよ」
「ああ! じゃあな、チシロ!」
「じゃあな!」
森に向かって走って行くテンキさんの様子を見送って、自分はひとまず塔に向かって歩くことにした。