黄金戦争(63)襲名戦争・個人対戦(二日目)(8)
午前中に予定されていた3戦が終わったので午後までは休憩時間だと言われたけれど、とてもこの格好じゃ外に気晴らしに行くこともできそうにない。
ラビさんはこちらの事情がなんとなくわかってくれたのか、「仕方・・・ないですね」と言って、自分のために昼食を買ってきてくれているらしい。
ラビさんは「料金は『黄金』から引いておきます・・・」と言っていたけど、使いパシリみたいにしてしまって申し訳なく思わないでもない。
けれど、せっかく四人で一人きりになれる時間ができたので、せめてこの格好だけでもなんとかする方法を考えなければ・・・。
<<チシロさま、まずはその派手な鎧から、なんとかなりませんか?>>
「いや、なんとかと言われても・・・」
<<うむ。 現在『精霊力』の所有権はチシロにあるゆえ、我らでは干渉できぬ状態である>>
<<チシロくん、まずは騙されたと思って、鎧の姿が変わる様子をイメージしてみてよ!>>
リオに言われた通りに、鏡を見ながら鎧が歪む様子を想像すると、イメージした通りに精霊力がウネウネ動いた。
もしかしたら自分は無意識のうちに『結晶化した精霊力は操れない』と思っているのかもしれないけど、これなら例えば糸のように伸ばして蜘蛛人間ごっこができたりもできそうだ。
細い糸状に伸ばすと、そこそこの強度はあるみたいで、だいぶ強く引っ張らないと切れないし、特性もいじれるようで、粘着力をもたせたり、延性や展性をもたせたり、逆に硬度を高めたりもできるようだ。
砕けたりして自分の手元を離れた精霊力は粒子状になって自動的に自分の元に集まるみたいなので、他人に貸し与えることはできないのが欠点といえば欠点だけど。
<<うむ。 どうやら変形はできても質量の変化はないようであるな>>
<<そうですね・・・。 チシロさま、せっかくなので刀の鞘にしてみてはどうでしょう>>
<<残った精霊力は、リングとかネックレスにして身につけておくのもいいかもしれないね>>
「えっと、刀の鞘と、リング・・・こんな感じかな?」
マテラに言われた通りに、精霊力を変形させて刀の鞘の形にして、右手に持っていた刀を収める。
ついでに、精霊力の小太刀の鞘も作り、ふた振りの刀を腰に下げると、ようやく両手が自由になった。
次に、リオに言われた通り精霊力をアクセサリーにしてみたのだが、それでもだいぶ質量が余ったので残りはローブの内側に沿うように薄く伸ばして外からは見えないようにして・・・。
鏡を見ると、ギラギラ輝く鞘を腰に下げて、頭上には王冠を乗せたオッドアイの、まるでどこかのゲームやラノベの主人公の格好をした自分が写っている。
「これぐらいなら・・・まだまし、かな」
まだまだ刀と鞘が悪目立ちしてる気もするけど、全身に鎧を身にまとっているよりはかなりマシになったはずだ。
いつまでも融合状態でいるわけにもいかないから、いつかは元に戻る方法を探さないとだけど、しばらくはこの姿ならなんとかなる。 はず・・・。
「・・・チシロさん、お待たせしまし・・・融合解除でき・・・た、わけではなさそうですね」
「ええ、はい。 まあそれはおいおい考えることにします」
昼食を買って戻ってきてくれたラビさんが、自分の鎧が消えたのをみて一瞬喜んだ顔をして、その後頭上の王冠と瞳の色を見て、さらには輝くふた振りの刀と鞘に気がついて、複雑そうな顔をして、でも最後には「どうでもいいや」みたいな顔で吹っ切れていた。
「チシロさん、昼食を用意しました。 次の試合は今からちょうど1時間後です」
「ありがとうございます、ラビさん。 それじゃあ、いただきます・・・」