黄金戦争(72)襲名戦争・終結(5)
戦いは『黄金』の勝利で終わったけれど、その後が大変だった。
無駄に発展した街の運営は基本的に『ギルド』の仕事なんだけど、『ギルド』から『黄金』を指名する形でクエストが発行され続けたので、結局『黄金』は総力をあげて街の運営を手伝うことになった。
特に大活躍したらしいのは、事務能力に特化したメリアさんと、元『ギルド』職員だったソーダさんの2人らしく、2人とも最終的には『ギルド』から猛烈なスカウトを受けていた。
一応、一般的に『ギルド』職員は「この世界では最高峰な仕事」と言われているらしいけど、ソーダさんによると「でもそれって、『ギルド』が意図的に流している情報操作の結果に過ぎないデース」とのことで、実際のところは仕事はきついし、達成感も少ないし、しかも給料も安い(※あくまでも個人の感想です)らしく、話を聞く前はある程度興味を持っていたメリアさんもその話を聞いて希望を失った目でスカウトにくる『ギルド』の役員を見下すようになった。
『ギルド』の役員は「それは、そのアウロサウダージが特別、変な仕事ばかり引き当てるからで、普通の人はそんなことはない! 安心したまえ!」とか言っていたが、メリアさんもそんな都合のいい話は信用しない。
こっちとしては、ソーダさんの凶悪なまでのくじ運の悪さをつい先程目の当たりにしたばかりなので、完全に疑うこともできないわけだけど・・・。
それに、なんだかんだ言って『黄金』も一応5大ギルドの一角で、知名度でいったら相当なものだし、最終的に「わざわざ『ギルド』に転職するまでもない」と判断し、『ギルド』の役員もその空気を感じたのか、最終的には諦めてもらうことができた。
その瞬間から『ギルド』から割り振られる仕事に遠慮が感じられなくなった気もするから、もう少し粘ってくれても良かった気もするんだけど・・・。
『黄金』にクエストという形で発行される業務は、そういう裏方の作業だけでなく、例えば集まった冒険者たちを相手に模擬戦を行ったり、イベントの司会みたいなことを任されたり、記者会見みたいに各地の情報局からインタビューを受けまくったりと、お祭り騒ぎを乗り切るために全員でなんでもやった。
アウラとキューちゃんに至っては、ステージ上で歌って踊って戦って。 という、アイドル(?)みたいなこともやっていた。
派手な魔法で少女たちが戦っている姿は、一種のヒーローショーみたいで見ているだけでも楽しかったし、お客さんも大満足していたみたい・・・なんだけど、問題は、みんながキューちゃんのことを「チシロさーん!」と、なぜか自分の名前で呼ぶこと。
もはや「クガネチシロ? 知ってるよ。 あのアイドルの・・・」というのが一般的な常識になりつつある。
むしろ今自分が「チシロです」って名乗ったら「あのアイドルが好き過ぎて改名しちゃったの!?」ってなりつつある。
なんとかせねば・・・。 なんともならんか。
ちなみに一応、すべての依頼は特別クエストという形で、通常のクエストよりも色のついた報酬が発生している。
メリアさんは、あまりの多忙さに光を失ったような目で通帳を見てニヤニヤ笑っていた。 怖い。
ソーダさんは、メリアさんと完全にランダムで仕事を分担しているはずなのに、不正会計の資料や厄介ごとを抱えている店舗の調査などの面倒な仕事ばかりが割り当てられていた。 しかもソーダさん自身は「これぐらいならいつものことです」と、特に気にした様子もなく淡々と業務をこなしている。
アウラとキューちゃんは、なんだかんだアイドル業が気に入ったようで、積極的にライブを開催している。
自分とおやっさんはアウラとキューちゃんのサポートがメインで、たまにメリアさんやソーダさんの手伝いをして・・・と、雑用 兼 マネージャーみたいなポジションに落ち着いた。
シロヒメさんとクロヒメさんは、さすがに『黄金』のメンバーではないので、仕事を手伝ってもらうわけにもいかず、今頃は普通にお祭り騒ぎを楽しんでいるか、あるいは一足先にこの街から離れているのかもしれない。
自分たちの努力の賜物か、このお祭り騒ぎは一週間以上も続き、しかもこのまま数ヶ月以上は続いていきそうな雰囲気すらあるらしい。
今後少しずつ落ち着きを取り戻していくことにはなるのだろうが、それでも最終的にそこそこの都市レベルの活気は保つつもりなのだとか。
『ギルド』は正式にこの都市に職員を増員することが決定しており、すでに何名かは配属されているので、『黄金』に発行される臨時依頼の量も落ち着いてきた。
アウラが「そろそろ私たちも撤退しましょうか」と判断したので、懐かしの本拠点に戻ることに。
森の中を歩いて拠点に向かっていると、森の奥から数多くの野生動物たちの視線を感じた。
特に敵意とかは感じなかったから、もしかしたら自分たちが戦争に勝ったことを祝福してくれているのかもしれない。
・・・なんてね、野生動物がそこまで考えているとは思えないし、そもそも祝福してくれる理由もないんだけどね。
とにかく、こうしてようやく自分たちに平穏が訪れた。